第50話

 爆発の衝撃から逃れるため、俺は近くの建物の影に逃げ込んだ。


 轟音が収まり、ドラゴンの方に目を戻すと、すでにドラゴンは生き絶えていた。


 そのドラゴンが死んでしまうほどの爆発に巻き込まれた隊員はどうなったのだろうか。


 俺はその目で見るまで絶対に諦めたくはなかった。

 しかし、生き絶えたドラゴンに近づいた俺は、その光景を見て立ち尽くしてしまった。


 すでにドラゴンと戦ってくれていた隊員の体はぐちゃぐちゃになってしまっていた。


「嘘……だろ……」


『おい!松藤くん無事か!今の音はなんだったんだ!』


 本部長の声が聞こえるが、俺はそれどころじゃなかった。


 もちろん覚悟はしていた。

 しかし、いざ隊員が目の前で死んでしまうと、俺は何も出来なかった自分に腹が立ってしまった。

 あの時、爆発に注意するよう伝えておけばこうはならなかったかもしれない。


「省吾!しっかりしろよ!」


 呆然と立ち尽くす俺の頭を、新庄は勢いよく叩いた。


「隊長のお前がそんなんでどうするんだよ!あの隊員達はもう戻って来ない!悲しむのはこれが終わってからでしょう!」


「……ああ、そうだな。悪かった」


 新庄に頭を叩かれたことで目が覚めた。

 そうだ。俺は他に生き残っている隊員を率いていかなければならない。ここで立ち止まるわけにはいかないんだ。


『松藤くん!聞こえるか!』


 本部長の声がかなり大きくなっていた。

 しばらく応答しなかったから当然だろう。


「ドラゴンのブレスが原因で爆発に巻き込まれて、5名の隊員が死亡しました。他の大型モンスターはあらかた討伐が済みました」


『……そう、ですか……』


「とりあえず隊員の遺品だけ持って次に向かいます……次はどこですか?」


『そのまま西に向かってくれますか?首都高速の方は渋滞が少しおさまったようです。青梅街道の方は……もう手遅れのようです。逃げられる人はすでに逃げたみたいですが、大きな被害は出てしまったようです』


「わかりました。とりあえず西に向かうことにします……新庄、ここから西に向かう。なるべく渋滞を避けていこう。大型モンスターは発見次第討伐する」


「わかった、とりあえずみんなを集めておくよ」


 俺は新庄に西に向かうように伝えた。

 

 そして、亡くなった隊員達の首元にあるペンダントを取り外す。


 恵美と栞ちゃんが隊員全員分のペンダントを以前作ってくれ、隊員達は気に入ってみんなこれを首につけていた。


 まさかこう言う形で回収することになるなんてな。


 その場で隊員達の遺体に手を合わせ、目を閉じた。


「みんな申し訳ない、俺のせいだ」


 そのあとすぐにトラックに走って戻り、新庄が運転するトラックは西へ猛スピードで向かった。




「終わったな……」


 俺たちは次の日の朝まで、ノンストップでモンスターの討伐を進め、奥多摩付近の安全地帯まで避難する人々を護衛した。

 おそらく西の安全地帯へ向かった人々の5分の1はモンスターに襲われ、帰らぬ人となってしまっただろう。

 なんとか安全地帯にたどり着いた人の中には重傷を負い自力で歩けない人もいた。


 すでに携帯の充電は切れてしまったため、少しの間充電してから、改めて本部に電話をかけることにした。


「もしもし、松藤です」


「無事でしたか!安心しました……」


 電話に出たのは本部長だった。おそらく俺からの電話を長いこと待っていたのだろう。


「少し前に俺たちも奥多摩の安全地帯に着きました。それで被害は……?」


「あくまでも予測ですが……200万人がモンスターに襲われ亡くなったと見られています。それに近い数の人と未だ連絡が取れないそうです……」


「そうですか……。申し訳ありません、俺たちがもっと早く気がついていればもっと助けられた人がいたかもしれません」


 今回の緊急出動は悔いしか残っていない。

 隊員を5名死なせて、多くの国民を守れなかった。自分の不甲斐なさに腹が立つ。


「松藤さん、あなたは今悪いところにしか目がいかないのでしょう。隊員も亡くし、多くの人々が犠牲になったのは事実です。でも周りを見てください。東京支部の隊員みんなで助けた人たちがそこで生きているでしょう?その安全地帯には何百万人もの人々が命を落とさずに辿り着きました。それだけの命を東京支部は救ったんですよ。もう少し胸を張っていきましょう。そうしないと、亡くなった隊員の努力が無駄になってしまいます」


「そう……そう、ですよね。ありがとうございます。励まされて少し元気が出ました。」


「それならよかったです。また何かあればこちらから連絡するので、今日は少し休んでください。夜通し討伐した疲れもあるはずですから」


 そうして、俺は電話を切った。


 安全地帯に逃げてきた人々はそれぞれテントを広げる人や寝袋を用意している人もいた。


「省吾、お疲れ様。少し休もうか」


 新庄は電話が終わったのを見計らって声をかけてきた。


「そうだな、そうしようかっ!!!!」


 そうしようかと言おうと思った時、後ろから何かがとんでもない勢いでぶつかってきた。


 後ろを振り向くと、そこには恵美が俺に抱きついていた。


「お前、どうしてここに……?」


「福尾さんに連れてきてもらったのよ!無事で、無事で良かった……」


 そう言うなり、恵美はなぜか泣き出してしまった。仕方がないので、俺は恵美が泣き止むまでそのままにしてやった。

 数分して恵美は泣き止んだが、我に帰ったのか真っ赤な顔をして俺から離れた。


「まあ、みんな無事で良かったよ。うちの隊員は5人亡くなってしまったんだ……」


「そうだったの……みんなしっかり弔ってあげないとね……」


「ほら、恵美と栞ちゃんが作ってくれたペンダント。あいつらの分だ。すぐに回収できる遺品はそれくらいしかなかったんだ」


 そう言って俺は恵美にペンダントを手渡した。


「みんな、頑張ったのね……」


「その遺品については遺族に渡すことになるだろうから、大切に持っておいてくれ。俺たちは少し休ませてもらうよ」


 そうして俺は地面に寝転がった。

 当然、寝袋もないのでそのまま寝ることしか出来ない。

 しかし、よほど疲れていたのかあっという間に睡魔が襲ってきて、俺はすぐに寝てしまった。

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