第3-6話 【キメラ創生】で闇鍋してみた!
国王様との対談を終えた後。
買い物に行っていたルカとミラが戻ってきたところで、俺たちは馬車に乗り褒賞品の屋敷に向かう。
ちなみに屋敷へは二台の馬車で向かっており、先頭の馬車には案内人が、後ろの馬車には俺たちが乗っている。
「ルカ、もうお城行きたくない……」
俺の隣に座るルカが暗い顔で呟く。
国王様の前で、よりにもよって第一声で変態発言しちゃったもんな。
落ち込んでも仕方ないよ、そりゃ。
「ビックリしたクロムのモノマネしま~す! んぱぁ!?」
「悪意のあるモノマネやめろ。変な声は出したが変顔まではしてないから!」
「いやいやいや、充分変な顔してたから! わりとブサかったよ」
「やかましいわ!」
そんな感じでギャーギャー言い合っていると、ルカの表情が明るくなった。
ミラのモノマネを見て、ちょっとは元気を取り戻せたようだ。
「ミラお姉ちゃんありがと。モノマネそっくりで面白かったよ」
「え……!?」
「ほれ見たことか! 私の勝ちですなんで負けたか明日までに考えといてね!」
ミラは勝ち誇ったように宣言する。
ショックのあまり項垂れていると、ルカが服の裾をちょんちょんとつついてきた。
「ルカ、勇者についてあまり知らないから教えて欲しいな」
「それは私も知りたい!」
ミラに教えるのは
俺は勇者の物語の細かなネタバレはせず、大まかなあらすじを伝える。
「へ~、めっちゃ面白そうじゃん。今度買おっと」
「ルカも読みた~い!」
「なら一緒に読もっか」
二人の反応を見た俺は、内心でガッツポーズをする。
よしよし、勇者沼に引きずり込んでやったぞ。
好きな作品の売り上げに貢献できた時ほど嬉しいことはないよな。
「主要登場キャラクターについても軽く教えてくんない?」
「あまり言うとネタバレになるから、主人公パーティーの紹介だけにしとくな。まずは主人公で勇者パーティーのリーダーでもある勇者ネロ。『救国の女神』の二つ名を持つ聖女ソフィア。あらゆる魔法を扱うことができる大賢者グリム。仲間のピンチを幾度も助け、その度に勝利の道を切り開き続けた陰の実力者、盗賊王リヒト。この四人がメインキャラクターだ」
「「充分ネタバレでは?」」
「作品のあらすじとか宣伝文とかで読み始める前に知る範囲のことしか言ってないから許して」
「「じゃあセーフ」」
と、そのタイミングでミラが尋ねてきた。
「ちょっと気になったんだけどさ。クロムが勇者の子孫なら、勇者パーティーメンバーたちの子孫もいるの?」
「あ、それルカも気になる!」
その質問に俺は内心でほくそ笑む。
もし俺が眼鏡をかけてたら、クイってやってるね今。
「聖女ソフィアの一族なら今も続いているぞ。ホーリーライト公爵家としてな。ちなみにハイリッヒ侯爵家が傍系なのに対して、ホーリーライト公爵家は直系だ」
補足しておくと、血筋が親子関係で一直線なのが直系。
それ以外が傍系だ。
「クロムんとこは“剣聖”の一族とか呼ばれてるんでしょ? ホーリーライト公爵家とやらもなんかそういう二つ名的なのあったりするの?」
「“聖女”の一族って呼ばれてるな、向こうは」
「ってことは、今も聖女はいるの?」
ルカの質問に俺は頷く。
「ああ。ホーリーライト公爵家の一人娘であるオリビア・ホーリーライトって人が今の“聖女”なんだ。ちなみにSランク冒険者レベルの実力者だったりする」
「聖女が強いってことはわかったけど、具体的に聖女ってどうやってなるの? やっぱそういうスキルが必要な感じ?」
「『祝福の儀』でエクストラスキル【聖女】を授かれば聖女として認められるぞ」
……そうそう。
『祝福の儀』は本来十五歳にならないと行えないのだが、ホーリーライト公爵家だけは五歳の時に行うことができるのだ。
その方法は秘匿されているが、五歳になったら『祝福の儀』を行えるという話自体は貴族の間で常識となっている。
と、そのタイミングで馬車が止まった。
案内人が「屋敷に到着いたしました」と伝えてくる。
馬車から降りると、目の前には予想以上に大きな屋敷があった。
「ハイリッヒ侯爵家と同じくらい大きい……」
「WA~O……」
「……」
俺とミラはぽつりと感想を漏らす。
ルカは口をポカーンと開けながら屋敷を見上げていた。
「本日からこの屋敷はクロム様ご一行の所有物となります。どうぞご自由にお使いくださいませ。それでは、
優雅に一礼して去っていく案内人を見送ってから……。
俺たちはハイテンションで屋敷探索を開始した!
