第10話 予想外の魔物素材
「ルカ、一応下がっといて」
「ん、りょーかい」
ルカが離れるのを見てから、俺は魔法陣を地面ごと斬る。
魔法陣はあっさりと消え去った。
「終わったの?」
「ああ、これで魔法陣はなくなった。もう魔物が発生することはないだろうな」
「もし今のと同じ魔法陣が他にもあったら?」
ルカの質問は、俺としても懸念していることだ。
しかし、今の俺たちではどうしようもないのもまた事実。
この森の中をくまなく調べるなんてことはできないからな。
「ギルドで冒険者登録する時に魔法陣のことについて伝える。もしかしたらギルド側で調査してくれるかもしれないし、そうじゃなくても騎士団による巡回は定期的に行われているんだ。これからしばらくは厳しめに巡回してくれるんじゃないかな」
「やっぱりそういうのは専門の人たちに任せたほうがいいね」
「ああ、それよりも今は薬草を届けるのが先だ」
俺は踵を返そうとして……蛇の死体が目に入った。
「毒と魔石だけ採取していこう。なんか、そうしたほうがいい気がする」
「なら、採取しようよ! クロムお兄ちゃんの直感はよく当たるからね」
というわけで、手早く採取を済ませてから街に戻る。
帰りは行きと別のルートを通ったけど、魔法陣は見つからなかった。
「ただいま、アンナ」
「戻ってきたよ!」
通行税を払って街に入る。
アンナはずっと門のところで待っていたらしく、俺たちを見つけるなりすぐに駆け寄ってきた。
「れ、レンゲ草は……?」
アンナは開口一番、不安そうに聞いてくる。
それだけ母親のことが心配なのだろう。
「ちゃんと採ってきたよ」
「ほら、証拠!」
ルカがレンゲ草を見せると、アンナは目を輝かせた。
「レンゲ草だ! 二人ともありがとう!」
「アンナはレンゲ草の加工できるの?」
「うん、できるよ! よくポーションを作るお手伝いしてるから、そういうのには詳しいんだ!」
「そうか。なら、後は任せても大丈夫そうだな」
俺がそう言うと、アンナは急に真剣な顔になって聞いてきた。
「あの、お礼はどうすれば……」
「お礼はいらないよ。お母さんが元気になったら、美味しいものでも食べに連れて行ってあげて」
「そうだよ。ルカたちはお金が欲しくてレンゲ草を採りに行ったわけじゃないからね」
アンナは一瞬、目を見開く。
それから姿勢を正して、
「ありがとうございました!!!」
最大限のお礼を伝えてきた。
「どういたしまして!」
「お礼は受け取ったよ。早くお母さんのところに行ってあげて」
「うん、行ってきます!」
アンナは大きく頷いてから、走っていった。
こちらに手を振りながら。
「それじゃ、行くか」
「ん。レッツゴー!」
アンナを見送ってから、俺たちは歩き出す。
目的地にはすぐに到着した。
「着いた。グラード商会」
中に入ってザギーさんの名前を出せば、すぐに応接室に通される。
ルカと一緒にお菓子をつまんで紅茶を飲んでいると、やけに上機嫌なザギーさんが部屋に入ってきた。
「改めて、今回は助けていただきありがとうございました」
ザギーさんが頭を下げる。
「頭を上げてください。気持ちは充分に伝わりましたから」
ザギーさんは頭を上げてから、話を続ける。
「魔物素材が欲しいとのことでしたので、約束通りとっておきのものをご用意させていただきました。こちらへ!」
ザギーさんが合図を出すと、商会の人が台車を運んでくる。
台車の上に乗せられているのが魔物素材なのだろう。
上から布をかぶせて、中が見えないようにしてある。
「なんだと思います?」
「珍しい魔物素材みたいですし、ドラゴンとかですかね? いや、さすがにそれはないか」
「素晴らしいですね。大正解です」
「そうですか、正解ですか。ドラゴンの素材で……ん? ドラゴン……!? ドラゴン!?」
俺は頭がフリーズした。
隣を見れば、ルカはぽかーんと口を開けている。
たぶん、俺も同じような顔してる。
「いや~、もったいぶった甲斐がありましたね。では、お見せしましょう! 最強種であるドラゴンの素材を!」
ザギーさんは俺たちの反応を楽しんでから、バッと勢いよく布を取り払う。
中から現れたのは──。
艶やかな光沢を放つ大きな鱗。
黒く光る爪と牙。
本物のドラゴン素材だった。
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