【お前がやれ】

「三波幸平へ


 よう、幸平。元気に社畜やってっか? 


 お前がこれを読んでいるってことは、もう俺はこの世にいないんだろうな。なにがなんでも余命宣告を乗り切って長生きしてやるつもりだったのに。けどまぁ、どうしようもないか。病に勝てってほうが無理な話だぜ。


 お前、見舞いに来た時にこっちの気も滅入るような話をしてくれたことがあったろう。覚えているか。「やりたいことだけやったらとっとと死にたい」って話。安っぽい言い方で申し訳ないが、俺は昨日のことのように覚えている。忘れられなかったんだ、どうしても。


 だから、俺からお前に頼みがある。俺のやりたかった100のこと、生前にできなかったことを、代わりにお前がやってくれ。無理にとは言わない。お前が高所恐怖症なことも、海を好きでないことも、英語の成績が学年一悪かったこともしっかり覚えている。それでも、俺のやりたかったことをお前に託す。できる範囲で良いから頑張ってくれ。


 それから、『これだけはやり切ってほしい』ってこと一つだけある。


 俺の、俺達の誕生日を、あと80回祝ってほしい。100のやりたいことはこの際どっちでもいい。でも、この『誕生祝い』だけは絶対に全うしろ。絶対にだぞ。……ふりじゃないからな?



 とにかく、以上が死んだ亡霊、溝口賢人からの頼み事だ。お前はもうしばらくこっちに来るなよ。


じゃあな、幸平。

               溝口賢人」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る