「部屋
「内装が豪華!」
「そして部屋数が多い!」
「俺たちにはもったいないくらいのキッチン!」
「大きな浴槽付きのお風呂ある!」
「広い庭で家庭菜園なんかできちゃったり!?」
そんな感じで屋敷を見て回った俺たちは、エントランスホールに戻ってきたところで一つの結論にたどり着いた。
「屋敷がこれだけ大きいと、維持するのかなり大変なんじゃないか?」
「「確かに……!」」
俺たちだけだと、家の掃除してるだけで一日が終わりかねないし、何より料理ができないからせっかくのキッチンがもったいない。
メイドをたくさん雇うべきか……?
そう考えた時、天啓が舞い降りてきた。
「俺には【キメラ創生】がある。メイドのキメラを作れば万事解決では?」
「「それだ!!」」
ミラとルカはポンっと手を叩く。
「ちょうどさっきメイドごっこしようと思ってメイド服買ってきたところだったんだよね。それを使えばメイドキメラ作れそうじゃない?」
ここに来る前に買い物してたのはそう言うことだったのか。
「でも、メイド服を材料にしたらメイドごっこできなくなるんじゃ……」
「大丈夫だよ。メイド服、三着買ってきたから」
「なぜ三着?」
ミラの答えに俺は首をかしげる。
「クロムの分も買ってきたからだが?」
「俺は着たくないが?」
「クロムって、意外と女装が似合うイケメンって感じだよね。絶対似合うから着てみてよ」
そんなこと言われても嫌なもんは嫌なんだってば!
「ルカ、三人でメイドさんごっこしたかった……」
「決めた。俺、メイドになるよ」
プライド? 尊厳?
そんなものルカより下だが?
「……と、いけないいけない脱線してた。俺がメイド服着るのは今度ってことで、今回は【キメラ創生】の材料にする。いいか?」
「「いいよー」」
二人とも了承してくれた。
俺は【キメラ創生】を発動。
エントランスホールの床に魔法陣が現れる。
「まずはメイド服を一着入れて……」
「やっぱり武器は大事だから、ゴブリンキングの持っていた大剣を入れてみよう」
俺はマジックバッグを開く。
中から大剣を取り出そうとした時、手を滑らせてマジックバッグを落としてしまった。
「「「あ……」」」
俺たちの声がシンクロする。
とっさに取ろうとするも時すでに遅し。
マジックバッグは魔法陣の中に消えた。
「ちょちょちょバカバカバカ、何やってんの!? あの中に読みかけの小説入れたまんまなんだけど!?」
「楽しみにとっておいたおやつが!」
「「回収は無理なの!?」」
「回収って魔法陣の中に手を突っ込んで取り出せばいいのか……? なんか俺がキメラの材料になりそうで怖いんだが──」
俺の言葉をさえぎって、魔法陣が眩く光る。
「ごめん、もう回収無理……」
マジックバッグの中には、ルカとミラのいつもの服や俺の予備の装備、生活用品やお金などたくさんのアイテムが入っていた。
もしかしなくても、これら全部がキメラの材料になってしまうのでは?
どうしよう……。
キメラで闇鍋してしまったよ……。
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