第3-16話 魔界の強者たち
第一試合が終わり、俺は選手入場口に戻る。
控室からでもモニター越しに試合の様子を見れるが、画面越しに見るのと生で見るのじゃ大違いだ。
『続きまして第二試合、ニュートソ選手VSシャドー選手! お互いに実力は未知数なこの試合、どちらが勝つか読めませんね!』
『ヤタガラス家は忍者の家系。故に搦め手を主体とした戦い方をするのでしょうが、予選を見る限りシャドー選手は単純なスピードと攻撃力にも優れています。対して、ニュートソ選手は応用力が低い代わりに単純な威力に優れた重力魔法を主体とするはずです。ニュートソ選手がいかにシャドー選手の強みを潰せるかがこの戦いの肝になりそうですね』
ふむふむ、なるほど。
戦闘狂博士の解説わかりやすくていいな。
それはそうとして、試合開始前に軽く解説をするようにしたのか。
俺みたいに爆速で試合を終わらせるやつ対策なのだろう。
「対戦よろしくお願いするでござる」
「こちらこそよろしく頼む。手加減は不要だ」
リングの上で二人が対峙する。
……ってか、今さらだけど場外スペースがやたら広いな。
さっきまでは緊張や集中で気にならなかったけど、改めて見ると違和感がすごい。
会場内面積の七割以上は場外スペースなんじゃなかろうか。
『それでは波乱の予感あふれる第二試合スタートですっ!!!』
戦いの火ぶたが切って落とされる。
と同時にニュートソが動いた。
「潰れるがいい!」
うっすらとした黒い光が発生。
闘技台、シャドーのいた場所にクレーターができる。
だが、すでにそこにはシャドーはいなかった。
「【影分身の術】!」
宙に浮かぶシャドーが、人差し指を立てた独特なポーズをとる。
あれが忍者のポーズか。
『シャドー選手が【忍術】スキルを使いましたね』
『大量に現れたシャドー選手の分身体! ニュートソ選手は本体を見破れるのでしょうか!?』
実況が終わらないうちにニュートソは次の手に出る。
掌に黒い球体を生み出すと、それを無数に放った。
「重力に吞まれて消え去れ!」
黒い球体一つ一つが強い吸引力を有しているようで、分身体たちは吸い込まれて消えていく。
『おおっと!? ニュートソ選手が見たことのない攻撃を始めましたーーーッ!』
『あれはエクストラスキル【ブラックホール】。強い吸引力で周囲のものを無差別に吸い込んでしまうというスキルです』
強力だな。
攻撃と防御を同時に行える。
「分身体程度では重力に勝てないか。ならば【クナイ生成】。からの【火遁の術】」
シャドーの手元にクナイが出現する。
それを投擲。
【ブラックホール】にクナイが吸い込まれたかと思ったら爆発が起きた。
爆発と重力がせめぎ合い、対消滅する。
「【ブラックホール】がただのスキルである以上、重力で吸い込めるエネルギーには許容量が存在する。つまり、許容量以上のエネルギーを有する攻撃をぶつけ続ければいい」
シャドーは闘技台を駆けながら次々にクナイを放つ。
爆発が連続する。
『お互いの攻撃が激突し消えてゆく! 互角の勝負になってまいりました!』
『いや、ニュートソ選手のほうが少しばかり不利ですね。シャドー選手は機動力が高く【ブラックホール】を躱せますが、対してニュートソ選手は機動力が低く攻撃範囲の広い【火遁の術】を躱しきるのは困難なため後手に回っています。【火遁の術】を一発でも撃ち漏らした時点でニュートソ選手が大きく不利になるでしょう』
四方八方から襲い来るクナイ。
ニュートソは必死に迎撃する。
なんとか拮抗を保っていた二人の勝負は、唐突に終わった。
いきなりニュートソの背後に現れたシャドーが、小刀でニュートソの首を斬り飛ばした。
「……いつの間に……!?」
死の間際、ニュートソは驚愕の表情を浮かべる。
すぐに彼の体は灰となって消えた。
『け、決着……! またしてもあっという間に決着しました! いったい何が起こったのでしょうか!?』
『フフフ。私は何が起こったのか知っていますが、あえて解説しないでおきましょう。そのほうが面白くなりそうですからね』
解説の戦闘狂博士は楽しそうに笑う。
あの、解説してほしいんですけど!?
最後の瞬間、シャドーが何をしたのか俺でもわからなかった。
本当にいきなり現れたんだ。
……目にもとまらぬ超高速移動?
それとも瞬間移動とか……?
