第11話 何事も慣れと流れとノリ。

 女子力ゲーム……それは勿論、女子力を上げるためのゲームなのだが、改めて考えると難しい……と、碧は悩んでいた。昨日の夜から。

 と、いうのも、学生になって初めてだからだ。お友達に「明日、女子力ゲームのために二人で会議しよう! そしてあのバカの肝臓を抜こう!」と由香に誘われた為だ。間違っていないかもしれないが、抜くのは度肝である。

 女子力という概念を自分が把握しきれていない、というのもあるけど、それ以上にそれをどう表現するのか、ということだ。

 可愛くすれば勝ち、なのかもしれないが、それは人それぞれだ。

 そもそも可愛さにも色々とジャンルがあり、オタク的なジャンルで分けるのであれば清純系、可愛い系、クール、活発的、中性的、セクシー、臆病、アホの子、美人、お好みの女子を、と言ったところか。

 それに優劣をつけるのはなんか性癖に優劣をつけていると思われそうで危ない気がするし……と、由香の為にも寝る前に意見をまとめておいた方が良いかも……気合いを入れすぎて朝になってた。


「……で、そんなに目が死んでるんだ」

「す……スミマセン……」


 初めて休日に友達と遊びに行くのに不備があってはいけない……念には念を入れて様々なパターンに備えて準備してきた結果、寝不足だった。


「で……でも、準備は完璧です……! お金、帽子、ハンカチ、水筒、懐中電灯、ビニール袋を念の為三つ、あと救急セットに、女子力ゲームに関する私なりの見識を纏めた資料を持ってきました……!」

「うん、ありがとう。でもいらないもの多いから、一旦帰ろっか?」


 あんまりのセリフに、少しショックさえ受けてしまった。


「えっ、な、何故ですか……? 自分では結構、断捨離してきたのですが……」

「他に何持ってくる気だったの」

「テントとか……」

「山籠りでもする気!?」

「い、いえ山籠りするにはテントだけでは足りませんので……」

「本気で言ってないから! 今のはツッコミだから!」


 もしかして、何かツッコミを入れられてしまうようなことをしているのだろうか? なんか……ちょっと気恥ずかしくなってきた。


「あのぅ……何がまずかったのでしょうか……?」

「荷物が多すぎるって言ってんの! 一体、何に備えてんの!?」

「ええっ!? に、日本は地震大国ですから万が一に備えて……!」

「アホかー! そんな大荷物じゃ歩くのも一苦労でしょ!」

「え、そ、そんなことありませんよ……?」

「なんで変なとこ逞しいの!」


 このくらい、初めてのお友達のためならなんでもない。ちょっと腰が痛いけど。


「何より!」

「ま、まだ何か!?」


 他にもまだ問題があるらしいが、ちょっと聞きたくない。耳を塞ごうとするが、その前にシュバッと続けて言われてしまった。


「私服がダサい!」

「ぐげぇっ……!」


 吐血しながら真後ろに吹っ飛んだ。効いた、小学生のドッジボールの時、コートの端っこでウジウジしてたらボディにもらった流れ弾より効いた。


「だ、大丈夫!? カエルみたいな声漏れてたけど……!」

「げろ〜……」

「ならなくて良いから!」


 無理、今のは無理。確かにオシャレはあまりしないし、自分を飾り立てることに興味もない。

 でも、去年同じクラスだった人がみんな着ていた服だ。間違いないと思っていたのに……。

 涙さえも出ず、とにかく泡を吹いて後ろにぶっ倒れた。


「でも、ジャージの下にクラスTシャツはないって! それ学祭だけだってダサくないの!」

「げこ〜……」

「その鳴き声やめて! 呪詛のような声音が耳に残る!」


 自分はダサい、自分はダサい、自分はダサイ……と、少しずつ意識が深遠に沈んでいく。ちなみに、クラスTシャツの名前の中に碧の名前はない。

 やはり、自分が休日に友達と遊ぶのは少し早かったということだろうか……?

