第4話 ルカの実力

 村長の家を出ると、盗賊に脅されている村人の姿が目に入った。


「へへへ、誤魔化すんじゃねぇよぉ。クロムはこの村にいるんだろォ?」

「いません!」

「嘘は良くねぇぜ。素直に吐けば命だけは助けてやるからよぉ~」

「いません!」

「ああ、そうかい」


 盗賊の男が剣を振り上げる。


「テメェの意思はよく分かったよ!」


 振り下ろされた剣が村人に届くよりも早く──。


「させないよ、ファイアネイル!」


 ルカが炎をまとった爪で剣を弾く。


「なんだ貴様は!?」

「キメラ!」

「ごはッ!?」


 ルカは短く返して、盗賊の男を殴り飛ばした。


 俺は大の大人を軽く吹き飛ばしたルカに視線が釘付けになる。


 見た目は十二歳くらいの少女なのにすごいパワーだ。

 さすがキメラといったところか。


「全員警戒!」


 盗賊のリーダーらしき男が叫ぶ。

 村人たちを一方的にいたぶっていた盗賊たちは、ルカへ一斉に剣を向けた。


 ……残る盗賊は六人。

 もうこれ以上、村人たちは傷つけさせない!


「濃縮ヒール!」


 俺は空中に向かって、回復魔法のヒールを発動する。

 直後、強烈な光が発生した。


 これは回復魔法しか使えない俺が編み出した技だ。


 


 今回利用したのは、光という回復魔法の副次効果。

 ヒールを選んだ理由は魔力消費が回復魔法の中で一番少ないからだ。


 ヒールにこめる魔力の密度を極限まで上げることで、回復効果を高めるだけじゃなく副次効果の光までもを強くする。

 魔力消費の激しい荒業だけど、今回は最大限効果を発揮してくれた。


「なんの光だ!?」


 夜の闇を切り裂いた光に、盗賊たちの注意が向く。


 一瞬でも引き付けられたらそれでいい。

 その一瞬だけで充分だ。


「今だ、ルカ!」

「任せて、クロムお兄ちゃん!」


 盗賊たちに接近したルカが、次々と意識を刈り取っていく。


「この!」

「遅い!」


 盗賊たちも反撃するが、攻撃がルカに届くことはない。

 ルカは余裕で躱して、一撃ノックアウトしていく。


「なんだこの獣人のガキは……!」


 盗賊のリーダーがルカを狙う。

 俺はリーダーに斬りかかった。


「お前の相手は俺だ!」

「チッ!」


 俺の剣とリーダーの剣が交差する。


「ガキ風情が調子に乗るなよ!」

「く……!」


 三太刀目にして俺の剣が弾かれる。


「死ね、雑魚が!」


 リーダーが俺に向かって剣を振り下ろしてくる。


 時間は稼いだ。

 俺たちの勝ちだ。


「クロムお兄ちゃんに手は出させないよ!」

「ぐぼぁ!?」


 リーダーの剣が俺に届くよりも早く、ルカがリーダーを殴り飛ばした。

 最初に殴られた男と同じようにバウンドしながら吹き飛んでいく。


「馬鹿な……!? お前は私の仲間と戦っていたはず……」

「全員倒した!」

「そん、な……」


 リーダーがどさりと地に伏せた。

 どうやら気を失ったようだ。


「ルカの圧勝!」


 ドヤ顔で胸を張るルカに向きなおる。


「ありがとな、ルカ。助かったよ」

「えへへ。クロムお兄ちゃんに褒められた~」

「俺はケガ人の治療に当たるから、ルカは盗賊の捕縛をしてほしい。いいか?」

「ん、了解」


 というわけで、消火や盗賊の捕縛、ケガ人の治療を済ませた後。

 俺はみんなから感謝されていた。


「死人が出なかったのは全部クロム様のおかげですじゃ」

「いえ、そもそも盗賊の狙いは俺でしたから、俺がいなければみんなを巻き込むことは……」

「何を言ってるんですか、クロム様。悪いのは盗賊であって、クロム様じゃありませんよ」

「そうですよ! 盗賊を倒して、さらにはケガの治療までしてくれて、もうホントに感謝しかありません!」

「娘が生きているのはクロム様のおかげです!」


 思わず涙が出てくる。

 追放されたりといろいろあったからか、みんなの優しさが心の奥底まで響いた。


「みんな気持ちは一つですぞ、クロム様よ」

「そうみたいですね」


 ……やっぱり、夢を諦めたくはない。


 この光景を見ていたら、弱い俺でも誰かの役に立つことはできるのだと思い知らされた。

 工夫次第で逆境は乗り越えられるのだと分かった。


 それに、可能性が見えたから。


「ささ、クロム様よ。お疲れでしょう?」

「そうですね。たくさん魔法を使いましたし」

「部屋に戻ってしっかりと休んでくだされ」

「そうさせてもらいます」


 ルカと一緒に部屋に戻る。

 二人きりになったところで、ルカが口を開いた。



「【キメラ作成】の秘密。知りたいでしょ、クロムお兄ちゃん」


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