第51話

「やあ、また呼び出して悪いね」


 目が覚めると、そこにはルーチェが立っていた。


「……ずいぶん早い呼び出しだな?上司の神にでも怒られたか?」


「僕をなんだと思ってるんだい!……まあ怒られてることは否定しないけど……」


 そこは否定しろよ。


「とりあえず君を呼び出した理由を説明するよ。君の住む日本の話じゃないんだけどさ、他の国で街ごとモンスターを爆撃している国があるんだ。もちろん国民の避難を終えた上での爆撃なんだけどね。君に説明した通り、僕がこうやって地球にモンスターを発生させたのは地球の自然環境を良くしないといけないからっていうのは分かっているよね?モンスターが死んだ場所からせっかく植物が育っているのに根絶やしにされちゃったらたまったもんじゃないよ!」


 ルーチェはかなり怒っていた。こいつが怒っているのを見るのは初めてかもしれない。


「植物が全然育ってくれないから上の神様にしこたま怒られちゃってさ……せっかく順調に育っていたのに!君たちは自然破壊がそんなに好きなの?」


「いや、それ俺に言われてもどうも出来ないからな?」


 俺日本人だし。


「まあそれもそうだけどさ……。モンスターが死ぬと、1日で朽ち果てて土になるってのは説明したよね?言ってなかったんだけど、そのあと3日もすればその周辺は緑が溢れるんだ。少しばかり植物が育つのを早く設定できたから、君たちが討伐した地域は一面雑草と木々が生い茂る街になるはずだよ」


「いや、そんなことできるならモンスターなんて出さないで森林増やしてくれよ」


 あまり干渉できないとか言っておきながら地球のルールガン無視じゃねえかよ。


「増やせば増やすほど君たちの自然破壊の勢いが止まらないんだよ!前も言わなかったっけ?これを機に自然を大切にしないといけないって思わせないと、せっかく増やした森林や緑地がまた減ってしまうだろう?ただのイタチごっこになってしまうのは避けたいんだよ」


 まあルーチェの言うことも理解できる。森林があればあるだけ伐採してしまうからな。


「で?結局俺にどうして欲しいんだ?なにか頼みたいことがあって呼び出したんだろう?」


 前回の呼び出しから期間があまりあいていないし。


「君は今まで通り、日本のモンスターを討伐してくれたら良いんだけどさ。問題は他の国さ。あまりにも自然が増えないから、大型モンスターバカみたいに出してやろうかと思ってるんだ……このまま自然破壊が進む場合だよ?僕も極力人類を減らしたくないから、自然に優しい討伐をして欲しいんだ。君たちのようにね」


「なにも、他の国の誰かの意識を呼び出せばいい話じゃないか。今の俺みたいに」


 なにも俺1人だけ呼び出す必要はないだろう。


「……僕にそんな力無いんだよね」


「え?」


「だから、それは無理なの!僕には意識を呼び出すのは1人までなんだよ。下っ端の神様にはできることは限られているんだよ……君が死んでしまったら他の人の意識を呼び出せるんだけどね?」


 まあこの様子だったら出世なんて程遠いのだろうがな。……こいつ俺を殺す気じゃないだろうな。


「いやいや、そういう意味で言ったんじゃないよ!まあ今は君にしか頼めないと思ってもらえればいいさ。ところで、日本から他の国にスキルアップのことを伝えることはできるのかな?」


「どうだろうな……その辺のことは詳しく知らないんだ。まあ日本がどういった手段でモンスターを討伐しているかの情報を渡すことはできると思うぞ。国の連中がどうするかは知らんがな」


 まさか他の国を放っておくなんてことはしないと思うが……。


「それと、モンスターが死んだ周辺の植物が増えていくと、その分発生するモンスターも減っていくってことを知らせてほしいんだ。それが分かれば、他の国も植物ごと爆撃するようなまねはしなくなると思うんだけど……それでも続けるようなら容赦なくモンスターを出し続けるからね?」


「はいはい分かったよ。他の国がどうするかなんてのは俺にはわからんがな」


「それじゃ頼んだよ。あ、せっかくきてもらったんだから最後に良いニュースを聞かせてあげるよ。君たちが討伐を進めた中野区なんだけど、もうモンスターは発生しないよ。明日には街中緑で溢れかえるはずさ。その様子を他の国にも見せたらきっといい効果が見込めるはずだよ!それじゃあまたね!」


 ルーチェがそう言うのと同時に、俺の意識はそこで途切れた。




 目が覚めると、すでに日が傾き始めていた。朝から長い時間眠ってしまったようだ。


 周りを見ると、まだ他の隊員は眠っていた。徹夜でモンスターを狩り続けたから当然かもしれないな。


 俺は他の隊員を起こさないように気をつけながら、少し離れた場所で本部長に電話をかけることにした。


 電話をかけると、いつもの女性が出た。


「MDU本部です。昨日はお疲れ様でした、松藤さん」


「え?あ、ありがとうございます」


 俺はまさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったので、少し動揺してしまった。


「今笹森に変わりますのでお待ちください」


 そう言って電話は保留になった。

 労いの言葉をかけられると、少しは気持ちが楽になる。

 そんなことを思っているとすぐに電話は繋がった。


「お電話変わりました、笹森です」


「松藤です。神様関連の報告なんですが、今でも大丈夫ですか?」


「そうですか……!今メモを取る準備をしますね!」


 そう言って笹森は電話の向こうで慌ただしく準備をしている様子だった。そんなに焦る必要もないとは思うんだが……。


「はい!お待たせしました!準備万端です!」


 本部長の準備が整ったようなので、俺は寝ている間に神様に呼び出されて伝えられたことを話し始めた。

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