 いや……高三になってもまだ早いって……それ一生無理なんじゃ……。

 そんな風に思ってしまったお陰で、さらに精神が崩壊した。


「ゲロゲロゲロゲログァッグァッグァッ」

「落ち着いて! あとそろそろ周りの人が見始めてるから勘弁して!」


 そうは言われても、頭の中はカエル一色。カエルと言えば、実はカエルの子は本当にカエルである事もあるらしい。おたまじゃくしを経由せず、卵から孵った時からカエルになっているカエルもいるそうだ。

 その手のカエルは、陸上で生活することが多いらしい……。


「分かった! うちが女の子らしくしてあげるから、とりあえず起きてー!」

「……」


 女の子、らしく……? 由香が、自分を……? と、ようやく耳に届いた言葉によって覚醒を果たす。


「あ、起きた!」

「ほんとに……?」

「ほんと!」

「こんなドスコイ豚テキ爆弾女みたいな女を……?」

「自分の事そんなふうに思ってたんか己は!?」


 不思議と自分を卑下する言葉は大量に浮かぶものだ。今の言葉は今、思いついたものだが。


「てか、半田先輩は可愛いから! だから自分をそんな風に言っちゃダメだって!」

「いえ……そのように、お気を遣わなくても……」

「今から証明してあげるから!」


 との事で、碧の家に向かった。


 ×××


 しかし、と由香はため息が漏れる。なんていうか、本当に変な奴らとつるむようになったものだ、と。

 まさか友達と遊びに行くのにクラスTシャツで来る女子高生がいると思わなかった。もう異文化人と話しているのかと錯覚した程だ。


「お邪魔しまーす」

「あ、あの……誰もいないので……あと、本当に部屋の中とか物色なさらないで下さいね……」

「何々、エロ本隠してんのー?」

「あー……い、いえ……隠しているというか、コミケで買ったエロ同人が本棚に……なので、本当にお願いします……」

「うちの知り合いはエロ本を隠すことを知らんのか!」


 なんで変な方向に堂々としているのか。もしかして、自分が知らないだけで、むしろエロ本は堂々と晒すものなのかもしれない。

 ……いや、だからって晒す気には到底なれないが。

 部屋に上がってみると、思わず目を丸くしてしまった。

 予想を遥かに超えて意外や意外、思った以上に賑やかな部屋だ。ゲームのポスターが貼り巡られ、壁はクローゼットとタンス以外は本棚とショーケースで埋め尽くされていた。

 その本棚は、一つは賢そうな文庫本、一つは漫画とライトノベルと画集、そしてもう一つはゲームのパッケージとDVDが入っており、ショーケースの中はフィギュアが入っていた。

 机の上にはパソコンが置かれていて、そのパソコンの隣にもフィギュアが並んでいた。


「すっご……」

「うう……す、スミマセン……片付いていなくて……」

「思った以上にオタクだったんだ……」


 ちょっと引いた。趣味がどうこうではなく、ものっそいお金使ってるんだな、と。それならクラスTシャツの代わりになる服くらい買えば良いのに……と、思わないでもない。

 本当はもう少しじっくり見たいけど、生憎そんな暇はない。着替えて女子力について考えねば。


「で、服は?」

「あ、は、はい。箪笥の中です……」

「これね」


 とりあえず箪笥の中を開けてみると、中から虫のフィギュアが大量に出てきた。

 呼吸が、止まった。


「ひゅぅっ……」

「あ、そこの引き出しは昆虫大図鑑ガチャガチャシリーズが……黒崎さん?」

「タンッ……スになんて女子力低いもの入れてんのよあんたは!?」

「ひえっ!? ご、ごめんなさい! で、でででもこれ、とっても細部まで拘りあるフォルムと色彩で……」

「どうっっっでも良いわああああああ!!」


 完全に罠を張られた気分だった。見事に弱点を的確に射抜かれ、今度はこっちが泡吹いてぶっ倒れそうなほどだ。


「ていうか、このタンス三段しかないのになんでおもちゃ入れられるわけ!?」

「あの、フィギュア……」

「同じだから細かいこだわりやめて腹立つ!」


 途中まで耐えてはいたのだが、もうほとんど鈴之助にツッコミを入れるテンションで吠えまくっていた。なんでこんなに奇人が周りに集まってくるようになったのか分からなかった。


「いいから服! 後その段は二度と開かないで!」

「す、すみません! その下二段が服です!」

「ていうか、服のタンスの一番上が服じゃないってどういうこと!」

「そ、それは一番開くものを上に置いておきたいという感覚で……!」

「なんで服より虫の方が開く回数多いってのよ!?」


 もはや訳がわからなかった。そんなにしょっちゅう開くのだろうか? この段を? 何のために?

