第21話

 (※クレイグ視点)


 僕たちは家に到着して、祝杯を挙げていた。

 

 これでようやく、新しいスタートが切れる。

 僕たちの新たな商売、それは、薬膳料理の店を出すことである。


 まず、料理に盗んだポーショソを混ぜる。

 それによって店の料理は、食べれば元気になり、回復力が高まる料理に化ける。

 ポーショソの効果が料理に混ぜてもあることは、先ほど実験で証明された。


 毎回料理に混ぜるわけではないので、それほど量が必要なわけではない。

 盗んだもので、おそらく一年は乗り切れるだろう。


 要は、そういう噂を最初に作れば、あとは勝手に口コミで広がっていく。

 人間は、思い込みが激しいものである。

 実際にポーショソを入れていなくても、何となく元気になったように感じるはずだ。

 もともと薬膳料理なので、効果はゼロではないはずだから、間違いなく錯覚する。


 これで、店は大繁盛するはずだ。

 おまけに、街の人たちが元気になれば、マーガレットの店の需要は低下する。

 まさに、一石二鳥だ。

 僕たちにとってはいい金儲けになるし、完璧である。


 僕たちはみんな笑顔になっていた。

 しかし、そんな楽しい時間を邪魔する者たちが、突然現れたのである。


「どうも、みなさん」


 家に入ってきたのは、憲兵を引き連れてきたマーガレットだった。

 あまりに突然のことで、頭が混乱していた。

 どうして、彼女がこんなところに……。


「あなたを、窃盗の容疑で逮捕します」


 僕は憲兵に、手錠をかけられた。

 どうしてだ?

 意味が分からない……。

 なぜ、バレたんだ……。


「待ってくれ! 何かの間違いだ! 僕は何もやっていない!」


「嘘はやめた方がいいですよ。あなたが私の店の中に侵入したことは、わかっています」


「適当なことを言うな! 僕はそんなことはしていない!」


 僕は誤魔化すのに必死だった。

 額からは、汗が流れている。

 とにかく、この状況を何とかしなければ……。


「いいえ、私は、あなただと分かっていますよ。この目で見ましたから」


「どうしてそうやって、適当なことを言うんだ?」


「あなた、うねり声のような物を聞いて、私の店から飛び出して言ったでしょう?」


「……え?」

 

 いったい、どうして……。

 どうして彼女が、そのことを知っているんだ?


「私はあの時、店の中にいたのです。店の電気を消して、帰ろうとしていたら、あなたが店の外にいるのが見えました。私は嫌な予感がしたので、急いでカウンターの奥に隠れたのです。すると、あなたが店の中に入ってきて、商品を盗んでいた。私は、あなたが決定的な証拠を回収しようとしていたので、とっさにこの世のものとは思えない唸り声を出しました。まあ、単にものすごく低い震えた声を出しただけなのですけれどね。あなたが怖がりなことは知っていましたから、案の定、一目散に逃げていきました。これを回収するのも忘れて」


 彼女がそう言って僕に見せてきたのは、ポーショソが入っているケースについていたテープだった。

 僕はそれを見て、体が震えていた。

 そうだ……、あの時、逃げるのに必死で、回収し損ねた。 

 しかもそのことを、失念していた……。


「テープからは、あなたの指紋が検出されました。何か、言い訳はありますか?」


 彼女の言葉を聞いても、僕は何も言い返せなかった。

 言い訳なんて、何も思いつかない。

 そうだ……、リズたちに、助けてもらおう。

 偽のアリバイを証言してもらえば、何とかなるかもしれない。


「なあ、リズ、今日僕はずっと、君たちと一緒にいたよな?」


 僕は彼女に助けを求める表情で言った。

 彼女なら、愛する者のピンチを何とかしてくれるはずだ。


 そう思っていたが……。 

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