第12話

 私はリズとの勝負に負けたので、契約書で交わした約束通り、お店は一か月間の営業停止となった。


 ここ最近は、新しい商品を作って、お店を出したりして忙しかったので、ほとんど休む暇もなかった。

 だから、ちょうどいい休暇である。


「マーガレット……、勝負のことは、本当に残念だよ。でも、僕は公平なジャッジをする立場だったから、君の肩を持つわけにもいかなかった……」


 ルーカスさんが、申し訳なさそうに言う。

 彼は何も悪くない。

 ただ公平にジャッジしただけである。


「気にしないでください。私が負けたのは、ルーカスさんのせいではありません。それに、この勝負は、勝っても負けても、どちらでもよかったのです」


「え……、そうなのか?」


 彼は、驚いた表情だった。


「これで、リズたちは遠くない未来、私を追い出したことを後悔することになりますよ。少し離れた視点で見ると、負けているのは彼女の方なのです」


「え……、それって、いったいどういう……、ああ、そういうことか!」


 どうやら彼は、気付いたようである。

 私の方に、笑顔を向けていた。


「ええ……、そういうことです」


 私は微笑みながら答えた。


     *


 (※リズ視点)


 私は帰って、お父様たちに勝利の報告をした。


 みんなはそれを聞いて、大喜びだった。

 その様子を見て、私も笑顔になっていた。


「さすがだ、リズ! やはり君の方が、マーガレットよりも何倍も優れているよ!」


「やったわね、リズ! あなたは、私の自慢の娘よ!」


「これでようやく、邪魔者は消えたな! それもこれも、リズが考えた策のおかげだ!」


「ありがとう、みんな。でもね、みんなの協力があったから、私は、いえ、私たちは勝つことができたのよ。だからみんな、今日は盛大にお祝いしましょう!」


 そこからは、宴が始まった。

 美味しい料理、美味しいお酒、そして、負けを告げられた時のお姉さまの話。

 どれも最高だった。

 私たちは皆、笑ってその夜を過ごした。


 そして、翌日になった。

 もう、客を奪ってくるライバル店はいない。

 ポーションは定価に戻して売り始めた。

 

 お姉さまとの勝負の時に割引セールをしたので、その時に買いだめした人たちがたくさんいる。

 だから、客がたくさん来るということはなかった。

 しかしそれでも、お姉さまのお店はないので、そこそこの数のお客さんが、毎日来てくれる。

 買いだめしたお客さんも、そのうちまた買いに来るのだから、気にすることはない。

 ライバル店はないから、うちの独占状態である。


 そして、一か月が経過した。

 お姉さまの店が、復帰する頃である。

 でも、もう遅い。

 私のお店の在庫は、ほとんど売り終えていた。


 二、三年分くらいあったけれど、それがすでに、半年分くらいになっていた。

 ここ数か月で、かなり売れた。

 特にお姉さまとの勝負期間に売れた数がかなり多かった。

 一年分以上売れたけれど、大半が、勝負の最後の二週間の間に売れたものだ。

 在庫を売り切るまで、あともう少し……。


 今更お姉さまが復帰して邪魔をしてきたところで、何も支障はない。

 いくら邪魔をしても、もう手遅れなのよ。

 私たちは在庫を全部売りきって、優雅な生活を送るわ。

 それも全部、お姉さまから奪ったもののおかげよ。

 だから少しくらいは、感謝してあげてもいいわ。


「あぁ……、お姉さまから何もかも奪って、本当によかったわ……」


 私は笑みを浮かべていた。

 あと一年も経たないうちに、在庫はすべて売り切ることができる。

 これで、優雅な生活が……。


 ……あれ?

 えっと……、ちょっと待って……。

 大半の在庫が売れたのは、お姉さまとの勝負期間で……、その間は、割引セールをしていた……。

 最後の二週間なんて、九割引きセールだった……。


 え……、嘘でしょう!?

 まずいわ!

 なんてことなの……。


 私たちは、お姉さまとの勝負に勝った。

 でも、私はその勝負のことしか見えていなかった。

 どうやってお姉さまに勝つか、そればかり考えていた。


「もう少しで在庫が売り切れるわけじゃない……。このままだと、在庫が足りないわ!」


 まさか……、ここまでお姉さまの、計算通りなの!?

 あの時点ですでに、お姉さまはもっと先を見据えていた……。

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