第5話
どうやら、リズのお店もポーションの値段を下げたらしい。
私の店にあるポーショソと同じ価格にして、そのことを知らせる立て看板を街に立てていた。
私はその看板を見て、笑みを浮かべていた。
リズのお店の宣伝の効果は、すぐに表れた。
こちらに流れていたお客さんは、また向こうに流れてしまった。
価格が同じなら、立地が悪いこの店にわざわざ訪れる必要はない。
立ち寄りやすいあちらの店に行く人が大多数なのは、当然のことだ。
リズのお店の場所は、そもそも私が決めていたものである。
立地がいいから、初めてのお店でも客が来ることを期待して、あの場所にお店を建てた。
しかし、今ではそのせいで、向こうに客が流れている。
そこで私は、ある策を考えた。
おそらく、向こうは怒るだろうけれど……。
*
(※リズ視点)
あぁ、本当によかった……。
あっちの店に流れていた客は、段々とこちらに戻ってきた。
一時はどうなるかと思ったけれど、私の対策のおかげで、客の数は元通りになった。
どうやら私には、商才があったようね。
初めての商売なのに、客を奪われても、それを見事に取り返した。
こんなこと、もしお姉さまがこの店の主のままだったら、できなかったでしょうね……。
きっと、慌てふためいて、泣いていたに違いないわ。
それに比べて私って、なんて有能なのかしら。
これで、私たちの生活も安泰だわ。
客の数も元通りになったことで、私はほっとしていた。
しかしある日、急に客の数が減ってしまった。
「いったい、どうしてなの!? 昨日までは、いつも通り、お客さんは来ていたのに……」
みんなもあわてていた。
しかし、お父様が、あるものを見つけた。
「みんな、店の外に来てくれ!」
私たちはお父様に呼ばれて、店の外へ出た。
そして、店から数メートルのところに、大きな立て看板があった。
「また、あの店だわ……」
お母様が、呟いた。
「いったい、これはどういうつもりなんだ!?」
クレイグが、苛立った様子で吐き捨てるように言った。
その看板に書かれていた内容に、私は目を通した。
「え……、そんな……」
そこには、一か月限定で、二割引きセールをすると書かれていた。
このせいで、客が向こうの店に流れてしまっていたのだ。
しかも、こんなに私の店の近くに看板を立てるなんて……。
いったい、どういうつもりなの!?
私は苛立っていた。
そして、苛立っているのは、私だけではなかった。
「もう我慢できない! こんなの、嫌がらせだ! この看板の店に行って、抗議してくる! どこのどいつだか知らないが、ふざけた真似をしやがって!」
お父様はいら立ちを隠そうともせず、速足で歩き始めた。
店番はクレイグとお母様に任せて、私もお父様について行った。
私たちは、看板に書かれていた地図に従い、店を目指して歩いた。
そして、ようやくその場所に到着した。
「どうやら、ここみたいね……」
店の前には、行列ができていた。
私たちは、その最後尾に並んだ。
段々と、列も捌けていく。
それだけ、このお店の利益は増えているということだ。
そしてその分、私の店が得られるはずだった利益が、減っている。
しかも、一か月限定セールということは、こんな状態がまだ続くというわけだ。
堂々と私の店のすぐそばに看板を立てるなんて、いい度胸しているわ。
あんなことして、私たちが黙っているとでも思ったのかしら?
列も捌けて、段々と店の入り口に近づいてきた。
店自体は狭いので、何人もの客が一気に入ることはできないようだ。
しかし、そのおかげで店の前には待っている人の行列ができる。
そして、行列を見れば、その人の目には人気があるように映る。
これも、行列が長くなることの要因の一つになっているのだろう。
いったい、この店の店主は、何ものなのかしら……。
今までほかには誰も作れなかった薬と、同じ効果のものを作った。
当然、材料は全然違うものだというのは、審査されているはずだ。
この店は、正当な手段で薬を売ると同時に、私たちにも喧嘩を売っている。
いったいどんな人物なのか、この目で確かめてあげるわ。
そして、うちの店のすぐそばに看板を置いたことを、正式に抗議してやる。
こっちは、子爵令嬢よ。
それに、お父様も一緒に来ている。
相手がだれであっても、これ以上好き勝手にはさせないわ。
いよいよ、私たちも店に入れるようになった。
「さて、こんなふざけた真似をしているのが誰なのか、その顔を拝ませてもらおうか」
お父様が扉を開いた。
そして、私はお父様と共に、店の中に入った。
「いったい、どういうことだ!?」
「え……、そんな、まさか……」
私たちは、驚いていた。
私の店から客を奪っていたライバル店の主、その人物の正体は……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます