第6話 報奨金

「クロム様、お気をつけてくだされ」


 盗賊を捕まえてからは特に事件が起こることもなく、無事に朝を迎えた。

 俺とルカは村人たちに見送られながら、昨日と同じ馬車に乗って村を出る。


 向かうはフラメアという街。

 盗賊たちを引き渡して報奨金をもらうのが目的だ。

 ちなみに盗賊たちは、馬車の後ろにくくりつけて歩かせている。


「クロムお兄ちゃん、これからの予定はどうするの?」


 俺の隣に座っていたルカが尋ねてくる。


「盗賊を引き渡したら、いったんさっきの村に戻る」

「あ、分かった! 報奨金をあの村の人たちにあげるんでしょ?」

「正解。よく分かったな」

「クロムお兄ちゃんは優しいからね」


 報奨金を渡したら、もう一度フラメアに戻る。


「まずは冒険者登録だな。今のままの俺じゃ囮しかできないから、とにかく魔物を倒して強くならないと」

「その時はルカを頼ってね。家族なんだから」

「できるだけ迷惑をかけないようにするよ」


 そう返したら、なぜかルカは頬をふくらませた。


「誰だって最初は弱いんだから、自分の弱さを気にしすぎないで。クロムお兄ちゃんの悪い癖だよ。これから強くなっていけばいいんだから、もっとシャキっとしないと!」

「……そうか。そうだよな。ルカ、頼らせてもらうよ」

「それでよし!」


 ルカが俺の頭を撫でてくる。


「……これじゃ、どっちが年上か分からないな」

「ルカのことお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ?」

「呼ばなくてもいいように、兄として頑張るよ」


 その後も他愛ないやり取りをしたり、ルカにねだられて膝枕してあげたりと何事もなく時間は過ぎてゆく。

 ここら辺は臆病で大人しい魔物しか棲んでいないのもあって、魔物に襲われたりといった出来事はない。

 もちろん、盗賊が出てくることもない。


 おかげで、昼過ぎにはフラメアの街についた。

 かくかくしかじかで盗賊を引き渡して報奨金をもらう。


 特に手続きがとどこおることもなく、報奨金はすぐに受け取ることができた。

 盗賊は全員生きていたので、犯罪奴隷になった分のお金も報奨金に上乗せされている。

 これだけあれば、村の復興費用としては充分だ。


「やっと手続き終わったね」

「付き合わせて悪いな。待ってる間暇だったろ?」

「同い年くらいの子と仲良くなっていろいろ話してたから楽しかったよ」

「ルカと同い年って、赤ちゃんの面倒でも見てたの?」

「違うよ。確かにルカは生後一日未満だけど、そっちじゃなくて見た目年齢の話」

「だよな」


 そんな話をしているうちに、馬車の出発時刻になった。

 再び村に向かう。

 行きと同じようにトラブルもなく、夕方ごろには村に到着した。


 俺たちはすぐに村長のもとに向かう。


「クロム様ではございませんか。戻ってこられたのですか?」

「はい。こちらを渡すために」


 俺は麻袋を差し出す。


「これはいったい……?」

「盗賊の報奨金です。壊れたり燃えたりした建物なんかの復興代として使ってください」

「いいのですか!? その申し出は大変ありがたいのですが、盗賊を倒したのはクロム様たちではございませんか!」

「俺たちの生活費の分はもう引いてありますので、残りは村のために使ってください」

「さすがに貰いすぎですぞ! 明らかに復興費よりも多いではございませんか!」

「俺たちに気を遣わなくていいんで、もらってください!」


 どっちも引かずに問答をしていたら、ルカがポンっと村長の肩に手を置いた。


「こういう時のクロムお兄ちゃんは頑固だよ」

「……それもそうですな」


 ルカの一言によって、村長はあっさりと受け取ってくれた。

 なんかちょっと納得がいかないんだけど。

 俺ってそんなに頑固なのかな?


 その後はもう一度ケガをした村人のもとを回り、回復魔法をかけていった。


「これで全員完治ですね」

「何から何までありがとうございますじゃ」


 またもや村人全員で宴をしたら、これまた村長の好意で俺たちは村長宅に泊めてもらう。

 翌日の朝、今度こそ俺たちはフラメアに向けて出発した。


 目的は冒険者登録。

 魔物を倒して強くなる。

 人助けをするために。


「ん……? 血の臭い……?」


 俺が内心で覚悟を決めていると、隣に座っていたルカの様子がおかしくなった。


「ルカ? どうしたんだ?」

「ッ! この先で複数の人間がケガしてる! 臭いからして魔物と戦ってるみたい!」


 その言葉に真っ先に驚いたのは、御者のおじさんだった。


「魔物!? この辺で魔物に襲われるなんてことあるのか!?」


 それには俺も同感だ。

 王都も含めたこの付近は、この国でも特に安全な地域とされている。

 危険な魔物はいないし、騎士団による巡回が定期的に行われているから盗賊もほとんどいない。


 だけど、ルカの嗅覚は本物だ。

 ルカは魔物だから、獣人なんかよりも何十倍も鼻が利く。

 人がケガをしていることに間違いはない!


「この先には俺たちだけで行きます!」


 俺は御者のおじさんに近づかないように言ってから、ルカと共に向かう。


 すぐに悲惨な光景が視界に映った。


「……なん、だ、この状況は……!?」


 馬のいない馬車。

 地面に投げ出された複数の人間。

 血を流してはいるけど、死んではいない。気絶しているだけだ。

 ひとまずそのことに安堵する。


 それよりも問題なのは──!


「キョォァァアアァァ?」


 元凶なのであろう魔物が俺たちを見る。


 毛むくじゃらの体に血走った目。

 ボロボロの翼を生やしているソイツは、見たことも聞いたこともない魔物だった。

 おそらく新種の魔物だ。


「強さは未知数。いけるか?」

「ルカは平気! クロムお兄ちゃんこそ気を付けて!」


 俺は剣を構えた。

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