 絶対、日常的に着る服の方が開ける回数は多いだろうに……。

 一先ず、下の段を開けて中を確認した。すると……思わず半眼になってしまう。私服が……白とか青とか黒一色のTシャツしか入っていない。


「……えっ、何これ。ペンキ屋のユニフォーム?」

「な……何かおかしいでしょうか……?」

「おかしいよ! 何このシンプルイズベストって主張してくる服のチョイスとセンス!」

「わ、私のような地味な人間は……その、やはりこのくらいがちょうど良いかと……」

「分かった、まずはその認識から改めさせてあげる」

「へ?」


 この自己評価が地下まで減り込んでいるこの子の場合、その辺から改めさせないといけない。

 そんなわけで、携帯している化粧ポーチを鞄から取り出した。ヒュッと取り出すは櫛と小さい毛先を整えるハサミ。


「あ、あの……黒崎、さん……?」

「覚悟してね、半田先輩。今から、改造手術を行います」

「か、怪人にされてしまうんですか!?」

「うん、それで良いからじっとしてて」


 少し冷たい口調で言うだけでビクッとして背筋を伸ばしてしまうあたりかわいい。たまに忘れるけど、自分は年下でこの人は年上なのだ。

 さて、そんな人の外見をさらに可愛くしなければならない。

 両手に持った道具を駆使して、まずは髪型から合わせる。前々から思っていたが、綺麗な碧眼を前髪で隠すなんて勿体無い。

 それから、10分ほどだろうか? 分け目を整えて、髪型を変えて、枝毛を処理して、軽く化粧水だけつけて、完成した。


「よっし……ひとまずこんなもんっしょ」

「お、終わりましたか……?」

「これ見てみ」


 鏡を手渡すと、その向こう側の碧は目を丸くした。ちょっといじるだけでも劇的な変化な上、極め付けは髪型だ。一先ず大人っぽい雰囲気が出ている人だから、三つ編みにして左肩から胸の上に下ろさせてみた。

 割と大きく印象が変わったのでは? と、自負している程度には綺麗になった。

 どう? と視線で問うと、感動したような声音で呟いた。


「わ……前髪が映らない視界なんて久しぶり……!」

「鏡の中を見ろー! 世界一美しい女が映ってるから!」

「あ、あの……世界一は言い過ぎなのでは……」

「あ、てことは綺麗だとは思ったってこと?」

「っ……い、意地悪なことを……!」


 その真っ赤になった顔を俯いて隠す様子が見られただけでも満足である。

 でも……手間をかけさせてくれたわけだし、もう少し可愛い様子が見たいと思ったので、もっと言ってみることにした。


「可愛い! 美人! 若妻みたい!」

「や、やめて下さい……! そんなことないです……!」

「じゃあ新妻?」

「そ、それも違います! ……そもそも、私のような地味な女と結婚してくれるような男性はいません……!」


 たまにだけど……この子は何を考えているだろう、と思うことは多々ある。特に今日。

 でも……今ほど考えていることが分かりやすい瞬間もなかった。

 正直、綺麗だと思っているけど、なんとなく自分を可愛いと思う事に気が引けているのだろう。

 そういう時期は自分にもあったので分からなくもないが……。


「別に、綺麗になった時くらい自分を可愛いって言っても良いと思うけどなー?」

「えっ……で、ですが……自身を可愛いと思う方は『ぶりっこ』なるものに該当し……その、嫌われてしまう、のでは……?」

「いやいや、中学生じゃないんだから……いや、高校生でも一部、そういうのいるけどさ。それイジメてる理由の口実に使われるだけだから」


 呆れるほどアホな理由にため息さえ漏れてしまったが、人とコミュニケーションをとって来なかった人ならありえないことでもないのかもしれない。

 でも、せっかくやってあげたのに「可愛くない」と言われるとそれはそれで腹が立つわけだ。


「でもほら、可愛くしてあげたんだからさ、気に入ったなら……お礼くらいは欲しいかなーって?」

「っ……」


 言うと、再び鏡を見る碧。ソワソワした様子で角度をつけながら自分の顔をじっくりと眺める。ちょっと可愛いカモ? なんて思っているのだろうか。なんか勝手に頬を赤らめた。


