第4話

 新しく始めた商売は、順調だった。


 苦労して作った薬の商品名は、ポーショソと名付けた。

 あれからいろいろと考え、いくつか名前を思いついたけれど、どれもしっくりこなかった。

 でも、大切な商品名だから、真面目に考えなければならないと思い、来る日も来る日も考えた。

 深い思考の海を漂い、そこから湧き上がるインスピレーションを感じ取り、これだ、という名前も、いくつか思いついた。


 しかし、やはり何かが違う。

 もっと、新たな始まりにふさわしい名前があるはずだ。

 そう思い、私はまた何日もの間、思考の海をさまよった。

 そして、時間をかけた深い思考の末に、何もかも面倒になり、名前なんて、なんでもいいじゃん、というエキセントリックな結論に至り、適当にふざけて名前を付けた次第である。


 そのような経緯で、ポーショソは生まれた。


 まあ、名前はともかく、売れ行きは好調である。

 ポーショソの価格は、ポーションより一割も安い。

 もともとの値段がそこそこ高いので、一割引きだとかなりお得だ。

 効果が同じなら、安い方を買う人がいるのは当然である。


 街には、いくつか立て看板を置いた。

 さらに、購入者の口コミもあり、ポーショソを買い求めるお客様は、後を絶たなかった。

 これにより、当然ながら、リズのお店の客は減っているだろう。

 でも、これは商売。


 文句を言われる筋合いはない。

 私は合法的に、商品を売っているだけだ。

 リズのお店より一割も安い価格だけれど、それでも充分に利益は出ている。

 そして、これらの利益の一部を、私はルーカスさんに渡している。


 彼は、このお店と土地を購入してくれた。

 その際に、きちんとそのお金は返すと約束していたのだ。

 彼は最初は断ったけれど、私が借りを作るのが嫌だからと説得すると、折れてくれた。

 要するに、彼は私のお店に投資してくれた形だ。

 そして、その初期投資の費用をペイできるほど、この店の利益は出ていた。


 今頃、リズたちはどうしているかしら?

 たぶん、お客さんが減っていることに、動揺しているでしょうね。

 もしかしたら、そろそろその原因も突き止めているかもしれない。

 客が奪われたと、嘆いているかもしれない。

 

 でも、これは商売なのですから、文句はありませんよね?

 

     *


 (※リズ視点)


「このお店が、私たちの客を奪っているのね!」


 私は憤慨していた。

 最近、客が段々と減っていると思ったけど、こういうことだったのね。

 ポーショソなんてふざけた名前を付けて、明らかに私たちの店を意識している。

 どうやら、ポーションと効果は同じらしい。

 しかも、その店が売っている商品の価格は、私たちより一割も安い。

 効果が同じなら、安い方に客が流れるのは、当然のことである。


 許せないわ……、どこの誰だか知らないけれど、私たちのお店に対する宣戦布告と受け取るわ!


 こちらも、黙って見過ごすわけにはいかない。

 ライバル店が現れた以上、私たちも、何か策を講じなければならない。

 まず、立て看板が気に入らない。

 街にいくつもあるようだけれど、これらのせいで、客が向こうの店に流れている。

 

 新しい店があると分かれば、立ち寄ってみたくなるのが人間の心理だ。

 しかも、こちらの店よりも安いと分かれば、向こうの常連になるのも仕方のないことである。

 だったら、こちらも看板を立てるしかない。

 そして、値段をあっちの店と同じにすればいいのよ!

 そのことを看板で宣伝すれば、流れた客も、またこちらに戻ってくるはずだ。

 

 看板に書かれている地図を見た限り、あちらは立地が悪い。

 同じ価格なら、立地が良くて立ち寄りやすいこちらの店を選ぶのが、人間の心理だ。


 私は、さっそく行動に移すことにした。

 価格を向こうの店と同じに設定し、そのことを知らせる立て看板を街に置いた。

 商売なんて初めてだけれど、私だって、やればできるのよ。

 あっちの店は立地の悪いところにあるから、またこちらに客が流れてきたら、あっちの店はつぶれるでしょうね。


 この時は、そう思っていたけれど、まさか、あんなことになるなんて……。

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