第3-13話 魔界、思ってたんと違う

「私の竹馬の友幼馴染が結界師をやっておりまして、ワープホールにも詳しいはずです。これから彼女に話を聞きに行くのですが、よければクロムさんたちも来ますか? 事件解決への手掛かりが得られるかもしれませんよ」


「ぜひご一緒させてください」


 ロバートさんからのありがたい申し出に即答する。

 成り行き次第では、すぐにでもワープホールを閉じることができるかもしれない。


 結界師のもとに向かうことが決定したところで、俺は眠っている魔界騎士団デモンナイツたちを起こす。

 ロバートさんとメルさんの説明もあって、すぐに魔界騎士団デモンナイツとも和解することができた。


 ロバートさんの指示で、国への報告やさらなる調査は魔界騎士団デモンナイツたちに任せることに。

 俺はちょうどピクニックを終えた三人と共に、ロバートさんの案内で悪魔国の首都へ向かう。

 ちなみに、今俺たちがいるのは首都郊外の森林地帯だそうだ。


「ちょっとクロム! さっきの紹介、私だけひどくない!?」


 ミラに絡まれた。

 「不審者」って紹介したのが気に食わなかったみたいだ。


「ただでさえ仮面つけてて怪しいのに、ニチャア~って笑うから不審者のソレにしか見えないんだよ、ホントに」


「そんなニチャニチャ笑ってないから!」


「いや、よくてニヤニヤほぼニチャア~だから!」


 こういう時は第三者にも聞いてみよう!

 ルカとアスタロトはどう思う?

 あ、ルカが目を逸らした。


「笑顔は大事です!」


「アスっち、それフォローになってないよ」


 不審者論争はこれにて決着。

 ミラの言い分は全会一致で否決された。


「……ってか、俺だけサンドイッチ食べ損ねたな」


「残念でしたね。サンドイッチはすべて、みんなで楽しく頂きました。おいしかったですよ」


 アスタロトが素っ気なく告げてくる。


「もしかして俺のこと煽ってる?」


「自意識過剰で面倒くさい人間ですね」


「ぐふっ……」


 アスタロトの毒舌ってさ、口撃力こうげきりょく高くない?

 わりと心が痛いよ……?


「安心してください。魔界には美味しい食べ物がたくさんありますよ」


「おいしい食べ物!? 早く食べたい!」


 ロバートさんの言葉に食いしん坊なルカがいち早く反応する。


「魔界の料理……すごく気になりますね。是非とも研究したいところです」


「食べ物も楽しみだけど、私としては魔界のファッションがすっごく気になるんだよね。魔界騎士団デモンナイツの隊服おしゃれカッコよすぎるんだもん」


 服がカッコいいは超同意。


「俺的にはロバートさんの服がカッコよくて好きだな。なんていう服なんですか?」


「人間界には無いんですね、この服。これは“スーツ”といいます」


 ほうほう。


「スーツってアスタロトに似合いそうだよな。アスタロト、クールでカッコいい系だし」


「着ませんよ」


「クロムに賛成! アスっちのスーツ姿とか、絶対カッコいいから超見たいんだけど!」


「ルカも見た~い!」


「着ます!」


 アスタロトは簡単に手のひらを返した。

 やっぱ俺にだけ当たり強いわ。


 そんな会話をしているうちに、首都の入り口が見えてきた。

 頭が三つある大きな犬に引かせた馬車に近い乗り物──ロバートさんによるとケルベロ車というらしい──が走っている。

 遠くのほうに地上数十メートルはありそうな高い建物が見えた。

 魔界のほうが発展してる説が濃厚になってきたな。


 ロバートさんと共に首都の入り口に移動する。

 門番をやっていた悪魔が話しかけてきた。


「彼らが例の人間か。国からの対応は伝わっているが、念のためこちらでも確認させてくれ」


 というわけで、俺たちはもう一度事情聴取されたものの、悪魔国の詰所には嘘を見抜く魔道具が標準搭載されていたためすんなりと終わった。


 ってか、俺たちの存在はもう国に伝わっているのか。

 情報伝達速度エグない?


