第5話 決意

「【キメラ作成】の秘密。知りたいでしょ、クロムお兄ちゃん」


 隠し事をしている子供のような表情でルカが聞いてくる。


 【キメラ作成】の秘密。

 それは俺が最も知りたかったことだ。


 複数の素材を組み合わせて誕生したのが、人間とほぼ変わらないルカだったこと。

 ただのスキルでこんなに強いキメラができたこと。


 俺の【キメラ作成】には謎が多い。


「教えてくれ」

「いいよ、教えてあげる」


 ルカは俺の隣に腰かけてから、語り始めた。


「まず最初に結論を言うとね、クロムお兄ちゃんは天才なんだよ」

「天才……? 俺が……?」


 思わずほうけてしまうと、ルカはむーっと頬をふくらませた。


「もっと喜んでいいんだよ?」

「あ、ああ、ごめん。家だといつも出来損ないとか言われてたから……。追放された時は無能とまで言われたからさ。天才って言われたのは初めてで、ちょっとビックリしただけだよ」

「何それ! 家族なのになんでそんなひどいこと言うの!」


 ルカはぷんすか怒りながら、俺の頭を優しく撫でてくれた。

 こうやって慰めてもらったのはいつぶりだろう?


「ありがとう、ルカ。もう大丈夫だよ。続きをお願い」

「ん、クロムお兄ちゃんは天才なんだよ。キメラの才能を持ってる」


 ……ってことは、俺は【キメラ作成】を授かるべくして授かったということなのか?


「本来の【キメラ作成】はね、クロムお兄ちゃんが思ってるよりも弱い魔物しか作れないんだよ。自我も意思もなくて命令を聞くことしかできない魔物を二、三匹作ってハイ終わり。それだけのスキルなの」

「そうなのか? ルカは自我も意思もあるけど」

「それこそが天才の証明なの。ルカみたいな高位の生命体を作り出せたことが。ちなみに魔物を作るのはコストがかかるから、高位生命体ルカだけでいっぱいいっぱいのはずだよ」

「そうみたいだな。もう【キメラ作成】は発動できそうにない」


 外れスキルだと思っていた【キメラ作成】は、俺の予想以上に可能性を秘めているのかもしれない。

 だって──。


「まだあるよな、【キメラ作成】の秘密」

「よく分かったね」

「自分のスキルだからか、なんとなく分かるんだ」

「【キメラ作成】の能力は後三つ。一つは『配下の通常スキルを使えるようになる』。もう一つは『配下が強くなった時に主人も一緒に強くなる』。最後は『配下のステータスを確認できる』、だよ」


 俺は静かに目を見開いた。

 【キメラ作成】が予想以上の能力を秘めていたのもそうだけど、何よりも。


 ──俺でも強くなれるかもしれないから。


「【キメラ作成】の秘密はこれで終わり! 最後に質問するね」

「質問?」

「そう、質問。クロムお兄ちゃんは、どうしたいの?」


 どうしたい、か。


「俺は……お伽噺とぎばなしの英雄のように強くなりたい。強くなったら、もっとたくさんの人を救えるから」

「クロムお兄ちゃんらしい夢だね」

「だけど、今の俺は弱い。俺一人では、魔物一匹倒せないから強くなれない。敵の気を引くことくらいしかできない」


 俺はルカの正面に移動する。


「だから、ルカ。力を貸してほしい」


 俺は頭を下げる。

 ルカは小さく笑ってから、両手をポンっと俺の肩に乗せてきた。


「もちろんだよ。ルカはクロムお兄ちゃんの配下だから」

「あー、それなんだけどさ……」


 恥ずかしいけど、ちゃんとルカに目を合わせる。


「ルカとは対等な関係でいたい。だからさ、配下じゃなくて仲間として……できれば家族になってほしい」

「告白してる?」

「そ、そそそそうじゃなくてね! ほら、あれだよ! 本当の家族がいないから家族が欲しい的なやつ!!」

「ふふっ、慌ててるクロムお兄ちゃん可愛い」

「……俺はからかわれてたのね」


 なんか、とたんに恥ずかしくなった。


「今日からルカはクロムお兄ちゃんの妹だね。改めてよろしく!」

「こちらこそ、これからよろしく」


 差し出されたルカの手を握る。


 俺はもう諦めない。

 絶対に強くなってみせる。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る