第8話

 私たちは、勝負に関することに同意して、契約書にサインした。

 そして、その契約書をルーカスさんに渡した。


「では、この勝負は、私が預かる。安心してくれ。私はマーガレットの店に出資しているが、ジャッジは公平に行う。クレイドル家の名を汚すような真似は、決してしない」


「それじゃあ、お姉さま。今から、負けた時の言い訳でも考えることをお勧めするわ」


「いいか? 契約書にまでサインしたんだから、約束は絶対に守ってもらうぞ」


 リズとお父様は、店から去っていった。

 二人とも、ルーカスさんの言葉を信じていた。

 まあ、それは当然だろう。

 伯爵家の名を汚すような真似を、彼がするとは思えない。

 もしこの勝負に私が負けても、彼は私に情けなんてかけない。


 勝負は、百パーセント公平である。


 あぁ、ついに始まるのね……。

 明日からの一か月間が、とても楽しみである。


 私は思わず、笑みを浮かべていた……。


     *


 (※リズ視点)


 翌日になり、今日からいよいよ、お姉さまとの勝負が始まる。


「あぁ……、馬鹿ね、お姉さま。私たちには、絶対に勝てるはずがないのに。少し考えればわかることなのに、どうして気付かないのかしら?」


 私は笑みを浮かべていた。

 なにか小細工はしてくるのでしょうけれど、私には通用しない。


 こちらには、があるのよ……。


 勝負は一か月間。

 お姉さまも、死に物狂いで勝ちに来るでしょうね。

 それだけ、負けた時のショックも大きいはずよ。

 もしかしたら、お姉さまは負けたら、大泣きして、ルーカス様に縋りつくかもしれない。

  

 でも、そんなことをしても無駄。

 この勝負においては、彼が情けをかけるはずがない。

 ありえないけれど、もし彼が契約書は無効なんて言い出しても、意味がない。

 契約書の写しは、お互いが持っている。


 私たちが契約したことを、なかったことにすることも、隠すこともできない。 

 彼がそんなことをすれば、クレイドル家から追放されるだろう。

 当然、あの店だって潰される。

 だからもう、お姉さまは勝負を仕掛けた時点から、負けているのよ。

 自分が勝てると思って、自信満々のようだったけれど、勝てるはずがない。

 そのことにお姉さまが気付くのには、一週間もあれば充分だろう。


 さて、売れ行きの方はというと、かなり順調だった。

 時々お姉さまの方の店の様子も見に行っていたけれど、客はこちらの方が圧倒的に多かった。

 しかし、勝負が三日目になった時、お姉さまの店に変化があった。

 ポーショソの値段を、一か月限定で、三割引きにしたのだ。

 当然そのことを、看板に書いて街に置いた。

 その効果もあって、お姉さまのお店には、客が殺到した。


 勝負は、売上額ではなく、売り上げたポーションの数での勝負だ。

 だから、価格を下げることは、確かに有効である。

 しかし、お姉さまのお店に客が殺到したのも、一時的なことだった。


 なぜなら、私たちのお店も、ポーションを三割引きにしたからだ。

 同じ条件なら、立地のいいこちらの店の方が、客は圧倒的に多かった。

 お姉さまは気付いていなかったようだけれど、立地が悪い以上、お姉さまの方が圧倒的に不利なのよ。

 値段を下げても、こちらがまねをすればいいだけ。

 勝負の決着は、始まる前からついていたようなものなのよ。


 今頃、お姉さまも気付いた頃かしら?

 自分が圧倒的に不利だと気付いて、勝負したことを後悔しているかもしれない。

 涙を流しながら、必死に策を考えている頃かしら……。


「つまらないわね、お姉さま。ここまで一方的だと、少し同情してしまうわ」


 私は勝利を確信していた。

 しかし、勝負から十日が経った日に、お姉さまのお店に変化があった。

 お姉さまは、店の営業時間をずらしてきたのだ。

 こちらの店は、大体朝から夕方くらいまで空いている。


 一方お姉さまは、夕方から夜中に営業時間を変更した。

 これなら確かに、買い物をするのが夜の時間帯の人は、向こうに流れるかもしれない。

 でも、それも無駄よ。

 私も営業時間をずらせばいいだけだから。

 まあ、そうしてもいいのだけれど、いつまでもお姉さまの真似ばかりして、イタチごっこになるのも少しつまらない。

 私は、笑みを浮かべた。


 そろそろここで、圧倒的な差を見せてお姉さまを絶望させるために、奥の手を使うことにするわ……。

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