第15話

 (※リズ視点)


 私は店の外の人だかりを見て、気分をよくしていた。


 掃除も終わったし、そろそろ開店の時間ね。

 さて、朝からこれだけ客がいるのだから、今日の売り上げは、なかなか期待できるわね。

 私は鼻歌を歌いながら、店の扉を開いた。


「いらっしゃいませ」


 私は笑顔で客を出迎えた。

 しかし、外のいた人たちは、そんな私に突然、罵声を浴びせ始めた。


「ちょっと、どうなっているんですか! 貴女の店の商品を飲んだ妻の体調が、余計に悪化しましたよ!」


「そうよ! うちも子供に飲ませたら、吐いてしまったわ! いったい、どうなっているの!?」


「うちの旦那も飲んだけど、ずっと寝込んだままよ! 今までは、こんなことはなかったのに!」


「そうだ! 今まではこんなことはなかった! いったい、どうなっているんだ!? 何か、余計なものでも入れたのか!?」


 彼らの声を聞いて、私は混乱していた。

 いったい、どうなっているの?

 どうして彼らは、こんなにも怒っているの?

 体調が悪くなった?

 そんなはずはない。

 だって、ポーションを飲めば、体調は回復するはずだから……。

 私は彼らに、反論を試みることにした。


「あの、きちんと適量を飲みましたか? 薬といっても、過剰摂取は身体に毒ですよ。きちんと注意書きは読みましたか?」


 私は彼らの勢いに気圧されず、毅然とした態度で対応した。

 しかし……。


「ふざけるな! 客のせいだって言いたいのか!?」


「そうよ! 私たちに責任を擦り付けるなんて、最低だわ!」


「注意書きくらい、きちんと読んだわよ! 用量を守って飲んだのに、息子はさらに体調を崩したのよ!」


「客のせいにする前に、自分の職務怠慢を疑え!」


「そうだ! 間違えて、何かほかのものでも入れたんじゃないのか!?」


「客のせいにして、私たちをクレーマー扱いする気なんですか!? そんなこと、許されませんよ!」


「こんな店の商品なんて、買うんじゃなかった!」


 どうやら私の態度は、火に油を注ぐ結果になってしまったようである。

 今日はかなりの売り上げだと期待していたのに、まさか全員クレームのために来ていたなんて……。


 なんとかして、この騒ぎを収めないと……。


     *


 私は少し長めの休暇を満喫していた。


 一人でのんびりと過ごしたり、ルーカスさんとお出かけしたりして、リフレッシュしていた。

 最近はずっと仕事漬けだったので、こういう楽しい気分になれるのは久しぶりである。


 休暇は今日が最後で、明日からまた仕事を再開しようと思っていた。

 とりあえず、細々と続けていれば、そのうち客はうちに来るようになる。

 だって、リズのお店は在庫が切れたら、それでお終いだから。

 彼女のお店は、メーカーではなく、単なる販売店である。


 それに比べて、私はメーカー兼販売店なので、在庫はいくらでもある。

 リズのお店の在庫がなくなれば、客がこちらに流れるのは自明だ。


「あれ? なんだろう?」


 となりを歩いていたルーカスさんが、遠くを眺めながら呟いた。

 私もそちらを見てみると、物凄い人だかりができていた。

 えっと、あっちは、リズのお店の辺りね。

 何か、あったのかしら……。


 私はルーカスさんと共に、そちらへ歩いて向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る