第18話

 (※クレイグ視点)


 さて、とりあえず、準備は済ませた。


 あとは、行動に移すだけである。

 これから僕がすることは、いくつか法に触れることだ。

 しかし、そんなことは関係ない。

 僕たちの生活のため、そして何より、リズのためだ。

  

 僕がこの作戦を成し遂げたら、リズの助けになる。

 彼女が喜ぶのなら、少々手を汚すことなど厭わない。

 なぜなら、僕はリズのことを、心の底から愛しているからだ。


「よし、ちょうどいい時間になったな……」


 必要なものを色々と買い揃えている間に、すっかり夜になっていた。

 しかし、作戦決行は夜の方が人目につかないので都合がいい。

 僕はさっそく、目的の場所を目指した。

 歩いている間に、リズのことが頭に浮かんだ。


 この作戦が成功すれば、彼女の喜ぶ顔が見られる。

 僕のことも、褒めてくれるだろう。

 そんなことを想像して、思わず頬が緩んでいた。


 目的の場所に着いた。

 ここからは、気を引き締めないといけない。

 到着した場所は、マーガレットの店だった。


 僕は周りを見渡した。

 歩いている人は、誰もいない。

 立地の悪いところに店があるので、この時間になると人通りが少ないことは計算済みだ。

 店の明かりもついていない。

 営業時間は過ぎているので、マーガレットは帰ったのだろう。


「さて、入るか……」


 もちろん、侵入するだから、法を犯すことになる。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 リズのためになるというのなら、法を犯すなど些細なことだ。

 さて、まずは、入り口のドアのカギを開けなければならない。


 僕は、持っていたバックから、ツールを取り出した。

 今日色々と買い揃えたもののうちの一つだ。

 まずは、ドアノブを回した。


「……あれ?」


 店の中が暗いので、てっきりカギは閉まっていると思い込んでいたが、普通にドアが開いた。

 あぁ……、そういうことか……、馬鹿だな、マーガレット。

 カギを閉め忘れるなんて、店主失格だぞ……。


 せっかく用意したツールが無駄になったが、手間が省けたので助かった。

 人目に付きにくいとはいえ、できれば時間はかけたくない。

 僕は店の中に侵入した。

 もちろん、手袋をしている。

 これも、今日買ってきた新品だから、穴が開いているなんてこともない。


 指紋を残すわけにはいかないから、当然の準備である。

 店内は暗いが、しばらくすると目が慣れてきた。

 しかし、暗いところは苦手である。

 なんだか不気味だし、背筋が寒いように感じる。

 こういう暗いところで一人きりという状況に、僕は少し震えていた。

 しかし、怖がってばかりもいられない。


 僕は目標の物の場所に向かった。

 僕のここに侵入した目的は、ポーショソを手に入れるためだ。


 ポーショソが置いてある棚の前に、僕は立っていた。

 蓋つきのケースが、棚の台に固定されている。

 ケースごと持って帰るのは不可能だ。

 そこで僕は、ケースのふたを開けて、瓶を取り出して持って帰ることにした。


 ケースの蓋を開けようとしたが、開かない。

 少し、焦りを感じ始めた。

 カギがかかっているのか?

 しかし、よく見ると、蓋がテープで固定されている。

 どうやらこのテープのせいで、蓋が開かなかったみたいだ。


 僕はさっそく、テープをはがそうとした。

 しかし、なかなか剥がせない。

 ピッキングのためのツールで剥がそうと試みたが、それもどうもうまくいかなかった。

 仕方がないので、手袋を外して、爪で剥がすことにした。

 外すのは片方だけで、ケースには触れないように注意した。


 何度か爪でテープをこすっていると少しはがれたので、テープを引っ張って一気に剥がした。

 剥がしたテープをくるくると丸めて、台の上に置いた。

 そして、ケースの蓋を開けた。

 あとは、この瓶を取り出して回収すればいいだけだ。


 おっと……、そうだ、テープには指紋がついてしまっているから、これも回収しておかないといけない。

 まあ、とりあえず瓶の方が先だ。

 僕はケースから瓶を取り出し、持ってきていたバッグの中に入れた。

 緩衝材を挟んでいるので、何本も入れても、瓶が割れる心配はない。

 あぁ、入念な準備をしておいてよかった。


 これでやっと、この暗くて怖い場所からおさらばできる。

 あとは、剥がしたテープを回収するだけだ。

 僕は台の上に置いていたテープを回収しようとした。


 しかしその時、心臓が飛び出しそうなほど、驚くことが起きたのである……。

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