第3-11話 魔界騎士団との遭遇

「着いたのか……?」


 ワープホールに飛び込んでからずっと続いていた浮遊感が消えた。

 俺は恐る恐る目を開く。


「みんな無事か?」


「ルカは大丈夫!」


「私もー」


「問題ありません」


 全員無事なようだ。

 ひとまず俺は安堵する。

 それぞれ違う場所に飛ばされたりしなくてよかった。


「……にしても、ここが魔界か」


 俺は周囲を見渡す。

 ここはおそらく森だと思うが……。


「思ってたよりも普通だね」


 ミラがそんな感想を呟く。

 俺たちは三人ともミラに同意した。


「魔界っていうからなんかこう、もっとドロドロジメジメした暗い感じの場所をイメージしてたんだけどな」


 でも実際はイメージとかけ離れていた。


「植物は人間界とは違うけど、別に常識の範囲外ってわけではないしなぁ」


「太陽が眩しいですね。これ以上ない洗濯日和です」


「ピクニック日和だね」


 のんきな発想が出るくらいには、魔界は普通だった。

 変わったものといえば、やたらきれいな花が咲いているくらい。


 ここは本当に伝承の悪魔たちが住む世界なのだろうか?

 そんな疑問がわき上がってくる。


 ぐぅぅ~。

 隣から可愛らしい音が聞こえてきたことで、俺の思考は中断される。

 見れば、ルカが少しだけ恥ずかしそうにしていた。


「……えへへ。ピクニック日和だなぁって考えたらお腹空いてきちゃって」


「なら、少し早いですが昼食にしましょうか。ちょうどサンドイッチの作り置きが【アイテムボックス】にありますので」


「サンドイッチ!」


 アスタロトの言葉に反応したルカが、しっぽを左右にぶんぶん振る。


「メンチカツサンド、タマゴサンド、フルーツサンドなどいろいろありますよ」


「わ~い、やったー! ルカ、全種類食べる~!」


 ルカは満面の笑顔で嬉しそうにバンザイする。

 せっせとピクニックの準備をするアスタロトの傍らで俺が植物の観察をしていると、空から周囲の偵察をしていたミラが戻ってきた。


「なんかいっぱいこっちに来てるよ。どうする?」


「悪魔か?」


「たぶん」


 ミラはけろっとした顔で頷く。

 みじんも危機感を抱いていないあたり、そこまでの脅威ではないのだろう。


「正直なところ、伝承の悪魔そのままだったら会いたくはない。……けど、ワープホールを元に戻す手掛かりを探すなら、悪魔との接触は不可欠なんだよな。ひとまずここで待つか」


「りょーかい。もし戦闘になったら私も手伝うよ」


「ありがとな」


 ルカとアスタロトはピクニック中なので、話し合いor戦闘は俺とミラで行うことになった。

 悪魔たちが話の通じる相手であればいいのだが。


 警戒体制のまま待つこと一分ほど。

 悪魔たちが姿を現した。


「おい、不審者がいるぞォ!」


「悪魔じゃない!? まさか人間か……?」


「いや、一人だけ悪魔のような気配を放ってるやつがいる!」


 悪魔たちは、人間とほとんど変わらない姿の個体から上半身が動物の個体まで様々。

 その全員から明確な知性を感じる。

 防具を着て武器を携帯した彼らは、さながら人間界の騎士団のようだった。


「いきなり現れた人間たち……。例の事件に関係していそうですね」


 彼らの中でもひと際強い気配を放つ悪魔が一歩前に出てくる。


 ……強いな。

 間違いなくSランクの世界に到達している。


 その悪魔は馬の頭をした男性で、腰に二本の剣を差している。

 鞘の形状からして、普通の剣ではなさそうだ。


 服装は礼装に似た黒衣を着ており、とても似合っている。

 貴族服のような煌びやかさはないが、その素材が貴族服と同等以上に上質なのは一目でわかった。

 ……これ、魔界のほうが人間界よりも発展している可能性あるのでは?


「話し合いの余地はありますか?」


「悪いですが、捕縛させていただきますよ!」


 馬悪魔が二本の剣を鞘から引き抜き、斬りかかってきた。

 俺は剣で応戦する。


 ガキンッと金属音を響かせて、俺たちの力がぶつかり合う。

 俺の剣を、馬悪魔は剣二本でなんとか受け止めた。


「……戦うしかないか」


 俺は馬悪魔が使っている剣を見る。


 薄く長い剣身に、特徴的な曲線形状。

 美しい刃文が浮かんだ外観は、武器というより芸術的な美しさがあった。


 あの武器はおそらく、『刀』と呼ばれているものだ。


 ハイリッヒ侯爵家は“剣聖”の一族と呼ばれているだけあって世界中の刃物に造詣ぞうけいが深く、それらについて記された書物を多数保有している。

 その中のとある書物に出てきた『刀』という武器の特徴が、馬悪魔の使っている剣の特徴と一致していた。


「ミラ、そっちは大丈夫そうか?」


「問題ないよ。もうすぐ無力化終わるところ」


 ミラは空中を飛び回って悪魔たちの攻撃を躱し続けながら、【デバフマスター】と【催眠術】のコンボで悪魔たちを次々に眠らせていく。

 馬悪魔との戦闘を続けていると、ついに最後の悪魔が倒れた。


「団長、すまないっす……」


悪魔騎士団デモンナイツを一人で倒す実力。あちらも只者ではないみたいですね……!」


「大人しく降参してもらうことは……」


「たとえ団員たちが負けたとしても、騎士団長である私が折れるわけにはいかない! 情けは無用ですよ、かかってきなさい!」


「あ、はい」


「クロム頑張ってね。私はサンドイッチ食べてるから」


 団員が敗れたくらいじゃ、魔界の騎士団長の闘志は消えないらしい。

 ほのぼの平和空間でピクニックする三人に見守られながら、俺は馬悪魔と一騎打ちすることになった。


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