第3-8話 アスタロトの冒険者登録と一日の終わり
「クロム、アスっちは冒険者登録させないの?」
昼食後、ミラがそう尋ねてくる。
俺は天に昇ろうとしていた魂を肉体に戻してから答えた。
「してたほうがいろいろと便利だからさせるつもりだけど」
「なら、今からギルド行かない? ちょっとくらい夜ごはん遅くなっても大丈夫っしょ?」
「俺はいいけど、ルカとアス──」
おっと、危ない。
アスタロトを名前呼びしちゃいけないんだった。
「……メイド様はそれでいいか?」
「ルカは大丈夫だよ」
「問題ありません。……それと、その呼ばれ方はなんか嫌なので名前で呼ぶことを許可します」
おー! 名前呼びの許可いただきました!
……まあ、名前で呼ばれるのは嫌だけどメイド様と呼ばれるよりはマシだから断腸の思いで許可を出したって感じだったから、俺たちの距離が縮んだわけでは決してないんだけど。
それから十分後。
俺たちは冒険者ギルドに入る。
すると、周囲の冒険者たちが俺たちのほうを見ながらひそひそ喋り出した。
「……あれが最速でAランク冒険者になったやつだよな?」
「ああ、そうだ。今じゃ有名人だよ」
「女の子に囲まれてるなんて……! リア充爆発しろ!」
「あの仮面の子可愛い。声かけようかな」
最後の人、悪いことは言わないからミラに手を出すのだけはやめとけ。
メンタル壊されるぞ。
俺たちは冒険者登録専用の受付に移動する。
「彼女の冒険者登録をお願いします」
「メイドさんをですか……? かしこまりました」
アスタロトを見て困惑した受付嬢さんだったが、すぐに手続きを始める。
切り替えの早さがプロってるな。
「……では、こちらの書類に記入をお願いします」
「承知いたしました」
アスタロトが書類を記入している間に受付嬢さんは説明を続ける。
「実力試験の担当者が不在もしくはすでに予約が入ってる状態でして、アスタロト様の実力試験を行えるのは最短で二日後に──」
「それなら問題ない。俺が実力試験を行おう」
受付嬢さんの言葉を遮って告げてきたのは、ギルマスだった。
「過去最速でAランクに到達したやつが連れてきた人材だ。試験官では手が余るだろう」
ギルマスそれはさすがに俺を買いかぶりすぎでは? と一瞬思ったけど、実際その通りなので何も言わないでおく。
「記入終わりました」
「そうか。試験会場に移動する。ついてこい」
アスタロトはギルマスと一緒に試験会場に向かう。
俺たちは観客席で見学だ。
というわけで観客席にやって来たのだが、なぜか他の冒険者たちもわらわら集まってきた。
そんなに俺たちのことが気になるのか……?
「試験用の武器はそこに置いてあるから、好きなのを使ってくれ」
ギルマスからそう言われたアスタロトは、並べられている武器の中から大剣を手に取った。
大剣を軽々と持ち上げて肩に担いだアスタロトが予想外過ぎたのか、観客席がどよめく。
実はアスタロトって大剣使いなんだよな。
【キメラ創生】の材料にゴブリンキングの大剣を入れたからなんだけど、ギャップがすごい。
大剣を振り回して敵を殲滅するメイドなんて、アスタロトくらいしかいないだろ。
ちなみに今アスタロトが持っている試験用の大剣は長さ一.六メートルほどだが、実際にアスタロトが使う大剣はあれよりも一回り大きい。
ギルドに来る前に見せてもらったけど、重量・分厚さ・刀身そのどれもがすごかったぞ。
「準備できたか?」
「いつでもどうぞ」
ギルマスとアスタロトはお互いに武器を構える。
審判が合図を告げた。
「試験開始ッ!」
──直後、アスタロトがギルマスの首に大剣を突きつけていた。
「……い、いったい何が起こったというんだ……?」
「俺、一応Aランク冒険者。何も見えなかった」
「……もしかしなくてもSランク冒険者レベルの実力者なんじゃ……」
観客席がざわめく。
真相はいたってシンプルだ。
試験開始と共に、【瞬歩】を発動したアスタロトが一瞬で距離を詰めた。
ただそれだけ。
