第10話


 私は、魔王城と呼ばれる場所で勇者、魔王と呼びあっている青年と話をしていた。

 この青年達が本当に魔王と勇者なのか疑わしくはあった。しかし、認識阻害魔術が効かず、聖剣に貫かれた体を治してみせ、聖遺物を保有していた国を1日で滅ぼす。それを目の前で見せられたのだから信じる他無かった。


 本来なら敵対しているはずの彼らが何故手を組んでいるのか分からない。城の中にいた人を皆殺しにしたにも関わらず、私を城から連れ出したのも。

 彼らは私の存在を知らなかったようだし只の偶然なのだろう。

 その偶然に私は救われたのだ。


 私は半分魔物だ。司教や城で働く人は私を半魔と呼んでいた。確かに魔物と同じく大量の魔力を保持している。それに、瞳孔は細長く、耳も少し尖っている。

 私は気味悪がられた。そして、次第に軽蔑の対処になった。それこそ小さな嫌がらせが暴力まで発展することもあった。

 その被害を少しでも小さくするために作ったのが認識阻害のペンダント。誰にも報告せずに自分の為に作った自分の為の最高傑作。


 孤児だった私は教会に拾われ城で働くように言われた。凡人より魔力が高く危険だが、私には利用価値があるのだと。城での仕事は、聖遺物の研究と聖剣の偽物の作成だった。

 聖遺物は本来勇者にしか使えない物だが、それが昔のように凡人でも使うことができればこの王国はより力を手に入れることができる。そんな浅ましい考えのもとに私に偽物を作れと命令した。

 だが、神の魂をもって作られた聖剣を、ただ魔力が強いだけの私に作れるわけがない。結局作れたのは普通の剣に多少魔術を施しただけのものだった。聖剣を作れなかった私にはもう価値がなかったが、他に魔術を組み込んだ道具を作り新たな技術を開発し提供することで、価値を証明し首の皮を繋いできた。認識阻害の道具もその過程で作った物だ。


 新作を試すからと部屋に置いていたものをあの騎士が盗んでいった。強化の魔術だと思って使ったのかそれとも認識阻害だと知って盗んだのか。部屋から道具が消えていた時はこの世の終わりかと思ったほどに絶望を感じた。

 暫くして外が騒がしくなり様子を見に行くと青年による殺戮が行われていた。今まで邪魔してきたヤツらが殺されてるのを見て妙にスカッとした。廊下に転がっている死体を見て、もし私がこれと同じように殺されても、清々しい気持ちで死ねるだろうと思った。それと一緒に私の最高傑作も隣にあればもっと幸せだろう。そう思って探しに出かけた。


 途中、謁見の間の廊下辺りに、死体の山が出来上がっていた。

 私のを虐げていた者が死んでいる。それが、私の目には希望のように光り輝いて見えた。あんなにも怯えていた存在をこんな風に殺せる人がいるのかと。だから、死体を作った犯人であろう青年に声をかけられても疑わずについて行った。

 そうしてついて行った謁見の間は、人がシャンデリアのように吊るされており、床には複数人の騎士の死体がころがっていた。

 中央にいる先程まで剣に貫かれてた人物を見て分かった。

 私が虐げられていたのは皆本物の魔物を見た事がなかったからなのだと。この者に比べれば私なんかただ少し魔力が強い人間だ。

 本物の魔物の王、目の前にいるこの青年には、私が他の人間と大差ない存在として写っているのだろう。国一の魔力を保持していたとしても、この青年に取って取るに足りない塵同然だろう。だから、魔王の提案に乗った。

 ここまで来るまでの事を振り返る。それでもやっぱり、私を連れ出してくれた理由はわからない。ただの気まぐれなのだと思うしかなかった。


 私が神についての話をすると、勇者と魔王はこれからの動きについて話し合いを始めた。これからの話には私が入ることは出来ないだろう。


 二人の会話を聞きつつ、魔王城の中をぐるりと見渡す。魔王城は壁や天井は質素な作りだが、品格がある。魔王が変えたのかもしれないが。

 魔王城がある所は元は繁栄途中の小国だった。


 魔王が誕生する場所は不確定で特定できない。勇者もそうだ。それに加えて魔王が誕生した場所から一定範囲は魔の領域と化す。この場所に住んでいた人たちは発生直後の魔に当たり絶命したか魔物になってしまったはずだ。

 魔王が誕生し、魔物の領域となり、民はみんな死んでしまっただろう。


 勇者と魔王は同時に生まれる。勇者は16に旅に出るのが通例だ。つまり魔王もまだ成人したばかりの年齢ということになる。死しかないこの領域でどうやって魔王が育ったのだろうか。知的で賢く難しい魔術も平然と操る。


 いや、魔王だけじゃなく勇者もだ。彼らは本当に成人したばかりの、16歳なのだろうか。


「レーナも手伝ってくれるか?」


 私の思考を中断するように勇者が話しかけてきた。

 どうやら聖遺物を回収し破壊を試すつもりらしい。勇者と魔王の目的がなんであれ、ほかの聖遺物を破壊したいと考えているなら各国を回る必要がある。


 そもそも、現代では聖遺物の力を使うのは勇者だけになってしまっている。それ故に聖物は聖遺物と呼ばれているのだ。

 しかしその力を使えなくとも、聖遺物を保有する国は他の国に比べ強い権力を持つ。その国から聖遺物を貰うのは一筋縄ではいかないだろう。全聖遺物保有国を敵に回すようなものだ。

 だが、彼らはそれでも構わず進んでいき、きっと聖遺物を手にする。彼らにはそう思わせる自信があり、力がある。

 私ができることは少ないが、勤め先を彼らにしたのは自分。私のできる最善をもって手伝わせていただこう。


 それに、魔王と勇者について知ることができれば、半魔私が何故生まれたのかわかるはずだ。

 私はここに連れられる前の会話を思い出しながら勇者に返事をする。


 「紋章を研究させてくれるなら、喜んで。」

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