「あ……ありがとうございます……その、綺麗にしていただいて……」

「うんうん。素直でありなさい」

「うう……わ、私……先輩なのに……」

「先輩になりたかったら、もっと先輩らしくなってくださーい」

「……あ、今度勉強教えてあげますよ?」

「先輩らしさをアピールできる機会を速攻で見つけるなー!」


 やはり、頭が良い人はこれだからムカつく。すぐに打開策を思い浮かんでしまうから。


「ほらほら、良いから次は洋服ね」

「あ……そ、そうですね……と言っても……」

「大丈夫大丈夫、シンプルイズベストは間違ってないから。あ、クローゼットの中も開けるよー?」

「あ、ちょっとまっ……!」

「おっ、ここがエロ本隠してる場所?」

「っ、い、いやそこは……!」

「大丈夫、誰にも言わないから」

「そういう問題では……!」


 中には未開封の虫のフィギュアが大量に入っていた。


 ×××


「あ、あのう……本当にこの格好、似合っておりますか……?」

「勿論。自信持てし」


 結局、シンプルだけどお姉さんっぽく見えるように長袖のTシャツとロングスカートで合わせた。

 ……でも、やっぱりもう少しこう……尖った服も用意しておいて欲しかった感じはある。まぁ、その辺は今日、探せば良いだろう。


「で、半田先輩。今日のことだけど……」

「は、はい……えっと、どう致しましょうか……?」

「まず、半田先輩がまとめたって奴読ませて」

「あ……は、はい……」


 せっかく作ってもらったのだし、読まないと勿体無い。

 鞄から出してもらったそれを眺める。おそらく、わざわざパワーポイントで作ってくれたのだろう。


「なんか……ごめんね。うちのためにここまでしてくれて……」

「い、いえ……お、お友達の為ですから……!」

「う、うん……?」


 お友達とは一体何なのだろうか、と道徳的なことを考えつつも、まぁ良いかと思うことにして中身を見た。

 ざっと見るに、女子力をどうゲームにするか、について考えてくれたようだ。


『A案「目指せ、レンタル彼女ナンバーワン!」』


 初っ端から目を疑って、思わず二度見をしてしまった。なんだろう、この碧らしからぬ文字列は。


「な、何これ……?」

「あ……は、はい……女子力という指標に対し、私はまだ何も知らないわけですが……要するに、女の子としての魅力という意味だと考えました……」

「う、うん?」


 まぁそういうことだけど、そんな一々、言語化しなくても良いだろうに、と思わないでもない。というか、全部資料に載っているし。


「……ゲームにするには、やはりステータスなどの数値化が一番、分かりやすいものだと考えておりまして……その上で、レンタル彼女というものが世の中にあることを知りました……」

「あるね。利用してる人いるのか知らないけど」

「そこで、高めた女子力でレンタル彼女屋さんの売り上げランキング一位を目指す、というゲームです……」

「レンタル彼女屋さんって……あの、一応言っておくけど、店舗構えてるわけじゃないからね?」


 早い話が風俗である。それもキャバクラなどと違って飲食店などではなく、完全な性的サービス業。実際に性行為をするかは電話した店先によるが、とにかくランキングとか付けられるかは不明だ。


「で、ですが……ゲームのコンセプトとしてはアリかと……」

「垢BANされなきゃ良いと思うけど……そういうサービスって、エッチするにしてもしないにしても18禁でしょ」

「え、エッチって……」

「え、そこで照れるの?」


 見ちゃったら流石にわかるけど、言葉くらいで顔赤くすんなよ、と思ってしまった。

 とはいえ、面白そうではある。女子力の売り上げランキングとかいう攻めすぎたゲームではあるが、BANされないのであれば斬新かもしれない。


「とりあえず候補1で。じゃあ次は?」

「あ……は、はい」


 次のページを捲ってタイトルを見た。


『B案「女子力=戦闘力。美しさ・可愛らしさ・健気さの暴力でKOせよ!」』


「なんだこれ」


 今度は漏れてしまった。素直な感想がポロリと漏れてしまった。狂気が増した気がする。なんだろう、この文字列。本当に読書好きが作った文章だろうか?


