第36話

 前半組の討伐が終わり、後半組の討伐も始まった。やはり最初は前半組と同じように恐る恐るモンスターと戦っていたが、1時間もする頃には大分慣れたようだった。

 次の槍部隊も待っているので、刀部隊は計2時間の討伐を終え、駐屯地に戻ることになった。


「どうだった?最初の討伐は」


「かなり緊張しました。でも、スキルアップもできて、これでモンスターと戦えるようになると思うと、ようやくスタートラインに立てたんだなと」


 岡は俺の質問にそう答えた。

 刀部隊は真面目で練習に熱心な岡がリーダーのようになっていた。他の隊員も岡の真面目な姿勢に刺激されて、練習に励んでいるのでいいことだった。


 岡が入隊を希望したのも日本の危機を救いたいという模範のような志望動機だったし、昔からこのような性格なのだろう。


「そうか、良かったな。明日からはこんなにぬるい討伐にはならないから覚悟しておけよ?」


 隊員達は俺のその言葉にも嫌な表情を一つも見せず、むしろやる気に満ち溢れた様子だった。




 駐屯地に戻った俺たちは刀部隊と槍部隊を交代して、再び街へ向かった。

 槍部隊も特に問題なく順調に討伐が進み、槍部隊も無事それなりにスキルアップすることができた。

 しかし、今日1番の問題は最後の弓部隊だった。

 なにぶん、先ほどまでの作戦と相性が悪い。俺がモンスターを引きつけても、誰かが矢を外して俺に当たってしまう可能性もあるので、これまでの作戦は使えなかった。


 街に向かう途中のトラックで俺は作戦を考えていたが、あまりいい案が思いついていなかった。


「早瀬。何か弓部隊の討伐でいい方法はないか?」


「うーん……正直みんなまだ止まっている的に当てるので精一杯ですからね。動くモンスターに当てるのは至難の業かもしれないです……」


 そうだよなあ。そんな一朝一夕で弓が使えるようになるわけないもんな。モンスターの動きを止めようにも俺に当たる可能性がある以上怖くてできないし。


「あ、なにも木刀で止めなくてもいいじゃん」


「え?どういうことです隊長?」 


「モンスターの足を日本刀で斬り飛ばす。足がなければモンスターも動けないだろう?」


 俺が考えた作戦はこうだ。まず、俺がモンスターを見つけ次第日本刀で足を斬り落とす。それならば近くによっても攻撃される可能性はほぼゼロに等しいはずなので、近くによって矢を当てればスキルアップができると思った。もちろん、火を吹くとかそんなモンスターがいないこと前提だけど。


「スキルアップの条件が攻撃するだけっていうならその作戦はいいかもしれません!」


「だろ?ということで、作戦はそれで行こう。そろそろ街に着く頃だから、みんな準備をしてくれ」


 今回の討伐で刀部隊、槍部隊と違う点がもう一つある。それは弓矢の補充をしなければならないということだった。

 射った矢は当然手もとに帰ってこないので、攻撃するたびに新しい矢が必要になる。

 しかし、自分で持てる矢にも限界があるので、今回の討伐では弓部隊全員が参加し、その横をトラックが移動する形をとることにした。トラックの中には矢が大量に積んである。


「よし、それじゃあ討伐を始めるぞ。まず、前衛後衛に半分ずつで分かれてくれ。前衛の持っている弓がなくなったら後衛と交代し、その間に弓を補充してくれ。あとはその繰り返しだ」

 

 そして俺たちは討伐を始めた。

 作戦通り、俺がモンスターを見つけ次第、足を切り落として、後ろに控える弓部隊がとどめを刺す形だった。

 作戦は順調に進み、1時間ほど討伐を続けた頃にはかなり多くのモンスターを倒していた。


「これ、かなり効率いいかもな」


 最初、矢が当たらないままスキルアップができないんじゃないかと不安だったが、この作戦は意外といいものだったのかもしれない。

 足を斬られたモンスターは弓部隊に何もすることができず、ただ矢が飛んでくることになんの抵抗もできず死んでいった。


 その後、さらに1時間討伐を進めたところで、思いもよらない問題が起きてしまった。


「隊長……弓の弦がかなり軽く感じてしまって、当てるのがさらに難しくなってしまいました」


「……マジかよ」


 弓部隊の隊員たちは先ほどまで、一般人程度の力でしか弓を引けなかった。しかし、スキルアップを重ねた今、隊員たちの力は最初の数倍にまで跳ね上がったようだ。

 しかし、そこで起きた問題が今まで積み上げた感覚が、急に力が増えたことによって全く意味をなさなくなってしまうということだった。

 

「それは大問題だな。早瀬はどうだ?感覚が変わったとかは感じるのか?」


「ええ、かなり。あまり強く引いてしまうと弦が切れてしまいそうで集中できませんし……」


「今日はこの辺でやめておこうか。まさかそんなところでつまづくとは思わなかった」


 こうして、弦を引く力が変わってしまった弓部隊は撤退を余儀なくされた。これ以上スキルアップさせたら弓を壊してしまうかもしれない。

 

「どうする省吾。弓ってあれしか支給されてないよね?」


「そうだな。その弓が使い物にならなくなってしまったんだ。帰りにちょっとMDU本部に確認してみるよ」


 帰りのトラックで俺はMDU本部長の笹森に電話をかけることにした。


「はい、MDU本部です」


 電話にはまた女性が出たので、本部長に代わるように伝えた。数秒後再び電話がつながり本部長が電話に出た。


「もしもし、東京支部の松藤です。少し問題が発生しまして」


「え!隊員に何かありました!?」


「いや、そうじゃなくて」


 討伐初日に隊員に怪我なんてさせたら隊長失格だろう。おそらく本部長もそういった報告かと思ったようだ。


「実は支給された弓についてなんですが、スキルアップしたことによって力が急に増えてしまいました。弓の弦を切ってしまいそうだと隊員から報告を受けまして……」


「なるほど、スキルアップにはそういった点も考慮しないといけないのですか……少々お待ち下さい」


 そう言って本部長は電話を保留にした。

 なにか対策があるのだろうか?保留になって3分ほどしてから、再び電話がつながった。


「早急に次の弓を用意させてもらいます。弓の"重さ"はどれくらいにしましょうか?」


「重さ?少し待ってくれ……川瀬、弓を新調してもらえるんだが、弓の重さ?ってやつはどれくらいがいいかって」


 弓のことがさっぱりわからない俺は川瀬に助け舟を求めた。弓の重さって重量のことだろうか?


「そうですね、100キロ程で作れるでしょうか。いわゆる5人張りというものですが……」


 川瀬は俺の問いにそう答えてくれたのでそのまま本部長に伝える。


「もしもし?100キロほどの5人張り?ってやつが良いそうですが、可能ですか?」


「職人に伝えておきます。ただ、制作までは少し時間がかかるそうです。そちらに届くのが早くても3日後になりそうなので、その間は先に支給した弓をなんとか使ってください。よろしくお願いします」


 そうして、俺は電話を切った。

 弓も色々な種類があるのだろうか?素人の俺にはさっぱりわからないが、川瀬が頼んだからには使い勝手のいい弓が来るのだろう。


 俺と弓部隊を乗せたトラックが駐屯地に着いたのは午後の2時半頃だった。

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