番外「名前」
「勇者と魔王は名前が無いの?」
そうレーナの言葉が魔王城に響く。
そういえば、レーナにちゃんと名乗ってなかったことを思い出した。
魔王と2人の時はお互い役職で呼んでいたし、名前で呼ぶ必要もなかった。しかしこれから、魔王や勇者であることを知られない方がいいこともあるだろう。名前を知っていて損はない。
「おれはエリクだ。」
自分の名前を告げ、「こっちは、」と魔王の名前を言おうとした時にふと思う。
「そういえば、魔王の名前聞いてなかったな。」
レーナが「え?」と声を漏らし分かりやすく呆れ顔になった。
「仕方ないだろ、呼ぶ機会がないんだから」
そもそも俺らは名前で呼び合う、友人のような関係性でもない。お互いが分かればよかったのだ。レーナになんとか反論しようとしたがレーナはより呆れていくだけだった。
「私に決まった呼び名はない。魔王としか呼ばれないしな。」
魔王はさも当然のように言う。俺とレーナは顔を合わせたまま固まる。
確かに、魔王が生まれた時には周りには魔物しかいないし名前を呼ばれる機会もつけてくれる人もいなかったのかもしれない。
どう触れるべきか悩んでいるとレーナが小さく呟いた。
「名前、バラム、とかどう?」
数秒間、静寂が続いた。
ふと見ると隣にいる魔王が笑い声を出さないように耐えるようにして肩を揺らしていた。その様子を不審に思い目線を送ると、こちらに気付いた魔王が笑いながら話し出す。
「すまない、まさか名前を付けられらるとは思わなくてな。」
楽しげに笑う魔王をよそにレーナは「余計、だった、?」と言い不安そうな表情に変わっていく。
「余計ではない。これから私の事はバラムと呼べ。」
その言葉にレーナは心底安心したように息をついた。
「じゃあ、これからよろしくな。バラム、レーナ。」
レーナは頷きバラムは「あぁ。」と短く返事をした。
バラムは目を細めうっすら口角を上げて、魔王からは想像も出来ないくらい嬉しさが滲み出た表情をしていた。
時間遡行した勇者は復讐を誓う 蒼猫 @aiiro_4685
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。時間遡行した勇者は復讐を誓うの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます