第52話

「また寝ている間に神様に呼び出されたんですけど、その理由っていうのが他の国の自然があまり増えていないからだそうです。ちなみに神様は現時点で俺の意識しか呼び出すことしかできないそうで……それで他の国の事も俺になんとかして欲しかったようですね」


「なるほど……松藤くんにしか伝えることができないんですね……」


「それで他の国の自然が増えない理由っていうのは、モンスターが死んだあとに広がる木々や草ごと爆撃しているからだそうです。もちろんそういった討伐を行なっているのは一部の国らしいんですが、それを止めてほしいそうです。そんな討伐方法ならその国のモンスターは永遠に減らないでしょうし」


「うーん……実は、うちの国の討伐方法は秘匿されてるわけじゃないんですよ。銃弾の節約っていう理由で刀などを使って倒してるっていう情報は数カ国に知らせているんです。もちろんスキルアップのことは隠しているんですが……日本の討伐方法について問い合わせは全く届いていません。海外では戦車や戦闘機による討伐が最も効率が良いと考えられているそうです」


 他の国にも日本の討伐方法が知れ渡っているのは初めて知った。それでも他の国が兵器を使って討伐しているのは効率がいいと考えているからだろう。

 たしかに殲滅速度は速いだろうが……これ以上自然破壊してどうするんだって話だ。

 もちろん他の国は自然が増えないとモンスターが減らないことなんて知る由もないのだが。


「自然が増えている地域にはモンスターが発生しづらくなるっていう情報を他の国に伝えることはできないんですか?その情報を聞いても爆撃を続けるわけないと思うんですが……」


「それを信じてくれるかどうかですよね……スキルアップの件は簡単に公表できないのは松藤さんも分かりますよね?その力がモンスターでなく人に向けられら可能性もあるんです。スキルアップを公表していない今、刀や弓でモンスターを討伐する日本人は頭がおかしいというのが海外からの評価です」


「まあそうなりますよね……」


「とりあえず、神様の要望は後回しになってしまいます。まずは日本をどうにかしないといけません」


 本部長の言う通りだ。まずは他の国よりも日本のモンスターを討伐しなくてはならない。


「あ、それと言い忘れてたんですけど、中野区にはモンスターが発生しなくなるそうです。明日には中野区が緑で溢れることになるって言っていました。詳しくは聞きませんでしたが、おそらく神様にとって十分な自然が広がることになったんじゃないですかね」


「それは良いニュースですね!自然が増えるとモンスターが発生しなくなるっていうのを世界に発信することもできますし、何より日本中で街から避難した国民にとって、それほど希望を持てるニュースはないでしょう。中野区の様子は明日にでも全国放送、並びに海外に向けて発信することにしますね!」


 ルーチェが言った良いニュースを聞いた本部長は、とても嬉しそうな声でそう言った。

 

「それで、俺たちはこの後どうしたら良いでしょう?武器科も安全地帯に来ていますし、今更駐屯地に戻る必要もあまりないんですが……」


「それならしばらく安全地帯を拠点として活動してくれますか?引き続き討伐は続けていただくことになりますが、東京の西から徐々に討伐を続けていくことで、避難民も少しずつ街に戻ることができると思います」


 まあ、安全な場所を徐々に広げていかなくてはならないことは理解できる。このまま安全地帯に住み続けることなんてできるわけないのだから。


「わかりました。明日の朝から討伐を始めます。そのかわり今日はゆっくり休ませてください」


「それはもちろんですよ。今日はゆっくり休んでください。武器科の設備などは早急に安全地帯に運ばせていただきますね。到着は2日後の夕方になりそうです。それでは失礼します」


 本部長はそう言って電話を切った。


 こうして俺たちは、今まで活動していた駐屯地から安全地帯へ拠点を移すことになり、東京の西から東に向けて討伐を進めていくことになった。


「みんなが起きたら伝えないとな……」


 まだ隊員も休んでいると思い、俺は隊員達が起きてから本部長に言われたことを話すことにした。




 その日の夜、隊員達は全員目を覚ましみんなで夕飯を食べた。

 武器科の恵美たちは車に戦闘糧食をたくさん積んできていたので、しばらく食料に困ることは無さそうだった。

 これで一般人が食料を持たずに避難していたらなら文句を言われるかもしれないが、彼らもしばらくここに定住するつもりだったようで、それなりの食料は持っていていた。


 夕飯が終わり、俺は今後の予定を隊員達に話すことにした。


「みんな、昨日はお疲れ様。明日からの予定だが、しばらくはここを拠点にして東に向かって討伐を進めていくことになった。昨日徹夜で討伐してもらったが、明日から討伐を始めようと思う。ここに一般人を住ませ続けるわけにはいかないから1日でも早く、モンスターを減らさないといけない」


 明日から討伐を始めると言って、さすがに反感を買うかと思ったが、隊員達は問題ないといった様子だった。俺が部下だったら休ませろって言うところだけどな。


「あといいニュースと悪いニュースがある。まずは……悪いニュースからにしようか。みんなも知っているとは思うが、うちの部隊から5名の死者が出てしまった。あれは俺が引き留めていれば防げた事故だった。申し訳ない」


 そうして俺は頭を下げた。

 ここにいる隊員の中には亡くなった彼らと仲が良かった者も当然いるだろう。


 そんなとき、刀部隊の岡が笑顔で俺に向かって話しかけてきた。


「何いってるんですか隊長。隊長がこの部隊を率いているから、これだけの人数が生き残っているんですよ?亡くなった彼らを弔う気持ちは大切だと思いますが、彼らが亡くなった理由を隊長一人で背負う必要はありません。支え合うと決めた仲間を守れなかった一人一人に責任があるはずですよ?」


「……そう言ってくれるとありがたいよ。悪いな気を遣わせたようで」


 いろんな面で俺は隊長失格ではないかと思ってきた。部下に励まされる隊長なんて聞いたことないからな。


 もう岡が隊長やればいいのにといじけてしまう俺であった。

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