ともかく、次の俺の試合相手がシャドーに決まった以上、あの攻撃には注意しておかないといけない。
正体不明の奇襲攻撃は必ず障壁になる。
『……何はともあれ、第二試合の勝者はシャドー選手! 第二回戦ではクロム選手と戦うことになります! これは見逃せない試合になりそうですねっ!』
客席から歓声と喝采が巻き起こる。
こうして第二試合は終わり、続いて第三試合が始まった。
ゴウケンとゼータが対峙する。
「ゼータ! 俺は逃げも隠れもせん! 正面から貴様の攻撃をすべて受けきって勝つ!」
「お? 宣戦布告っすか? 受けて立つっすよ。正々堂々、正面から爆殺してやんよですっ!」
ゴウケンからの宣戦布告に、ゼータは中指を立てながら不敵な笑みを返す。
この試合も短期決戦になりそうだ。
『続きまして第三試合、ゴウケン選手VSゼータ選手! さっそくバチバチに燃えております!』
『超タフネスのゴウケン選手、対してゼータ選手は超パワータイプ。宣戦布告通り、ド迫力の魂のぶつかり合いを見せてくれるでしょう。これは熱い戦いが期待できそうですね』
『最強の盾と最強の矛がぶつかったらどうなるのか? まさしくその答えがこの試合にあります! 血沸き肉躍る爆熱ファイト、第三試合スタートですっ!!!』
試合が始まった瞬間、ゴウケンはスキルを発動した。
「【剛力無双】! 【不動明王】! 【修羅金剛】! 【カウンターバースト】!」
ゴウケンの筋肉が肥大し、全身から蒸気が噴き上がる。
「さあ、ゼータ! 爆殺できるものならやってみせるがいい!」
スキルの効果でその場から動けなくなったが、その分防御力の上昇率はすさまじいことになっているはずだ。
『なんという威圧感……! ゼータ選手はこの城塞を崩せるのでしょうか!?』
『正面からの殴り合いであれば、超パワータイプのゼータ選手が有利。加えて、ゼータ選手は吸血鬼の一族なため、生半可な攻撃をしたくらいじゃすぐに再生されてしまいます』
『それだけ聞けばゴウケン選手に勝ち目はなさそうですが……ゴウケン選手はその場から動けなくなる【不動明王】を発動し攻撃を捨てるという選択肢を取りました。やはり、何か作戦があるのでしょうか?』
『ええ、先ほどゴウケン選手が発動した【カウンターバースト】というエクストラスキルは、『一定時間の間に受けたダメージを倍にして返す』という効果を持っています。つまり、ゴウケン選手がゼータ選手の猛攻を耐えきった場合、ゼータ選手を一撃で仕留めることができるだけのダメージを返せるということです』
【カウンターバースト】。
確かに強力なカウンタースキルだが、一つだけ大きな抜け道がある。
ゼータ側からはどうとでもできるのだ。
「アタシの再生が間に合うほどの与ダメージに抑えて【カウンターバースト】を何度も使わせ、じわじわとダメージレースで差をつけていけばアタシの勝利は確実っすね。けど、そんなみみっちいことする気はねぇですよ! 【カウンターバースト】が発動する前に爆裂させてやるっす!」
言い終わった瞬間、ゼータの足元が爆発。
爆風に乗って一瞬で距離を詰めたゼータが拳を放つ。
容赦ない爆裂が絶え間なくゴウケンに襲い掛かる。
「ォォォ……ウォォォォォオオオオオオオオオォォォオオオオオオオオオオオッ!!!」
自身を鼓舞するように雄たけびを上げながら耐えるゴウケン。
ゼータは怒涛の勢いでパンチを放ちまくる。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァアアアアアッ!!!」
連続で爆音が鳴り響く。
ゴウケンの体が抉れ、血が舞う。
「どうしたんすかっ!? もう限界っすか!? そんなんじゃアタシには勝てねぇですよ!」
ゼータはリングが砕けるほど強く踏み込み、アッパーを繰り出す。
拳から放たれた衝撃波と爆炎が、ゴウケンの顔面を突き抜けた。
「グハァ……」
ゴウケンはたまらず吐血する。
ゼータはすかさず跳躍すると、大きく開かれたゴウケンの口内へ腕を突っ込んだ。
「あばよですよッ! 死にやがれ!」
「ガッ……!?」
ゴウケンの口内から閃光があふれる。
直後、特大級の爆裂が巻き起こった。
「鮮血スプリンクラーの完成だぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! ギャハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハハハハハハハハ~~~!!!」
爆裂によって上半身が消し飛んだゴウケン。
臓物がぶちまけられたリング上で、死体から
『試合終了~~~ッ!!! 勝者はゼータ選手となりました! やはり、レジェンドの力は圧倒的だぁぁぁあああ~~~ッ!!!』
『ゴウケン選手も粘り強かったですが、ゼータ選手のほうが一枚上手でしたね。あと三秒耐えることができていたら、【カウンターバースト】が発動してゼータ選手が敗北していました。ギリギリの激闘を見せてくれた両選手に盛大な拍手を送りましょう!』
拍手喝采に包まれる会場内。
「ふ~ん、結構ギリギリだったみたいっすね。まあいいや。次のアタシの相手はどっちになるんすかねぇ~」
ゼータはぶつぶつ独り言を呟きながら戻っていく。
次は第一回戦、最終試合。
召喚士テザメアVSアスタロトだ。
この試合を制したほうが、魔界最強の称号を持つゼータと戦うことになる。
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