第3-14話 魔界観光
「ただし、条件がありますの。貴方たちには、三日後に開催される魔界の大イベント──“最強トーナメント”に出場してもらいますわ」
リジーさんは面白そうに笑いながら告げてくる。
俺の隣にいたロバートさんが、大きくため息を吐いた。
「出ましたよ、リジーの悪ノリ病。こうなった彼女は馬の耳にも念仏、何を言っても聞かないワガママお嬢様なので、私からはお疲れ様ですとしか言えません」
ロバートさんは俺たちに同情の目を向けてきた。
「リジーは天馬空を行くを体現した悪魔なので、よく突拍子もないことを言い出すんですよ……」
リジーさんとは幼馴染って言ってたくらいだから、ロバートさんは何度も彼女に振り回されてきたのだろう。
そんな感じの哀愁が漂っていた。
「貴方たちが断るというのなら、
リジーさんが強情フェイスで釘を刺してくる。
……これは決意が揺るがないやつだ。
そう悟った俺は、最強トーナメントとやらについて聞くことにした。
「最強トーナメントは言わば武闘大会のことですわ。魔界で一番強い悪魔を決めるビッグイベントで、毎回数千人の死者が出るほど人気がありましてよ!」
「数千人の死者!? 毎回!?」
驚きすぎて顎が外れそうになった俺に、ロバートさんが補足してくれた。
「悪魔は死んでも魂は消えずに残るので、次の日には何事もなかったかのように復活するのです」
「なので問題ないですわ。死んだらそれで終わりの貴方たちの場合は、殺しは禁止すればいいですしね」
それなら安心……できるか?
まあいい、大会の形式について聞いとこう。
「大会は大きく分けて予選と本選の二つ。本選はトーナメント形式の勝ち抜き勝負となっておりますわ」
「予選の形式は……」
「三日後に行われるのは本選ですわよ。予選はもう終わっていますの。ですが、ご安心してくださいまし。
リジーさんはドヤ顔で宣言した。
なんでも、本選出場者から二名も棄権者が出たため、俺たちの中から二人をその枠に入れることができるらしい。
ちなみに棄権者二名の内の一名がロバートさんだそう。
予選の直後に封印されていた
「さて、俺たちの中から二人参加しないといけないわけだが……俺が出てもいいか? 魔界で最強を決める大会なら、強い悪魔がいてもおかしくない。強くなるにはうってつけだから、参加したいんだ」
実は俺、わりと乗り気だったりする。
三人に聞いてみれば、即決で了承された。
あと一人、誰にするかだが……。
「私はアスっちに出てほしいな。アスっちが戦ってるところって、冒険者登録試験くらいしかなかったよね。アスっちのカッコいい姿見せてほしいな~」
「
アスタロト聞かれたルカは、ほんの少しの間だけ下を向いた。
それから顔を上げて答える。
「……いいよ。ミラお姉ちゃんのリクエストだもんね。ルカもアスお姉ちゃんのカッコいいところ見たいな!」
下を向いている時のルカの表情はよく見えなかったが、何を考えていたんだろうか?
少しだけ気になった。
「決まりましたわね!
というわけで、最強トーナメントには俺とアスタロトが参加することになった。
その間ワープホールは、リジーさんが結界で一時的に通れなくしてくれるとのこと。
完全にふさぐのは俺たちが帰る時にするそうだ。
リジーさん宅を出た俺たちは、ロバートさんが紹介してくれた宿に移動。
部屋と食事の予約を取ったらいざ観光へ。
そのタイミングで、ロバートさんは国へ詳細報告をするために離脱。
代わりに、
ワープホール事件で緊急出動させられていただけで、実は彼女は非番だったらしい。
「改めてよろしくね!
