第3-7話 アスタロト

 【キメラ創生】の魔法陣が眩く光る。


「今思い出したんだけど、マジックバッグの中に禁書入ってなかった?」


「あ……」


 ミラの指摘を受けて、俺は呆けた声を出す。


 ……そうだった。

 黒魔術大全とかいうヤバい本を封印してたんだった。

 【キメラ創生】の材料にしちゃったけど大丈夫か……?


 魔法陣の光がひと際強くなる。

 直後、低めの女性の声が聞こえてきた。


わたくしはアスタロトと申します。お呼びでしょうか、ミラ様」


 鮮やかな赤い瞳の三白眼で、絹のような光沢を放つ銀髪を後ろで一つにくくっている。

 背中から悪魔の翼が生えており、身長は170後半の長身。

 白と黒を基調としたクラシカルタイプのメイド服を着た、見た目年齢26歳くらいのクール美女が立っていた。


「仲良くしようね、アスっち!」


「よろしくね、アスお姉ちゃん!」


「二人ともよろしくお願い致します」


 はじめましての挨拶をする三人を見守る。

 この様子だと仲良くやっていけるだろう。

 よかったよかった。


「よろしくな、アスタロト!」


「気安く名前を呼ばないでください」


「はい、すいません……」


「嫌われてるのウケるwww。クロム、強く生きて」


 いきなりガチ拒絶されてしまった。


 上からつり目三白眼に睨まれるのちょっと怖いな。

 無表情で何考えてるのかわからんのも怖さに拍車をかけている。


 俺なんか嫌われるようなことやったのか……?

 いきなりフランクな感じで話しかけた……のはルカとミラも同じか。

 なぜ俺だけ? うーむ、わからん!


 ……アスタロトと仲良くなるのは少しばかり時間がかかりそうだ。


「ねぇねぇ、クロム。アスっちの種族ってどんな感じ?」


「種族は魔人デモンノイド、Sランクだな」


 俺がSランクの世界に到達したからか、ヌルっとSランクの魔物が作れてしまった。

 【キメラ創生】がチートなのは知ってるから、もう何も驚かないわ……。


「私たちおそろじゃん、アスっち!」


「ルカもSランクだよ。おそろだね!」


「光栄です」


「俺もSランクなんだ。おそろだな!」


「次同じこと言ったら海の藻屑にして差し上げますよ?」


「すみませんでした。もう二度と言いません……」


 うーん、やっぱり俺には辛辣しんらつだ。

 ミラ、ルカと俺に対する扱いの差がひどい。


「屋敷の管理はわたくしにお任せください。完璧に管理させていただきます」


「一人で大丈夫なの?」


「問題ありません」


 アスタロトはクールに言い放つ。

 『家事魔法』が使えるアスタロトにとっては、屋敷の大きさなど関係ないのだろう。


「アスっち料理できる?」


「得意です」


「じゃあさ、お昼ごはん作ってくれない? いろいろあって今日はまだ食べれてないんだよね」


「ルカもお腹ペコペコ!」


「かしこまりました。食事を作ってきますので、しばらくお待ちください」


 キッチンに向かったアスタロトを見送ってから、俺たちは食堂へ移動する。


 そうそう、一つ朗報があってな。

 マジックバッグが【キメラ創生】の材料になったことで、アスタロトが【アイテムボックス】のスキルを所持していたんだ。

 【キメラ創生】の共有機能で俺も【アイテムボックス】を使えるようになったので、結果としては手を滑らせたのがいいほうに転がったな。


 それから、マジックバッグの中に入っていたアイテムに関してだが、こちらは【キメラ創生】の材料にならなかったものはアスタロトの【アイテムボックス】内に収納されていることが判明した。


 お金や食料品・日用品などが残っていて一安心だ。

 特にお金。俺の不手際で一文無しになったりしなくて本当によかった。


 それから数十分後。

 食堂にやって来たアスタロトが、【アイテムボックス】から取り出した料理を並べていく。


 切り込みを入れたパンに肉と野菜をはさんだ見たこともない料理に、アクアマイムで買った魚の燻製を使ったスモークサラダ、香ばしい匂いが立ち昇るスープ。

 どれもめっちゃうまそうなんだが!?


「本日の昼食は、お肉と野菜を甘辛く炒めたものをパンにはさんだ特製サンドイッチ、新鮮な野菜を使ったスモークサラダ、かぼちゃと人参のミックスポタージュとなっております。どうぞお召し上がりください」


「「「いただきまーす!」」」


 ゴーサインが出た瞬間、俺たちは思い思いの料理にかぶりつく。


「スープ超うまい! まろやかな味わいの中に野菜の旨みとコクが調和してて最高!」


「スモークサラダとドレッシングの相性がよすぎなんだけど!」


「このサンドイッチっていうのもすっごくおいしいよ! ルカこれ大好き!」


 アスタロトの料理は大好評で、ルカとミラはあっという間に食べ終わってしまった。

 一方俺は未だサンドイッチに手をつけていない。

 見た目はとてもうまそうなんだが……。


 俺は幸せそうな表情をしているルカの袖をツンツンする。


「ルカ、ピーマンだけ食べてくれない?」


「え? クロム、ピーマン嫌いなの? 子供かな?」


 目ざとく聞きつけたミラが話に割って入ってくる。


「実は俺、ピーマン食べたら死んじゃう病で……」


「って供述してるよ、アスっち。どうする?」


 供述って言い方やめろ。

 俺が犯人みたいになるじゃん。


「好き嫌いやアレルギーは事前申告してくだされば対応致します。今回は聞き取りを行わなかったわたくしの不手際ですので残さず食べてください」


「そこは残していいですよって言うところでは!?」


 反射的にツッコミを入れた俺は、恐る恐る尋ねる。


「……残した場合はどうなるんですか?」


「そうですね……。ピーマンに詰めて焼いて差し上げましょうか?」


「俺でピーマンの人肉詰め作ろうとしないで!?」


 ピーマン食べようが残そうが、どっちにしろ死ぬんだが!?

 選択肢が両方ともバッドエンドなんだが!?


 ミラとアスタロトがずいっと近づいてくる。


「ピーマン食べよっか!^^」


わたくしの料理が食べられないなんて言わないですよね?」



「あああああああピーマンに殺されりゅ%□&$※r#ぅぁぁぁぁああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!」



 その日、屋敷中に俺の断末魔が響き渡った。


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