第11話
(※リズ視点)
「それでは、売り上げ数が多かった者を発表する」
お姉さまのお店で、ルーカス様が言った。
私とお姉さまは、彼の次の言葉を待った。
「この勝負、勝ったのは……、リズの店だ。彼女の、圧倒的な勝利だ」
「やったわ!!!」
その結果を聞いて、私は思わず飛び上がった。
結果は最初からわかりきっていたけれど、やはりそれでも嬉しいものである。
私は勝った。
お姉さまに、勝つことができた。
私は勝利の喜びをかみしめていた。
一方、お姉さまはというと……。
「そうですか……」
お姉さまは、無表情だった。
でも、私にはわかる。
お姉さまは、悔しがる姿を私に見られたくないから、必死に堪えているのだ。
あぁ、惨めね、お姉さま……。
あれだけ大口を叩いておいて、私に圧倒的な差を見せつけられての敗北。
さぞ悔しいでしょうね。
今、どんな気持ちなんですか?
必死に無表情を装っているみたいですけれど、悔しがっているのがバレバレですよ。
「残念だったわね、お姉さま! 私の圧倒的な勝利よ! これで、どちらが有能なのか、はっきりしたわね! 私には、お姉さまの小細工なんて通用しなかった。そして、私の策に、お姉さまは成す術がなかった。それが、この結果を招いたのよ! 本当は、悔しくて泣きたいけれど、我慢しているのでしょう!? あぁ、本当に惨めだわ、お姉さま!」
私の言葉を聞いて、お姉さまはうつむいた。
どうやら私に、悔しがっている表情を見られたくないようだ。
でも、そうやって俯くのが、私の言葉が効いている証拠だわ。
だから、もっと言ってあげる。
「惨めに屋敷から追い出された腹いせに、私たちの邪魔でもしようと企んでいたのでしょう? でも、それは見事に失敗した。ねえ、今どんな気持ちなの? 復讐を誓って精一杯頑張ったのに、それでもまったく望みに手が届かなかった今、どんな気持ちなの? うつむいてないで、何か言ったらどうなの? あぁ、悔しくて泣いている顔を見られたくないのに必死で、俯くことしかできないのね!」
お姉さまは、うつむいたまま震えている。
あぁ、笑える。
震えるほど悔しくて、そんな表情を私に見られないように俯いている。
でもね、そうやって必死に隠せば隠すほど、私の目にはお姉さまが惨めに映るのよ。
私はますます気分が良くなっていた。
「あぁ、そうだわ、お姉さま。ルーカス様に、勝負をなかったことにしてもらえるように、お願いしてみたらいかがかしら? お姉さまが必死になって懇願したら、取り消してもらえるかもしれないわよ。まあ、そんなことになったら、一族の恥となったルーカス様が屋敷から追放されて、出資先であるこの店も、潰れることになるでしょうけれどね!」
私は高らかに笑っていた。
勝負は、私の圧勝で幕を閉じた。
そしてお姉さまは、この状況を覆すことはできない。
契約書に従って、約束は守ってもらう。
これでもう、私の店の邪魔をする者はいなくなった。
あとはいつも通り営業して、在庫をすべて売り切れば、優雅な生活が待っている。
お姉さまにもしっかりと格付けできたので、私は家に帰ることにした。
この結果を、みんなにも知らせてあげないといけないわ。
今日は、結果を発表された後のお姉さまの惨めな姿の話を肴に、みんなでいいお酒が飲めそうだわ……。
*
リズは高笑いをして、帰っていった。
勝負は、リズの完全勝利で終わった。
私はうつむいていた顔をあげた。
リズは私に向かって、悔しくて泣いている顔を見られたくないから、俯いているといった。
それは、半分は正解だけれど、半分は不正解だ。
表情を悟られないために俯ていたのは、その通りである。
でも、それは泣いている顔を見られたくないのではなく、笑っている顔を見られたくなかったからだ。
私はあの時、俯いたまま、ずっと笑っていた。
笑うのを我慢して、体が震えるほどだった。
勝負の結果が発表されて、最初の方は、無表情を装っていた。
しかし、私はポーカーフェイスがあまり得意ではない。
リズが高らかに勝利宣言して、嬉しさのあまりペラペラと語りだした時は、思わず笑いそうになったので、私は咄嗟に俯いた。
私が笑いを堪えているとは知らず、リズはずっと話しているから、かなり滑稽だった。
彼女は完全に浮かれている。
帰ってみんなに勝ったことを報告して、お酒でも飲んでバカ騒ぎするのでしょうね。
どうやら、彼女は何も気づいている様子はない。
それに、もし気付いたとしても、既に手遅れである。
確かにこの勝負は、彼女の圧勝で終わった。
でもね、リズ、もう少し大局的に見れば、あなたは既に負けているのよ……。
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