第9話 召喚の魔法陣

 地面の上で輝き続ける怪しげな魔法陣。


「なんか嫌な感じがする」


 魔法陣を見たルカが顔をしかめる。


「なんでこんなところに設置型の魔法陣があるんだ……?」


 設置型の魔法陣は、文字通り設置することで発動する魔法陣だ。

 内容にもよるが、基本的に設置している間は永続的に効果を発揮する。


 使い方の例をあげると、砂漠地帯でオアシスに浄化の魔法陣を設置。

 常に浄化された安全な水を確保できるようにする、などがある。


 この魔法陣も何かしらの効果があるのだろうが、闇属性の魔法陣であるということしか分からなかった。


「ルカ、嫌な感じって具体的にどんな感じなんだ?」

「うーん……。なんかこう、背中がぞわーっとするような感じ?」

「ルカがそう言うなら、いい魔法陣ではなさそうだな」

「ん、間違いなく悪い魔法陣!」


 いったい、誰がなんの目的で設置したんだろう?


「……にしても、この魔法陣なんか見覚えある気がするんだよなぁ」


 既視感があるのに思い出せな……。


「あれだ!」


 脳内に、盗賊が襲撃してきた時の記憶がよみがえる。


「【キメラ作成】を使った時だ!」

「あの時の魔法陣に似てるってこと?」

「ああ。複数個所、あの魔法陣と同じ部分がある! ……ということは、これは召喚系の魔法陣なのか?」


 一つの仮説が浮かび上がるのと同時に、カッ! と魔法陣が輝く。


「ッ!? ルカ、警戒!」

「ん!」


 俺たちは魔法陣から距離を取る。

 何がきっかけかは分からないが、このタイミングで発動してしまったようだ。

 魔法陣を無効化するスキルを持っていない俺たちは、警戒しながら見守ることしかできない。


 光が晴れた時、そこには一匹の魔物が鎮座していた。


「シュゥゥゥゥ……!」


 体長一メートルほどの蛇が、鎌首をもたげて威嚇する。

 その瞳孔には、時計の針のようなものが刻まれていた。


「シャッ!」


 蛇が口を開く。

 突き出された牙から紫色の液体が飛んできた。


「【毒液射出】のスキルか!」


 俺はとっさに飛びのく。

 毒を飛ばしてくる蛇が存在するのを知っていたおかげで反応することができた。


「俺が気を引き付ける! ルカはその隙に攻撃してくれ!」

「わかった!」


 毒液を躱し、着地する。

 前方の蛇を睨んだその時だった。


 蛇の瞳孔が散大。

 その瞬間、俺は強烈な眠気に襲われる。


「ヤバい……。意識が……」


 視界がブラックアウトしていく。

 黒に染まりきる瞬間、強い衝撃が俺の頭を襲った。


「うわっ!?」


 覚醒するのと同時に、ふわりと体が浮く感覚。

 気づいたら、俺はルカに抱えられていた。


 さっきまで俺がいたところを毒液が通過していく。


「助かった、ルカ!」

「次寝たらチョップじゃなくて拳骨だからね」

「絶対嫌だ! もう眠らない!」


 とにかく、あの蛇はなんらかのスキルで俺たちを眠らせてくる。

 発動条件は、おそらく目を合わせることだ。


「もう一度、同じ作戦で行くぞ!」

「何か考えがあるんだね、クロムお兄ちゃん!」


 ルカが森の木々に紛れて姿を隠す。

 俺は正面から蛇のもとに向かう!


「シャッ!」


 正面から攻めるのだから、当然蛇と目が合う。

 俺の視界が暗くなっていく。


 ……アイザックと剣の稽古をした時、俺はいつも一撃で倒されていた。

 だけど、一度だけ。

 たった一度だけアイザックを驚かせたことがある。


 その方法はいたって簡単。


 


 すると、どうなるか?

 一度倒されても、もう一度起き上がって攻撃できるということだ。

 まあ当然、アイザックには通用しなかったけど。


 今回は状態異常を治す魔法で同じことをした。

 つまり、蛇のスキルで眠らされた後に俺の回復魔法が発動する!


「おはよう!」

「シャァ!?」


 蛇は俺を眠らせてから噛みつくつもりだったのだろう。

 驚きのあまり、口を大きく開いた状態で硬直していた。


「ございますッ!」


 その口の中に剣を叩き込む。


 体の外側はうろこでおおわれている蛇でも、口の中はそうもいかない。

 蛇は剣の腹に牙を突き立て、全力で食い止める。


「今だ!」

「任せて!」


 蛇の背後から飛び出してきたルカが、腕に炎をまとう。

 ルカに気づいた蛇は、焦った様子で俺を睨む。


 ルカの相手をしようとすれば俺に斬られ、このままではルカに殺される。


 それを理解している蛇がとる行動はただ一つ。


「シャ……!」

「俺を眠らせてからルカに対処しようとするよな!」


 俺の視界が黒に染まっていく。

 回復魔法が発動して覚醒する。


 その時にはすべてが終わっていた。

 首を切り落とされた蛇の死体が崩れ落ちる。


 頭の部分は、死んでなお剣の腹に噛みついたまま俺を睨んでいた。

 執念がすごい。


「変わったスキルを持った厄介な魔物だったな」

「とにかく、今回ので分かったね」

「ああ、そうだな」


 俺は頷く。


「この魔法陣は、誰かが魔物を発生させるために設置した。それは間違いない」

「昼間の魔物もこの魔法陣から出てきたのかな?」

「たぶんそうだろうな。絶対にこの辺にはいない魔物だったから」


 分からないことだらけだが、俺たちのやることはただ一つ。

 この魔法陣の破壊だ。


 放置していたら、絶対に被害が大きくなる。

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