第19話
(※クレイグ視点)
僕は剥がしたテープを回収しようと思って、台の上に手を伸ばした。
しかし、その時、突然叫び声が聞こえた。
この世のものとは思えない……、唸るような、低くて恐ろしい声だった。
僕はその声に驚いて、涙が出るほど恐怖を感じた。
いや、実際に出ていたかもしれない。
もしかしたら、涙以外も出ていたかもしれないが、そんなことに気をかけているほどの余裕もなく、僕は一目散に出口に向かって走った。
いったい、なんなんだ!?
もう、嫌だ……。
どうして、僕がこんな恐ろしい目に……。
足が震えていたが、それでも僕は必死に走った。
もう二度と、こんな暗くて不気味なところに一人で行くなんていうシチュエーションは御免だ……。
「はあ……、はあ……」
店を飛び出してからも、僕はしばらく走り続けた。
どれくらい走っただろう……。
息が上がり、もう走れなくなって、僕は足を止めた。
呼吸を整えつつ、とりあえず冷静になろうとした。
まさか、あんな恐怖体験をすることになるなんて……。
人ならざる者は、やはり存在するのだ……。
その存在を信じるには、充分なほどの恐怖だった。
えっと……、そうだ、バッグは!?
「あぁ……、よかった……」
僕は安堵のため息をついた。
突然とんでもない目に遭って走って逃げてきたが、あの時床に置いていたバッグは、無意識のうちに掴んでいたようだ。
中身も確認した。
瓶はきちんと入っている。
そして、瓶の状態も問題ない。
あれだけ走ったから、バッグはかなり揺れたはずだ。
それでも、瓶が割れている様子はない。
あぁ、緩衝材を買っておいて、本当によかった……。
さすが僕だ。
不測の事態が起きても、入念な準備があったから、何とか乗り越えることができた。
僕は呼吸が整ったので、大きく息を吐いて、リズの店に向かった。
カギは彼女から預かってある。
店に着いたので、カギを開けて店の中に入った。
そして、バッグを台の上に置いた。
「ふぅ……、任務完了だ……」
これで、リズも喜んでくれる。
この盗んだポーショソを使って、新たな商売を始める。
それが、お義父様の計画だ。
僕はそのために、このような任務を頼まれたというわけである。
そして僕は、その任務をやり遂げた。
これで、新たな商売を始めることができる。
もちろん、このままポーショソを売るわけではない。
そんなことをしたら、盗品だとすぐにばれてしまう。
なぜなら、あの時在庫はすべて押収されたので、うちには在庫が一つもなく、製造することもできないからだ。
だから、また同じ商売を始めたとしても、出所は必ず調べられる。
そしてそんなことをされたら、盗品だとバレてしまう。
その辺はきちんと考えてある。
さすが、お義父様だ。
この新たな商売なら、僕たちは儲けつつ、マーガレットの商売も少なからず邪魔できる。
まさに、一石二鳥だ。
何もかも、うまくいっている。
僕たちが成功することは、確実である。
今のところは順調だ。
見落としや計画の穴などもないし、成功まであと一歩である……。
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