第3-10話 国王様からの指名依頼

「指名依頼の詳しい内容はギルマスが直接教えてくれるそうだ」


 俺はギルドに向かいながらそう告げる。


 内容が緊急を要するものなだけに、ルカたちを連れてきてからまとめて説明したほうが効率がいい。

 ギルマスからそのように言われたため、俺もまだ指名依頼の内容は知らないのだ。


 とはいえ緊急性が高いことは間違いない。

 俺がSランクレベルの実力を持っていることを国王様は知っている。

 その国王様が、Aランク冒険者や騎士団長ではなく俺たちを指名したくらいなのだから。



 ギルドに到着。

 俺たちは建物に入る。

 すると、周りにいた冒険者たちの一部が怯えた様子でこそこそ話し始めた。


「ヤベェ……。目を合わすなよ、られるぞ……」


「どういうことだよ?」


「バッカ、お前知らないの? “暴虐メイド”にだけは手を出すなっていう掟があってな……!」


 俺はアスタロトに視線を向ける。

 あ、目を逸らされた。


「なんかやったのか、アスタロト?」


「先日一人で依頼を受けた後、酔っぱらいの冒険者にセクハラされそうになったので床に埋めて差し上げただけです」


「床に埋めたって何!? ギルドの床が一部分だけ真新しいのはそのせい……?」


「“暴虐メイド”などと呼ばれるのは心外ですね。貴方たちも埋めて差し上げましょうか?」


「そういうとこやぞ」


「連れてきたか、クロム。説明は案内しながら話す。ついてこい」


 そんなやり取りをしているとギルマスが登場。

 ギルマスに連れられて、俺たちは王都近郊の森へ移動する。

 その道中、ギルマスは依頼内容について説明してくれた。



「王都のすぐ近くの森で、異次元につながるワープホールが発見された。ワープ先は『魔界』。悪魔たちが住む世界だ」



「魔界……」


 俺はギルマスの言葉を復唱する。


 お伽噺とぎばなしの勇者たちが実在したのが約四百年前。

 それよりさらに二百年ほど前に、人類と悪魔の大規模な戦争が起こっている。


 その時の記録によると、悪魔はとても残虐で暴力的な存在であるらしい。

 おまけに悪魔たちは、死んでも時間が経てば復活するという不死性を備えている。

 そのため、戦争は最終的に人類が数の差で勝ったものの甚大な被害をこうむったそうだ。


 ちなみに、アスタロトはキメラという特殊な枠組みのため、悪魔特有の不死性は持ち合わせていない。

 一度死んだらそれきりだ。


「悪魔がこちらの世界になだれ込んでくるような事態になれば、間違いなく戦争になって大勢の人間が死んでしまう。だから国王様は俺たちに解決してほしいというわけですね?」


「話が早くて助かる。クロムたちは魔界に突入し、ワープホールをどうにかする方法を見つけて欲しい。かなり危険な依頼になるが、その分、国王様からの報酬も手厚い。金銭に加えて、クロムたち全員をSランク冒険者に推薦するだけじゃなく、クロムたちが貴族から手出しされないように国王様自ら後ろ盾になってくれるそうだ」


 報酬が破格!

 まあ、そうじゃなくても受けるけど。


「この依頼、受けてくれるか?」


 ギルマスの言葉に俺は頷く。


「もちろんです。国や民の危機を放っておくことはできません」


「ルカも受けるよ。クロムお兄ちゃんの手助けしたいもん!」


「私もおっけー。謁見の後くらいから貴族の手下っぽいのがずっと屋敷の近くをうろついてて不愉快なんだよね。下手に手を出すわけにもいかないしさ。こくおーさまが後ろ盾になってくれるなら喜んで受けるよ」


「では、わたくしも受けましょう。ミラ様をお守りするのがわたくしの役目ですから」


「礼を言う」


 俺たち四人が魔界に行くことは決定した。

 しかし、いいのだろうか?


「この世界と魔界がつながるためには、誰かがこちら側から扉を開かないといけない。つまり、魔界へのワープホールを作った犯人がいることになります。加えて、すでに悪魔がこちらの世界に侵入している可能性もあります。その辺りは大丈夫なのでしょうか?」


「それなら大丈夫だ。もうすぐ着くから、詳細は彼から直接聞くといい」


 そう言われて、さらに案内されること五分ほど。

 目的地に着いた。


「お久しぶりです、クロムさん」


 そこにいたのは、謁見の時に模擬試合をした騎士団長だった。


「お久しぶりですね、騎士団長。どうしてここに?」


「君たちが魔界に行っている間、我々騎士団が王都周辺の警戒と有事の際の防衛、犯人の捜索を行うことになりました。ですので、こちらの世界は我々にお任せください」


「そういうことですか、わかりました。くだんのワープホールは?」


「こちらです」


 騎士団長が示したほうには、直径二メートルほどの黒い魔法陣が宙に浮かんでいた。

 魔法陣の中心がワープホールになっており、強い光を放っている。


 最後の確認だ。

 俺はみんなを見る。


「この先が魔界だ。覚悟はできてるか?」


「ん! ルカはやる気充分!」


「できてなかったら断ってるって」


「敵はすべて片付けるまでです」


 意気込みヨシ!

 俺はギルマスと騎士団長に別れの挨拶を告げる。


「それでは、行ってきます」


「頼んだ。死ぬんじゃないぞ」


「ご武運を!」


 俺はワープホールに近づく。

 大きく息を吸い込んでから、一歩踏み出す。

 ワープホールの中に飛び込んだ。


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