第3話 盗賊の襲撃

 村から火の手が上がっている。

 怒号や悲鳴が聞こえてくる。

 剣を持った粗末な服装の男たちが視界に映った。


「クロム様!」


 慌てた様子で村長が駆けこんでくる。


「何が起きてるんですか!?」

「盗賊ですじゃ!」

「盗賊!?」


 思わず聞き返す。


 王都の近くであるこの辺は比較的治安がいいとはいえ、盗賊がいてもおかしくない。

 だけど、わざわざこの村に攻めこんでくる理由が分からなかった。


 盗賊は基本的に、食べていけない人が仕方なく身を落とすものだ。

 そして、そういう人たちは弱い。

 強ければ冒険者や傭兵として食べていけるのだから。


 村を襲うなどという大きな事件を起こせば、本格的に討伐隊を組まれる可能性がある。

 討伐隊は戦闘のプロフェッショナルなのだから当然強い。


 わざわざこの村に攻めこんできたということは、それなりのリターンを得られるということなのだろうか?


「盗賊の狙いはどうやらクロム様のようでしてな」

「俺!? ……そういうことか」


 盗賊たちは、『貴族が一人でいるなんて好都合』と考えたってわけか。


 ……あいにく俺は追放された身だ。

 お金は持ってないし、人質にして身代金を要求したところで誰も払ってはくれない。


 だけど、それを知らない盗賊には関係ない。

 村人たちを脅してでも俺を見つけようとするだろう。


「ですから、クロム様は隠れてくだされ! ワシらは全員、クロム様のことを売ったりはしませんぞ!」


 その申し出も、この村のみんながそれだけ俺を慕ってくれていることも嬉しい。

 だけど──。


「今回ばかりは拒否させてください!」

「では、どうするというのですじゃ!」


 俺は強くない。

 大した魔法も使えない。

 外れスキルしか持っていない。

 ケガをするのも、死ぬのも怖い。


 でも──みんなが傷つけられるのを黙って見てるしかできないのはもっと嫌だ!

 そんなことをしたら、俺は一生後悔する!


 だから、立ち向かう!!


「弱い盗賊よりも弱い俺が勝てる方法は……一つしかない」


 外れスキル【キメラ作成】。

 たった一つしか使えない俺のスキル。


 これに賭けるしかない!


 まだ一度も使ったことはないけど、不思議なことになんとなく使い方は分かる。

 俺は床に向かって掌をかざし、唱えた。


「【キメラ作成】!」


 次の瞬間、床に魔法陣が現れる。


 【キメラ作成】は合成獣キメラを作るスキルだ。

 この中に素材を放りこめば、おそらくキメラが誕生する──。


「ッ!? なんだ……?」


 チクリ、脳内に電流が流れたかのような感触。

 突然のひらめき。

 何を素材にするべきか分かった気がした。


「頼む! うまくいってくれ!」


 数時間前に買った狼の毛皮装備。

 部屋の中に飾ってあった魔物の爪や牙で作られたのであろう装飾品。

 野営のために持ってきた炎の魔石。


 それらを放りこむ。


 刹那、魔法陣から極光があふれ出す。


「うわ!?」

「眩しいですじゃー!」


 あまりの眩しさに目を瞑っていると、高めの声が耳に届いた。


「ルカ、爆誕!」


 光が収束する。

 まぶたを持ち上げると、そこには一人の少女が立っていた。


 燃えるような赤い髪と瞳。

 頭からちょこんと生えた狼の耳と、ふさふさのしっぽが特徴的な少女が。


 俺は恐る恐る尋ねた。


「君が……キメラなの?」


 見た目は普通の獣人と変わらない彼女は、こくりと頷いた。



「ん! ルカがきたからにはもう大丈夫だよ、クロムお兄ちゃん」


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