第3-9話 アスタロトって実は可愛いんだよね
謁見から数日後。
一人で出かけているクロムを除いた三人は、屋敷で思い思いに過ごしていた。
「うーん、思ってたより難しいかも」
ミラは自室で机に向き合いながら、ペンを動かしてはあーでもないこーでもないと悩む。
ルカはその様子をミラのベッドに寝転がりながら興味深そうに眺めていた。
「ミラお姉ちゃん、小説書くのって楽しい?」
「うん。難しくはあるんだけど、それ以上に楽しいのは間違いないね。…………おっ! いいアイデア思いついた!」
「ルカね、ミラお姉ちゃんが楽しそうにしてるの見れて嬉しいよ。完成したら読ませてね!」
「もちろん! ルカには一番に見せてあげるよ」
「やった~!」
二人が楽しげに話していると、コンコンコンとノックの音が。
ミラが「どうぞー」と答えると、アスタロトが入ってくる。
手に持っているお盆には、香ばしい匂いを放つタルトケーキが乗っていた。
「失礼致します。おやつを持ってまいりました」
「わぁ……!」
目を輝かせながらケーキを見つめたルカ。
ケモミミがぴょこぴょこと忙しなく動き続け、しっぽはブンブンと激しく振られる。
「すごくおいしそうなケーキじゃん。アスっち、お菓子作りも得意なのすごい!」
「……ミラ様に食べて欲しくて焼いてみました」
アスタロトは少しだけ頬を染めながら、恥ずかしそうに答える。
無表情クールなアスタロトしか知らないクロムが見たら驚きすぎて三度見はするであろう表情を見たミラは、何かを察したようにニヤニヤし始めた。
「ははーん。さてはアスっち、私のことが好きだね?」
「す、好きだなんてそんな……。嫌いです!」
アスタロトの顔が紅潮していく。
「アスお姉ちゃんってツンデレさんなんだね!」
「可愛いじゃん、アスっち。そんな表情できたんだ~」
「せっかくのケーキが冷めてしまうので早く召し上がってください! ルカはホットミルクを、ミラ様は紅茶をどうぞ!」
アスタロトは恥ずかしさを誤魔化すように早口で告げながら、テーブルにおやつを並べていく。
ケーキの魔力に勝てなかったルカとミラは、アスタロトをからかうのを中断してケーキを食べ始めた。
アスタロトは不安そうに髪の毛をくるくるしながら尋ねる。
「どうでしょうか……?」
「ルカ、今とっても幸せ~」
「私もアスっちのお菓子食べれて幸せ~」
「……それならよかったです」
アスタロトは少しだけ口角を持ち上げる。
ミラがニヤニヤしながらその様子を眺めていると、ルカが悲しそうに呟いた。
「もう食べ終わっちゃった。残念……」
「私のやつ一口あげるよ。はい、あーん」
「あーん。ん~、おいし~」
幸せそうにもぐもぐするルカ。
アスタロトは羨ましそうな目でルカを見る。
すぐに察したルカは、楽しげな表情でミラに話しかけた。
「ねぇねぇ、ミラお姉ちゃん。アスお姉ちゃんにもあーんってしてあげたら?」
「ってルカは言ってるけど、アスっちはどう? あーんしてほしい?」
「
「嫌なの……? 悲しい……ぐすん……」
「……し、仕方ないですね! お願い致します!」
ミラがわざとらしく泣き真似をすれば、アスタロトは渋々と言った感じで了承してくれた。
アスタロトは恥ずかしそうに視線を逸らしながら、小さく口を開く。
「はい、あーん。と見せかけて私が食べる! ん、おいしっ!」
「何してるんですか!?
ミラの手の平で踊らされるアスタロトを見て、ルカは楽しげに笑う。
ミラもまた、笑いをこらえられずに吹き出した。
「ふへへ、ごめんごめん。アスっちをからかうのが楽しすぎてつい。今度はちゃんとするから機嫌直して?」
「本当にちゃんとしてくださいよ?」
アスタロトはジト目で念押ししてから、おずおずと口を開く。
「はい、あーん」
「……あーん」
アスタロトは戸惑いがちにミラの言葉を復唱しながら、差し出されたケーキを食べる。
一口一口噛みしめながら食べる様を、ミラは微笑みながら眺めた。
「アスっち、ほっぺ緩んでるよ」
「そんなことないです」
「キリっとしてももう遅いから」
と、そのタイミングでルカが一言。
「よかったね、アスお姉ちゃん。ミラお姉ちゃんと間接キスできたね!」
「…………あ……」
アスタロトの顔が、茹でられたエビのごとく一瞬で真っ赤になる。
「え? 気づいてなかったの、アスっち? 初心で可愛いね。初間接キスした感想聞かせてよ」
「……か、かかかかんせ、間接……初めての……」
アスタロトは口をパクパクさせながら、頭からぷしゅーっと蒸気を吹き出す。
「アスお姉ちゃん可愛い~! ミラお姉ちゃんもそう思うよね~」
「ね~。ギャップ萌えしちゃった」
「…………二人ともズルいです……」
恨めしそうに呟いたアスタロトは、ミラのベッドに倒れ込み毛布の中に顔を埋めた。
どうやらふてくされてしまったらしい。
「アスっち出ておいで」
「嫌です。メイドの仕事はストライキします。
呼びかけを頑なに無視するアスタロト。
ミラが内心で「からかいすぎちゃったかな」と考えていると、部屋の扉を勢い良く開けてクロムが入ってきた。
「みんな聞いてくれ大事な話が…………アスタロトは何してるん?」
ミラのベッドに突っ伏して毛布に顔を埋めているアスタロトを見たクロムは困惑する。
(ミラの目の前で、ミラのベッドの匂いをかぐという変態プレイ……?)
クロムがあらぬ誤解をしていると、ルカがいち早く助け舟を出した。
「みんなで毛布の中に突っ込む遊びをしてたの! 次はルカの番ね。ヘッドスライディングホールイン!」
「どういう遊び……?」
ベッドに飛び込んだ勢いのまま頭から毛布の中へインしたルカを見て、クロムは余計に困惑した。
そのタイミングで毛布から頭を出したアスタロトは、先ほどまでの出来事が嘘だったかのように無表情で口を開く。
「ルカに頼まれて渋々付き合ってあげていただけです。それと、部屋に入ってくる時はノックをしてください。貴族出身なのにその程度のこともできないのですか? 非常識ですね」
「うぐ……。大事な話があって慌ててたからつい忘れて」
「言い訳しないでください。活け造りにして差し上げましょうか?」
「すいません……」
アスタロトの言葉は辛辣だが、正論を言っているのは間違いない。
クロムもそれは理解しているので、素直に謝った。
……まあ、活け造りにされたくないからというのもあるだろうが。
「ところで、大事な話って何?」
ミラが尋ねる。
「ああ、それは──」
クロムは一呼吸おいてから告げた。
「俺たちに緊急の指名依頼が入った。依頼主は、国王様だ」
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