第6話

 (※リズ視点)


「え……、そんな、まさか……」


 私のお店のライバル店の店主、その正体はなんと、お姉さまだった。


「どうしてお前がここにいるんだ!!」


 お父様は、心底驚いた表情だった。

 ほかにも客はいるけれど、そんなことはお構いなしに、お姉さまに怒鳴りつけていた。


「どうしているのかと言われましても、ここは私のお店ですから……」


 お姉さまは、困惑した表情で答えて、続ける。


「あの、それよりも、そんなに怒鳴り声を出さないでください。ほかのお客様に、迷惑です」


「なんだと!? この私に向かって、偉そうな口を利くな!」


 お父様は、カウンターの内側にいるお姉さまに詰め寄った。

 その様子を見て、ほかの客たちは店から出て行った。

 何人かまだ列にいたが、その人たちも、騒ぎを聞いて立ち去っていった。


「あぁ……、せっかくお客さんが来ていたのに……」


 お姉さまは、大きくため息をついた。


「今日はとりあえず、営業終了にしますか……」


 お姉さまは扉の方へ歩いて行って、カギを閉めた。


「それで、何か用ですか? 商品を買いに来たわけではないのですよね?」


「ええ、そうよ! 私たちは、お姉さまに、文句を言いに来たの! あの看板は、なんのつもり!? あんなの、許されないわ!」


「いえいえ、そんなことありませんよ。あそこはあなたたちのお店の敷地内よりもわずかに外なので、看板を置いても何の問題もありません。ただの営業の一環ですよ」


 お姉さまは、悪びれもせずに答えた。

 その様子を見て、お父様は震えていた。


「ふざけるな! 法的に問題なくても、私は許さないぞ! あんなことしたら、私たちの客が減るだろう! そんなこともわからないのか!?」


「法的に問題ないのなら、許されるとか許さないとか、そんなの関係ありませんよね? それに、客が減っているのは、あなたたちの営業努力が足りないからですよ。そんなこともわからないのですか?」


「貴様! この私を馬鹿にするなど、許さないぞ!」


 お父様が、お姉さまの胸倉を掴んだ。

 服が破れるのではないかというほど引っ張り、今にも殴り掛かりそうな勢いだった。

 しかし、カウンターの奥から、一人の人物が現れた。


「何か、怒鳴り声が聞こえたけれど、大丈夫?」


 奥から出てきた彼がそう言うと、お父様はすぐに手を離した。

 その人物はなんと、ルーカス・クレイドル様だった。

 どうして、彼がここに?


「大丈夫です。何も問題ありませんよ」


 お姉さまは、彼に答えた。


「あ、彼は、私のお店に出資してくれて、時々お店を手伝ってくれているのです」


 お姉さまは、こともなげに言った。

 え、ルーカス様が、お姉さまを手伝っている?

 いったい、どういうことなの?

 あのルーカス様がどうして、お姉さまなんかと一緒にいるのよ!?

 羨ましい……、じゃなくて、えっと、これは不都合なことになったわ。


 まさか、クレイドル家がこの店のバックにいるとは……。 

 私たちが怒鳴り込んで何か言ったとしても、閉店に追い込むことなんて不可能だわ。

 でも、このままだと、客を全部、お姉さまに取られてしまう。

 私は、いったいどうすれば……。


「まあ、でも確かに、お店の近くに看板を置くのは、少しやり過ぎたかもしれませんね。でも、こちらは新規の店なので、必死なのですよ」


「私たちだって、お姉さまの店ができたせいで、客が減っていい迷惑だわ!」


「でも、これは商売ですからね。文句を言われる筋合いではありません。まあ、看板の件は、さっきも言いましたけれど、少しやり過ぎましたね。法的に問題はないといっても、少し、非常識だったかもしれません。あ、お詫びと言ったらあれですけれど、一つ提案があります」


「提案? いったい、なんだ?」


 お父様がお姉さまに尋ねた。


「お店同士で、ある勝負をしませんか?」


 そう言ったお姉さまは、不敵な笑みを浮かべていた。

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