第4話 魔法の証明
雨音と雪音と一緒にコンビニで買った朝食を食べ、分かったことがある。
姉の雨音は、耳のあるパンが苦手で、紅茶は微糖でなくては飲めない。犬が好きで、猫は嫌い。夜に光る目が怖いらしい。
妹の雪音は、耳のあるパンが好きで、紅茶はストレートで飲む。猫が好きで、犬に追いかけられた事があり、それ以降苦手らしい。
それから、2人が瓜二つの姿から予測は付いていたが、やっぱり双子だった。けれど、見分ける手段は見つけた。
姉の雨音は、ツンとした目をしていて、感情の起伏が小さく、笑っても口角が少し上がるくらい。
妹の雪音は、雨音と比べると柔らかい目をしていて、感情の起伏が大きい、嬉しくても楽しくてもよく笑う。口を大きく開けて笑う癖があり、その度に雨音から「口に手を当てなさい」と注意を受けていた。
しかし、分かった事ばかりではない。2人が本当に魔女であるかだけは全く分からない。
十分に朝食を食べ終え2人はテレビを見ている。相変わらず、ニュースでは魔道司所関連の報道ばかりだ。考え過ぎの頭をクリアにするため、くしゃくしゃに潰れた煙草に火を付ける。コンビニからの帰り道、公園に立ち寄った。雪音の言う通り、誰かに踏まれたマルボロが落ちていた。それが、今、口に咥えている煙草の一本だ。
「なんで俺なんだ」
「何が?」
雨音が口を開いた。俺は、無自覚に幼さを感じる妹ではなく、知的な姉に語り掛ける様になってしまったらしい。
「なんで、俺に家族を探せって頼むんだ?」
「探偵だから」
質問が分かっていたように答えが返ってくる。
「探偵ならいくらでもいる。 それに、俺は普通の探偵じゃない」
「普通の探偵ってどうゆうの?」
雨音の質問に、少しだけ考え込んでしまった。俺の中の探偵の定義は曖昧だ。やはり、姉の雨音は、大人のような賢さを持っている。
「……魔法をほとんど使わない」
雨音は小さく口角を上げる。それは、大人がよくする笑い方だ。いつまでも子供のような憧れを追いかけている大人に向ける笑みと似ていた。
「誰だって魔法は使わないでしょ? 私たちからしたら、みんな偽物だもん」
魔女の冗談みたいだ、と思った。子供に揚げ足を取られた気分になり、居心地が悪い。
「なら、尚更、なんで俺なんだ。 魔女なら魔法で探せるだろ?」
「それはできない。 魔法は、とても繊細なの」
俺が否定的な意見を言う前に、間髪入れず雨音は言葉を続ける。
「おじさんは、自分の中にルールを持っているでしょ? 私たちの家族を探すには、そのルールが必要なの。 トロッコ問題って知ってる?」
「誰かを助けるために、他人を犠牲にするかってやつだろ」
「そう。 おじさんは、誰かのために他人を犠牲にできる。 もしかしたら、自分も犠牲にするかも」
彼女は本当に魔女かもしれない。思考は俺よりもずっと大人に見え、所作の一つ一つに妖艶さすら感じてしまう。
体を開けて全てを見られているような気味悪さを感じ、まだ3分の1も残っている煙草を灰皿に押し付けた。
「ここに住んでいい。 でも、その前に、やってもらいたいことがある」
テレビに釘付けだった雪音もこちらを向いた。雨音も真っすぐ俺を見ている。
「魔女かどうかはっきりさせよう。 家族探しはそれからだ」
2人が本当に魔女ならば、俺は魔女の家族を真剣に探さなくてはいけない。
逸話にある通り、片目が無い2人の子供、片腕の無い2人の子供、片足の無い2人の子供――それから、父親を探さなくてはいけない。
やり方は簡単だ。魔法を見ればいい。
俺は、ある場所へと電話を掛けた。
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