第2-8話 ギルマスからの依頼
「……お久しぶりです、ルキウスさん」
俺の後ろに立っていたのは、元Sランク冒険者にしてここのギルマスでもある男だった。
数年ぶりの再会となったが、ルキウスさんはほとんど昔のままだった。
短く切った金色の髪に、浅黒い肌。
右目には眼帯をつけている。
この辺は当時から変わっていないけど、唯一、ルキウスさんの右足だけは大きな変化があった。
──義足をつけている。
ルキウスさんから手紙で聞いた話だと、ドラゴンを討伐した時に失ってしまったそうだ。
それを機に冒険者を引退することを決意し、引退後はギルマスを務めながら後進の育成も行っているのだとか。
俺はもう一度ルキウスさんを見る。
……うん、相変わらず放つオーラは強者のソレだ。
義足になって機動力が著しく減少したとはいえ、ほとんどの人は手も足も出ないんじゃなかろうか?
ルキウスさんは、『剣鬼』という二つ名がついていたほどだし。
そんなことを考えていると、
「クロムお兄ちゃん、その人と知り合いなの?」
さっきから会話についてこれていなかったルカが尋ねてきた。
ミラも気になっているようだったから、二人にルキウスさんのことを紹介する。
「この人はルキウスさん。元Sランク冒険者で、現在はここのギルマスをしている人だよ。俺がまだ貴族だった時に、家に家庭教師として来ていた時期があってな。それで知り合ったんだ」
二人がなるほどと頷いたところで、ルキウスさんが話を切り出した。
「再会してすぐで悪いんだが……クロム、お前たちに頼みたいことがある。俺の部屋まで来てくれないか?」
そう言ったルキウスさんは、真剣な表情をしていた。
この様子からして、かなり重要な話なのだろう。
俺たちはルキウスさんに案内されて、ギルマスの部屋に向かった。
「……まずは、Bランク冒険者になったんだってな。おめでとう」
「ありがとうございます」
素直にお礼を言っておく。
ルキウスさんは昔から俺を気にかけてくれていたから、その言葉が本心なのだということは考えなくても分かった。
それはそうとして、この様子だとルキウスさんは俺が追放されたことを知っている……というよりは薄々気づいているのだろう。
追放されていなかったら、今ごろ学園に通っていてこの街にいるはずがないしな。
あと、さっき「俺がまだ貴族だったころ」とか言っちゃったし。
「では、本題に入る」
ルキウスさんは真剣な表情で口を開いた。
「クロムたちには、
文字通り、複数の冒険者たちが合同で受ける依頼のことだ。
例として分かりやすいのは、ゴブリン集落事件の時の緊急依頼だろう。
あの時のように、
「フォーゲルン大湿地で異常が起きていることは知ってるか?」
「ええ、魔物が異常発生していると聞いています。実際、俺たちはフォーゲルン大湿地から出てきたリザードマンと戦いました」
「それなら話が早い。
異常発生した魔物か……。
C-ランクのリザードマンの群れが追いやられるほどだ。
かなり強い魔物もいるのだろう。
危険だろうけど、俺は冒険者としてこの依頼を受けたい。
そう思って参加の返事をしようとしたのだが……。
俺が口を開くよりも早く、ルキウスさんが言いづらそうに告げてきた。
「俺としてはぜひクロムたちに参加してほしい。参加してほしいんだが……そのだな……」
そして、告げられたのは──。
「今回の依頼は国から派遣された騎士団と合同で行うんだが……その騎士団のメンバーにダークがいるんだ」
弟……いや、弟だった男の名前だった。
「……もしダークと会うのが嫌なら、参加しなくても構わない」
なるほど。
それで言いづらかったのか。
「配慮してくれてありがとうございます。ですが、問題ありません。俺はこの依頼に参加します。国や人々を守るために冒険者になったんです。見過ごすことはできません」
「もちろん、ルカも!」
「私も参加するよ。なんたって、活躍しがいがありそうだからね」
俺が聞くよりも先に、ルカとミラも参加表明してくれた。
本当に、心強い。
「いい仲間を持ったな、クロム」
「ええ、俺にはもったいないくらいの最高の仲間です」
俺がそう言うと。
ルカは照れたように視線を逸らし、ミラは「そうでしょうそうでしょう」と言わんばかりに鼻を高くしていた。
リアクションに性格がよく出てるな。
ひとまず
作戦内容についてルキウスさんから詳しく話を聞く。
ルキウスさんの話がすべて終わったところで、俺は気になっていたことを尋ねた。
「そういえば、なんで国から派遣されるメンバーにダークが選ばれたんですか?」
なぜ騎士団に所属していないダークがメンバーに選ばれたのか?
その理由が純粋に気になった。
「国王様がダークのことを気にかけているんだとよ。それで直々に功績を上げるチャンスを与えた。それが今回の合同作戦ってわけだ」
「そうですか」
ルキウスさんによると、ダークは入学試験で騎士団長と互角に戦ったり過去最高得点で首席入学したりと、その才能を存分に発揮しているそうだ。
「ダークが活躍しているようで嬉しいです」
「そうか。クロムは昔から変わらないな。……さてと、この辺で話は終わりだ。付き合わせて悪かったな」
ルキウスさんは仕事に戻らないといけないということで、俺たちは執務室を後にした。
それまではこの街でゆっくり過ごしながら、コツコツ依頼をこなしていこう。
◇◇◇◇
霧の立ち込める湿地にて。
黒いローブに身を包んだ二人の男が邪悪に笑う。
「餌に食いついたぜ。それが毒餌であるとも知らずにな」
「一人残らず皆殺しにしろ」
ローブの男はそう言って、隣にいる魔物の頭を撫でた。
「期待しているぞ。──ヒュドラ」
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