第3話

 私はクレイドル家の屋敷に着いた。


 屋敷にいる人たちへの挨拶を済ませ、私はルーカスさんに案内され、敷地内にある小さな建物に到着した。


「この建物は、君の好きに使っていい。ここなら、仕事もできるだろう」


「ありがとうございます!」


 私は嬉しかった。

 確かにここなら、私の仕事もできる。

 私の仕事、それは、人間の治癒力を高める薬を売ることだ。

 その名も、ポーションである。

 いや、売るだけではない。

 私は、ポーションを作ることができる。


 ポーションの効果は、怪我や病気の治りを早くすることである。

 それに、傷が残るような怪我でも、回復力を高めることによって、綺麗に治すことができる。

 そんなポーションをこの街で売って、私は利益を得ていた。

 しかし、その権利はすべて、リズに奪われてしまった。

 権利はすべて、彼女にある。

 だから、まったく同じものを作るわけにはいかない。


 そして、私はリズが言っていた言葉を思い出していた。

 私が屋敷から追放される時、彼女は私に用済みだといった。

 あの言葉の意味が、私にはわかっていた。


 リズが私から奪った店には、私が作ったポーションがいくつもある。

 寝る間も惜しんで作ったものだ。

 だいたい、二、三年分くらいはある。

 同じ効果の薬はほかにないので、それらを売れば、彼らはもう、働く必要もないほどの利益を得ることができる。


 だから、彼らは私がそれだけの在庫をそろえるのを待っていたのだ。

 そして、それらが揃ったので、示し合わせたように、邪魔者の私を屋敷から追い出した。

 ポーションを生み出す道具としての私は、もう用済みだということだ。

 今頃、、楽しく過ごしているのだろう。


 でも、そんな扱いを受けて黙っていられるほど、私はお人よしではない。

 あれだけの扱いを受けて、ようやく目が覚めた。

 私はもう、我慢するつもりはない。

 今までは我慢ばかりしていた。

 幼いころから染みついていたので、それが当たり前のことだと思っていた。


 でも、私はもう、我慢なんてしない。

 彼らには、報いを受けてもらう。

 私に理不尽なことをしてきた彼らが、私から奪った商売で楽に暮らすなんて、許せなかった。

 奪われたものは、奪い返す。


 そのために、私は毎日毎日、試行錯誤を繰り返した。

 そして二か月後、ポーションと同じ効果の薬を作ることに成功した。


「やったわ……、ようやく、完成した」


 これでようやく、準備は整った。

 材料は全く違うものを使っているので、権利の問題もない。

 名前も、ポーションのままではなく、何か考えないと……。

 えっと……、ローションだと、ヌルヌルしてそうだし……、レーションだと、パサパサしてそうだし……、うーん、名前を考えるのって、意外に難しいものね。


 まあ、名前はあとで考えればいい。

 とりあえず、商品は完成したので、それを売るための準備に取り掛かることにした。

 薬を作る場所はここにあるので、販売する店自体は、そんなに広い必要はない。


 私は街にある狭い倉庫のような建物を買って、少し手を加えた。

 そして、そこを販売場所にすることにした。

 狭くて立地は悪いけれど、その分安く購入することができた。

 あとは……、宣伝が必要ね。


 新規のお店だから、常連のお客様というものは存在しない。

 それに比べて、リズが私から奪ったお店は、常連客がたくさんいる。

 同じ効果の薬がほかにないのだから、たくさんの常連客がいるのも当然である。


 リズ……、私から奪ったお店で、たくさん利益を得ているのでしょうね。

 でも、それもここまでよ……。


     *


 (※リズ視点)


 お姉さまがいなくなってからも、私たちはお金に困ることはなかった。

 なぜなら、お姉さまのお店は、私が奪ったから。

 それに、たくさんの在庫がすでにあるので、私たちはそれらを店で売るだけでよかった。

 こんなに楽なことで、大金を手に入れることができる。


 こんな素敵なプレゼントをくれたお姉さまには、感謝しかないわ……。


 お姉さまが屋敷から出て行ってから一か月が経っても、売り上げに特に変化はなかった。

 しかし、二か月ほどたった頃、ある変化が起きた。


「最近、客が少し減ってきているな……」


 お父様がそう呟いた。

 確かにその通りだ。

 お店には、特に変化はない。

 それなのに、なぜか客が少なくなっている。


「いったい、どうして客が減っているんだ?」


 私の隣にいるクレイグが呟いた。

 確かにそれは気になる。

 お店にある在庫は、今まで通りのペースで売れば、二、三年ですべて売り切ることができる。

 しかし、このまま客が減り続けたら、十年、いや、何十年もかかるかもしれない。

 そんなのは、耐えられない。

 

 いったい、どうして客が減り始めたのよ……。


 私は少し、不安な気持ちになっていた。

 商売なんて、今までしたことがない。

 こんな時はどうすればいいのか、全然わからなかった。


「お客さんが減り始めた原因が、わかったわ!」


 街から帰ってきたお母様が、息を切らせながら言った。


「原因は何だったの?」


 私はお母様に尋ねた。


「みんな、私についてきて。アレを見ればわかるわ」


 私たちは、お母様について行った。

 店から数百メートル離れたところで、お母様は足を止めた。


「お客さんが減っていた原因は、これよ」


 お母様が指差したそこには、小さな立て看板があった。


「えっと……」


 私たちは、そこに書かれていた文字を読んだ。

 どうやら、新しいお店ができたらしい。

 そのお店の、場所が書かれてある。

 そして、一言メッセージが添えられていた。


「ポーショソ、売ってます!?」

 

 嫌な予感がした。

 まさか、これは……。

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