移動速度を一瞬だけ大きく引き上げる【瞬歩】を使えば、超短距離に限りルカに匹敵する速度を出せる。
「まだ続けますか?」
「……い、いや……充分だ……」
ギルマスは冷や汗を流しながら答える。
「し、試験終了ですッ!」
我に返ったように審判が終了の合図を告げた。
「お待たせいたしました。こちらがアスタロト様のギルドカードとなります」
試験を終えたアスタロトはギルドカードを受け取る。
カードには、Bランクと記載されていた。
「実力は申し分ないが、Aランク以上になるには人間性などの要素も重要になってくる。実力はあるが性格が終わってるようなやつを高ランク冒険者にしてしまうとギルドの評判が落ちかねないからな。以上の理由でBランクという判定にした」
「なるほど、承知致しました。では、帰りましょうか」
冒険者登録を終えた俺たちは、夕飯の材料を購入してから屋敷へ帰る。
それから一時間程度で料理が並べられた。
「本日の夕食は、オーク肉とコカトリス肉を使ったホワイトシチュー、玉ねぎとトマトのマリネ、彩り豊かな野菜スープとなっております。パンはシチューにつけて召し上がるのがおススメです」
「「「お~……!」」」
相変わらずめっちゃうまそうな料理に、俺たち三人は目を輝かせる。
一口食べた瞬間、うますぎて危うく昇天しかけてしまった。
「スープが超うまい! 優しい味が身に沁みるぅ~……」
「このマリネってやつ、さっぱりしてて最高なんだけど! これ無限に食べられるやつだわ! アスっちの料理最高っ!」
「シチューがヤバすぎてすごいヤバいよ! このドロ~っとした独特の食感にお肉や野菜の旨みが溶け込んでてすっごくおいしい! アスお姉ちゃんの料理大好き!」
「ありがとうございます」
ホントにアスタロトの料理がうまいのなんのって!
アスタロトが飲食店始めたらあっという間に伝説の名店になって王宮料理人に登用される未来しか見えんわ!
そんなこんなで料理を堪能してから風呂へ。
今日はいろいろあって疲れたから、のんびり湯船に浸かって休みたいところ。
「ルカ、今日は私が頭洗ってあげるよ」
「わ~い、楽しみ~!」
例のごとくルカ、ミラとは一緒に入るのだが…………えー、なぜかアスタロトまでご一緒することになりました。
「見たら殺します」
「じゃあ一緒に入るなよ」
「
俺とアスタロトがいがみ合っていると、ルカが怒った様子で間に入ってきた。
「もう! クロムお兄ちゃんもアスお姉ちゃんもケンカしたらめっ! だよ」
「「俺(
仲良く肩を組んだ俺たちはルカに連れられて風呂に入る。
体を洗い終わったところで湯船にイン。
ちなみにルカたちはまだシャワー中だ。
「ルカ、私のおっぱい揉む?」
「え、もむー。わぁ、柔らかい!」
こういう流れは平常運転だから気にならない。
……ことはなくもないけど、もう慣れた。
「
アスタロトさん!?
……意外と変態だったのか、アスタロト……。
衝撃の事実が判明したお風呂タイムを終えた俺たちは寝室に移動する。
ギルドに行く前にそれぞれ自分の部屋を決めたのだが、一人で寝るのは寂しいというルカの要望でみんな一緒の部屋で寝ることになった。
ちなみに、部屋割りのほうは二階角部屋がミラ。その隣がアスタロト。その隣がルカ。その隣に俺、という感じになった。
まだまだ部屋はいっぱい余っているため、残った部屋の使い道はおいおい考えていくとする。
「昨日はミラお姉ちゃんと一緒に寝たから今日はクロムお兄ちゃんと一緒がいい!」
「俺もルカと一緒がいい!」
「じゃあ、私はアスっちと一緒に寝るね。アスっちはそれでいい?」
「喜んでご一緒させていただきます」
お互いにペアが決まったところで布団に入る。
謁見、騎士団長との模擬試合、国王様との対談、屋敷の授与、アスタロトの仲間入り……。
今日は過去一番濃い一日を過ごしたのもあって、俺はあっという間に眠りに落ちたのだった。
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