『影の八月』

 呟きのような、詩のような言葉が連なって一つの風景を形作っていきます。

それは「影の少年」の日常です。

読み進めていくと、これが終戦の前後であることがわかります。

「影の少年」が見た教わった命の、なんと暗く軽く薄いことか。


 「影の少年」は「空き地」で「見つけた」「玩具」で事故にあうのですが、それすらも軽い、いえ「無意味」な出来事のように語られます。

何しろ生きる目的が「死ぬ」ことなのです。


 「時は、死のためにあった。死を待つことが、生きるということだった。」


 これは今を生きる私たちには、実感しにくい少し遠い感覚ではないかと思います。

しかし、私たちの親、祖父母たちは確実に、もしかするとこれを読んでいる貴方はこの時代を生きたかもしれません。

そしてこれはもう終わった過去のことではなく、海を隔てた国のいくつかでは、今まさに「死を待つことが、生きるということ」という時を過ごしているのです。


 ある日を境に、「影の少年」の周りから「影」が消えていきます。

しかし、「死ぬために」生きろと教わった「少年」は、その「影」を脱ぐことが出来ないのです。

 

 お話しではこの後「少年」の孫が「古くさいノート」に書きつけられた「影の少年」のお話しを見つけて、「好き勝手に論評し」ます。

それを「祖父はただ笑って、なにも言わなかった」のでした。


 「影の少年」のお話しを「好き勝手に」言える時代になっているということでしょう。

平和と言い換えることが出来るかもしれません。

この時、「ただ笑って、なにも言わなかった」祖父・「影の少年」は何を思ったのでしょう。

どうかこの物語をお読みになって、一緒に考えてみませんか。


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koumoto様作

『影の八月』より

影の八月

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894628855

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