第35話

 朝食を急いで食べ終わり、俺たちは部屋に戻って討伐の準備をすることにした。


「隊服のデザインは相変わらずだよなあ」


 俺が前の駐屯地で支給された隊服はそのままMDUの隊服になってしまった。少しはデザインが変わるかもなんて期待をしていたんだが、そんな期待は崩れ去ってしまった。


 新庄はかなりこの隊服を気に入っているので、新品の隊服を支給されて大喜びしていた。

 俺たちはそれぞれ武器を用意して運動場に向かうことにした。


「それにしても、MDU専用の建物って用意されないのか?結局他の支部も自衛隊の施設を借りてるわけだろ?」


 MDUは結局自衛隊の傘下のようなものになったのだろうか?


「とりあえずはこのままじゃないのかな。建物を建てる人もいないし、今はそんなことやってる暇じゃないからね」


「まあそれもそうか。とりあえずは2週間後に向けてスキルアップに励まないとだな」


 運動場に着くとすでに全員が集合しているようだった。こんなにしっかりした隊員をまとめるのが俺でいいんだろうかと不安になってくる……。


「みんな早いな……」


「やる気いっぱいでいいじゃない。おはようみんな!」


 それから俺は今日の討伐について説明を始めた。


「まず、今日からみんなにはスキルアップに励んでもらうんだが、今日は初日だし部隊を分けて討伐に向かうことにする。最初は刀部隊が討伐に向かう。その後に槍部隊、弓部隊の順番だ。他の部隊が討伐に向かっている間、ここに残る隊員はそれぞれ自主トレになる。弓部隊は早瀬の指示に従って練習してくれ」


 俺が討伐について説明を終えると、隊員達は闘志むき出しといった感じで、やる気に溢れたようだった。そんなにモンスターと戦うのが楽しみなんだろうか。


「槍部隊のみんなー。今日の自主トレの内容を説明するから集まってー」


 新庄が槍部隊を集めて今日の練習内容の説明をおこなっていた。

 俺も刀部隊に今日の討伐についてより詳しい説明をしようとしたところで、早瀬が声をかけてきた。


「あの……隊長、相談が……」


「うん?どうした?」


「弓部隊は本当に私が率いてよろしいのでしょうか。私はモンスターとも戦ったこともないですし、誰かに教えたような経験もありませんし……」


 早瀬はすごく不安そうな顔をしてそう言った。昨日も早瀬の指示で練習していたし、特に問題ないはずだが。


「弓部隊、集合ー」


 俺は弓部隊の隊員を全員集めて、ひとつ質問をすることにした。


「この中で早瀬が弓部隊を率いることに問題があると思っているやつはいるか?」


「ちょっと!隊長!」


 早瀬が俺の質問を聞いてかなり焦りはじめたが、そんなのは気にしない。


「いえ、全く問題ないですが……なぜでしょう?」


 俺の質問に弓部隊の隊員達はなぜそんな質問をするのかといった表情をしていた。


「ほら、大丈夫だろ?分かったならさっさと練習だ」


 俺は早瀬の背中を押して早く練習を始めるように促した。

 他の隊員の態度でも分かることだが、早瀬は弓部隊の隊員からすでに信頼されている。教え方も上手で、頼りにされていることに本人はまだ自覚していないようだが。


 弓部隊も練習しはじめたので、俺は刀部隊を集めて、討伐内容の確認をすることにした。


「今日の討伐だけど、君たち10人全員がいきなり戦うわけじゃなくて、最初は5人でモンスター2体くらいを相手してもらう予定だ。その間、他の隊員は新庄と共にトラックに残る。少し戦ってスキルアップの効果が出てきたところで交代って感じだな」