「確認が取れた。通ってヨシ!」


 俺たちは悪魔国に足を踏み入れる。

 出迎えてくれた街並みは、予想通り人間界より何倍も発展していた。


「軽く数百年くらいは先を言ってそうな発展具合だな」


 細部まで整備された美しい街並み。

 素人目でもわかるほど優れた建築技術を持つ建物群。

 街行く悪魔たちの服装など、その細部から魔界が発展していることをうかがわせる。


 おまけに、見たことがない乗り物が走っていた。

 金属製と思われる直方体の車両がいくつも連なっており、窓から乗車している悪魔たちの姿が見える。

 なんじゃありゃ!? 超カッケー!!!


「あれは電車という乗り物です。環状線といって首都を一周してますので、観光の時はぜひご利用ください」


「俺、絶対後であれに乗る!」


「ルカも乗る!」


 目をキラキラさせながら宣言した俺とルカを、ミラとアスタロトはめた目で見ていた。

 どうやら二人には、あれの魅力がわからないらしい。


 ルカと一緒に電車の魅力について熱弁しながら歩いていると、俺たちは事件? に遭遇した。

 場所は露店通り。

 そこの一角にある露店の前で、二人の悪魔が言い争っている。


「何言ってんだオメエよォ~!? 魔牛の串焼きはシンプルに塩でいただくのが最高だよなァ!?」


「お前は何を言っているんだ? 塩よりも秘伝のタレで焼いたほうが絶品だが?」


「そうかよ。なら、どっちがうまいか拳で決めようや」


「よかろう。受けて立つ」


 一触即発の空気。

 殴り合いが始まるかと思いきや、二人の悪魔はいきなり肩を組んでどこかへ行ってしまった。

 それも楽しそうな様子で。


「なんだったんだ……? ツンデレ仲良しペアだったのか?」


「「「さあ……?」」」


「あの二人は決闘をしに行ったのですよ」


 困惑する俺たちに、ロバートさんが解説を始めてくれた。


「人間の三大欲求として『食欲』、『睡眠欲』、『性欲』がありますよね。悪魔はそこに『戦闘欲』が加わるのですが、『戦闘欲』を適度に満たせないと攻撃的になっていきがちです。その戦闘欲を発散するために、あの二人は決闘用の施設に向かったのです」


「ここでいきなり戦ったりはしないんですね」


「そこら中で戦ってたら迷惑じゃないですか?」


 それはそうなんだけど……なんか悪魔のイメージと違う!


「人間界だと六百年ほど前の戦争の話しか残っていなかったので、悪魔はもっとこう凶暴なのかと……」


「それは前時代の話ですね。その戦争に負けた後、血と暴力で支配された魔界の在り方に前々から疑問を抱いていた悪魔たちが協力し、革命を起こしました。今の魔界は、民主主義の法治国家なのです!」


 ロバートさんの話を聞いた上で言いたいことはたくさんあるが、せめてこれだけは言わせてくれ。



 魔界、思ってたんと違う。



 前情報とは全く違う魔界の在り方に、俺はただただ衝撃を受けたのだった。


「そろそろ行きましょう。目的地はもうすぐですよ」


 ロバートさんの一言で移動を再開する。

 それから数分後。

 俺たちは大きな屋敷にたどり着いた。


 屋敷の使用人とやり取りするロバートさん。

 ものの数分で俺たちは応接室に通され、結界師と対面することになった。


「ようこそおいでくださいました、人間の方々。わたくしはリジー・フラスティアですわ」


 ねじれた片角が特徴的な紫髪の女性。

 リジーさんは優雅に一礼する。

 貴族のお嬢様も顔負けの上品さだ。


「ロバートから話は聞いておりますわ。魔界と人間界をつなぐワープホールはわたくしが手を打って差し上げましょう」


 意外とすんなり話が通ったな。

 これでワープホール事件は解決!


 ……とはいかなかった。



「ただし、条件がありますの。貴方たちには、三日後に開催される魔界の大イベント──“最強トーナメント”に出場してもらいますわ」


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