「そ、それは……その、じょしりょくの『力』という部分に注目して……じょしりょくの高さが、強さに変換されるという設定で……」

「強くなってどうするの……」

「そ、その……好きな男の子をライバルに負けずに奪う為に……」

「女子力で暴力か!」


 なんて事考えるのか。そんなドロドロした戦いは見たくない……と、思ったのだが。

 ふとページを眺めつつ、技リストとやらを見た。


『美脚サイクロンキック』

『ボンッキュッボンボディプレス』

『サラサラヘアー千手観音』

『ソプラノ破壊光線』


 もうなんか意味わからなさ過ぎて逆に笑いが漏れそうで仕方なかった。なんだこの技名。どんな技か思い浮かべられるけど、実際に思い浮かべてしまうとシュールすぎる。

 あと、サラサラヘアー千手観音は全くもって想像出来ないし、ソプラノは女子力関係ない。


「なっ……ふひっ、な、何これ……!」

「わ、技名です……あ、あくまでも例えですよ? じょしりょくに詳しくないので、その……身体的特徴の中から、綺麗だなと想像しやすいものを挙げてみただけで……」

「千手観音ってなんなの……?」

「せ、千手観音とは、千本も手がある仏像のことですよ……? その手の平全てに目がついており『生きとし生けるものすべてを漏らさず救う』というとんでもないスケールの慈悲をお持ちになっている菩薩ですが……ご存知ないのですか?」

「知ってるよ! いやそんな事細かには知らんけど……そこじゃなくて!」


 ていうか、今のはバカにされたのだろうか? ちょっとその無駄に大きなお胸を揉みしだいてやろうか、なんて思ってしまったながらも、なんとか堪えて話を進める。


「髪の毛で千手観音ってどゆこと?」

「せ、せっかく綺麗な髪にしたのですから……その、髪の毛で千の腕を作り、相手をタコ殴りにしたら強いのではないかと……」

「それはおかしいから! ていうか、そもそも綺麗にした髪や足で相手を傷つけたら、結局は自分を汚してるでしょ!」

「あ……た、確かに……」


 いや、まぁ女子力の「力」という部分に注目したのは面白いと思ったが。

 とにかく、あと一つ意見はあるみたいだし、そっちにも目を通そう。


『C案「ジョシリョクモンスター(通称:ジョシモン)」』


「はにゃーーーーーーーー???」

「えっ、ど、どうされました?」


 他二つとは比較ならないほどの謎のカタカナを前に、理解出来ない時に口から出そうな擬音がそのまま出てしまった。

 だってわけわからない。なんだそれ。奇を衒った曲名と言われた方がまだしっくり来る。


「……何これ?」

「いえ……じょしりょくにも、やはり色々なものがあるのだと思いまして……その色々なじょしりょくを、モンスターとして具現化し、育てて戦わせるという……」

「聞いても全然わからない!」

「あっ、す、すみません! 具現化というのは、今回は比喩で使わせていただいたのですが、要するに抽象的概念を形にしようという意味で使……」

「だから言葉の意味じゃないっての! グゲンガーの意味くらい知ってるから!」

「? ぐ、グゲンガー……とは? 具現化では……?」

「か、噛んだだけ!」


 実際、具現化の意味は知らなかったとは言えない。でも、知りたいのはそこじゃない。


「なんで女子力がモンスターになるの!? その時点で女子力低いよ!」

「そ、そうでしょうか……」

「しかも結局、戦わせてるし! 本当に面白い発想するね!?」

「あ……は、はい……ちょっと、栗枝くんならどうするか、というので想像してみましたので……」

「納得!」


 これはちょっと厳しいのではないだろうか? そもそもモンスターのデザインを考えるのも大変だし、時間的に考えても現実的ではない。何せ、ゲーム作りをするのは鈴之助一人なのだから。

 でも……形になったらどれにしても面白いかもしれない。全部シュールで。

 何にしても、ちょっと今すぐには選べない。


「よしっ、じゃあこれを持って女子力を探しに行こう!」

「え……ど、どれにするのですか……?」

「分かんないけど……『あ、これ女子力っぽいな』ってものがあった時に一番マッチしそうなパターンを選ぼう!」

「あ……なるほど……!」


 元々、今日は女子力とはそもそもなんなのかを改めて調べる催しだ。思わぬ収穫ではあったが、ゲームの内容を考えるのは明日のつもりだった。


「よしっ、じゃあ行こう! 半田先輩」

「は、はい……あの、この地味服の着こなしも、女子力と言えるのでしょうか……?」

「なら、それメモしとこう!」


 そんな話をしながら、半田家を出た。


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