 俺が説明すると、隊員の岡が質問してきた。


「あの、今日でいきなりモンスターを倒せるようになるのでしょうか?正直、まだスキルアップというのも経験していないですし」


「今日中には1人でモンスターを倒せるようになると思うぞ。というか、そうなってもらわなきゃ困る。君たち一人一人に日本の将来がかかっていると思え」


 俺がその後、モンスターについて色々説明していると、槍部隊の練習も始められたのか、新庄がこちらに戻ってきた。


「お待たせ、それじゃ行こうか」


「よし、みんなトラックに乗り込んでくれ」


 それから俺と隊員は幌付きトラックの荷台に乗り込んだ。新庄にはトラックを運転してもらう。


 こうして、俺たち東京支部【アイディールズ】は部隊としては初めてのモンスター討伐に向かうことになった。




 トラックで20分ほど移動すると、徐々にうろつくモンスターが増えはじめた。

 俺は運転席の新庄にトラックを止めるように指示して、この近辺で討伐を始めることにした。


「よし、じゃあ最初の5人は外に出るぞ」


 そうして隊員達を連れトラックを降りた俺は木刀を手に持ち戦闘準備をする。


「とりあえず最初は俺がモンスターを引きつける。君たちに被害が加わらないように善処はするが、いざとなったら自分で反撃しろよ?俺がモンスターの動きを止めたら、全員でモンスターを袋叩きにしろ。分かったな?」


「「了解です!」」


 隊員達も木刀を手に持ち、準備は整ったようだった。


「よし、それじゃあ行くか。新庄、留守番は頼んだぞ」


「まかせといてー。みんな気をつけてねー」


 こうして、俺と前半組はモンスターを見つけるために歩き始めた。

 1分も経たないうちに遠くにホーンラビットが2体見えたので、最初はあれを標的にしようと考えた。


「みんなみえるか?あれがホーンラビットなんだけど、比較的弱いモンスターだから最初はあれにするぞ」


 俺たちはホーンラビットに向かって歩き出した。

 ホーンラビットたちもすぐに俺たちに気がついて、全速力でこちらに向かってきた。


「隊長、モンスターが来てます!」


 隊員の1人が少し焦った様子でそう言った。


「落ち着け。可愛いうさぎだと思えばいいだろ」


 ホーンラビットが20メートルくらいまで近づいてきたので、俺は木刀を構えホーンラビットを迎え撃つ体勢に入った。

 俺は隊員達より少し前に出て、ホーンラビットが自分を襲うように誘い出した。

 ホーンラビットはそのまま俺に飛びついてきたので、ツノの部分を軽く上に打ち上げるように叩いた。

 ホーンラビットは軽く宙を浮いていたので、その瞬間俺は隊員に指示を出す。


「今だ!行け!」


 隊員達はホーンラビットに全力で向かっていき、袋叩きにすることに成功した。少しオーバーキルのようで、ウサギの体がボコボコになってしまった。


「はあ、はあ、なんとか倒せました……」


「気持ちはわからなくもないが、必死すぎだ。少し落ち着いてモンスターを倒せるようにならないとな」


 隊員達は初めて対峙するモンスターにかなりビビっていたらしい。まあ落ち着いてモンスターを倒すなんて普通は考えられないか。


「次に行こうか。時間は限られているし次々と倒さないと」


 そうして、前半組はその後1時間ほどでかなりの数のモンスターを倒すことに成功した。最初に俺がモンスターの注意を引きつける作戦が功を奏し、隊員達も落ち着いてモンスターを倒せるようになっていた。


「そろそろ交代の時間だからトラックに戻ろう……とまたホーンラビットだな。岡、お前1人で行ってこい」


 俺はもう心配いらないだろうと思い、岡にホーンラビットの討伐を命じた。


「いやいや!まだ早いですよ!今日ようやくモンスターを倒せるようになったんですよ?」


「腕試しだよ。危なかったら俺が助ける。さっさと行ってこい、隊長命令だ」


 岡は渋々ホーンラビットに向かっていった。こういう時隊長命令って役に立つんだなと思ってしまった。


「おりゃあああああ!」


 岡はホーンラビットのツノに向かって木刀を振り上げた。すると、ホーンラビットは宙を舞い、さらなる追撃を受け死んだようだった。

 まるで、モンスターを倒しはじめた俺のようで懐かしく思えた。最初は俺もモンスターと戦うのは怖かったし、岡と同じ気持ちだった。


「隊長、やれました!」


 満面の笑みでこちらに戻ってきた岡を見て、他の隊員もかなり喜んでいた。

 俺たちはモンスターに蹂躙されるだけでは終われない。

 国民を、日本を守るため、今度は俺たちがモンスターを蹂躙できるようにならなければならないのだから。

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