「仲良くしよーね、めるめる!」
「めるめるって可愛い響きだね!」
「よろしくお願い致します、めるめるさん」
「非番なのにわざわざ案内していただいてありがとうございます」
「全然いーよ! 人間の世界のお話いっぱい聞かせてもらえると嬉しいな!」
メルさんはコミュ力が高く、あっという間にみんなと打ち解けてしまった。
……ってか、アスタロトが「めるめるさん」って呼ぶの面白いな。
意外とノリがいいのか。
「みんな行きたいところあるかな?」
「鍛冶屋があるなら行ってみたいですね」
「ルカはおいしいごはん屋さん!」
「
「私は服買いたいな~」
「あなたたちの実力に見合う鍛冶師なら、魔界国宝の称号を持つガガンドロンさんのお店に行くのがいいけど……彼、超がつくほど頑固なんだよね。俺は
というわけで、鍛冶屋に行くのは最強トーナメントが終わってからということになった。
ひとまず俺たちはメルさんイチオシの食事処に向かう。
「まず最初に案内するお店はこちら、『牛貴族』! 魔界が誇るブランド牛、“魔牛”を食べるならぜひここで! 大満足のガッツリメニューから、おやつ感覚で食べられる串焼きまで揃っててすっごくおいしいんだよ!」
メルさんの熱弁もあって、俺たちは期待を膨らませながら入店する。
俺は魔牛ステーキと牛丼Lサイズを、ルカとアスタロトは魔牛ステーキを、ミラは魔牛の串焼き三種盛りを、メルさんは三色チーズ牛丼ギガマックス盛りを注文。
魔牛料理を食べた俺たちは、あまりのうまさに仰天してしまった。
肉の柔らかさ・ジューシーな匂い・味・あふれ出る肉汁……何もかもが過去最高レベルだった。
人間界なら王族レベルの料理ですら敵わないかもしれない。
そう思わされるほど、おいしいものをおいしく食べたいという熱意が料理にこもっていた。
アスタロトは静かに分析し、ルカは言葉を失うほど幸せな表情でもぐもぐし、ミラは「お腹いっぱいだったのに食べたらお腹空いた」という謎現象に襲われて追加注文するくらい俺たちは堪能したのだった。
続いてメルさんに案内されたのは服屋。
「このお店は可愛い服からスーツのオーダーメイドまで幅広く取り扱ってるんだ。みんなに似合う服いっぱいあると思うよ!」
「よ~し、れっつごー!」
俺たちは入店する。
アスタロトはスーツを作るために採寸へ。
ルカとミラはよさげな服を見つけては試着していき、俺とメルさんはそのたびに感想を伝える。
宿に戻らないといけない時間ギリギリまでかけて、みんなお気に入りの服を見つけることができた。
ルカが選んだのは白いワンピースとフード付きのパジャマ。
ワンピースは丈が短めで動きやすいデザインをしており活発なルカにピッタリだ。
髪の毛や瞳の赤色との対比もよく、ルカの清楚可憐さが際立っていて可愛い。
パジャマはペンギンを模したデザインをしており、とてもキュートだった。
ミラはオフショルダーと呼ばれるタイプのトップス&ショートパンツ、地雷ファッションセットの二着分を購入。
どちらもミラの雰囲気にマッチしており、非常に似合っていた。
アスタロトは一着も購入していない。
スーツができあがるまで一週間ほどかかるらしく、購入は完成時にすることになった。
そして俺はメイド服を買った。
ルカとメイドごっこする約束してるからな。
これで俺も晴れてメイドデビューだ!
「……って、時間ヤバッ!? 早く宿に戻らないと!」
このままでは食事の予約が強制キャンセルされてしまう。
俺たちは急いで宿に戻るのだった。
◇◇◇◇
最強トーナメントが始まるまで、俺たちはめいいっぱい魔界観光を楽しんだ。
俺とルカは電車に乗って首都一周の旅に出たり各地の名物を食べ歩いたり、ミラは図書館巡りをして魔界の本を読み漁ったり、アスタロトは料理研究の旅に出たりなどなど。
ルカとミラと一緒に訪れた高級料亭で、なぜかアスタロトがバイトしていたのは面白かったな。
ちなみに、その店で食べた『寿司』という料理はこれまた絶品だった。
俺とルカが寿司を食べないと死ぬ体になってしまったくらいだ。
とまあ、そんなこんなであっという間に時間が過ぎて行き。
ついに最強トーナメントの日を迎えたのだった。
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