第37話

 駐屯地に着いた俺たちはその日の討伐を終了し、あとはそれぞれ練習することになった。

 しかし、弓部隊は今の状態で練習しても、また弓が変わる予定なのであまり意味がないかもしれないという話になった。


「弓部隊どうしようか。まさか弓のスキルアップにこんな不具合があったとは」


「他の武器も同じかもね。だって省吾も木刀一回折ってるでしょ?力が増えた分武器の消耗も激しいんじゃないかな?」


 新庄が言ったことは一理あるかもしれない。力が増えたということはそれだけ武器にかかる力も増えるということだ。

 

「……あ、やばい」


「ん?どうした?」


 自分の槍を手入れしていた新庄が何やら不穏な発言をした。


「槍の柄の部分にヒビが入ってる……」


 見てみると、たしかにうっすらとではあるが亀裂が入っていた。


「多分、普通に使ったらあっという間に折れるぞ?槍は長く持って攻撃することもあるんだ。テコの原理みたいに力が大きくかかったら真っ二つになるんじゃないか?」


「せっかく作ってもらった自分の武器なのに!……次は柄の部分を金属製にしてもらおうかな」


 新庄は自分の武器が壊れてしまったことにかなりショックを受けていた。

 少しの間そっとしておこう……。


 俺は刀部隊と槍部隊に昨日と同じ練習をするように伝え、早瀬と共に弓部隊の別練習メニューを考えることにした。


「早瀬、何かいい案はないか?」


「とくにこれといった案は……少し気になったんですけど、もう少し強い弓にしたとしても、またスキルアップしてしまったら同じことになりませんか?」


「そうなんだよな……」


 早瀬の言う通り、今後弓部隊がスキルアップしていくとまた弓を壊してしまうほど、力が増えてしまう可能性があった。


「あの、一つ疑問に思っていることがあって、スキルアップというのは終わりがないんでしょうか?」


「どうなんだろう……それについては全くわかっていないんだ」


 俺もモンスター討伐を始めた頃はスキルアップがあっという間に感じてしまったが、最近はあまり力が増えているという感覚は無かった。新庄にも以前確認したが、スキルアップの効果が薄れているのではという話もあった。


「俺も最近はスキルアップしている感覚はないからな……ハッキリとは分からないが、上限のようなものがあるのかもしれないな」


「それなら問題ないですよ!もし上限があるのだとしたら、その上限に達した力に合わせて弓を作ればいいんです!……どれくらいまで伸びてしまうかわからないですけど」

 

 もし上限があるとしたら、俺や新庄はすでにその上限に達してしまったのだろう。

 これ以上スキルアップしないとしても、もう人間をやめてしまったような動きができるようになってしまったので、普通のモンスター相手には全く遅れを取ることは無くなった。


「とりあえず弓部隊は練習することが何もないからな……体力トレーニングでもするか?弓を使うにしても戦場を走り回ることになるんだし」


「え?弓部隊はそんなに動きませんよね?」


「いや、そりゃモンスターが全く動かないんだったらお前らも動かなくていいけど、モンスターに囲まれないように場所を変えつつ戦わないといけないだろう?弓部隊はモンスターに近づかれると相性が悪いからな」


 俺は早瀬に今言った理由で、弓部隊の体力を鍛えることにした。もちろん、新しい弓が届けばそれを使って的を狙う練習に切り替える予定だが、今はこれ以外の練習は思いつかなかった。

 隊員たちも弓の練習ができない中休んでるわけにもいかないと思ったのか、俺が言った体力トレーニングに賛同してくれた。


 その日は各部隊それぞれ夜7時くらいまで練習した。その中でも、体力トレーニングをしていた弓部隊が一番疲れていたようだった。




「はあ、僕の槍が……」


「全くいつまで落ち込んでるんだよ。また作って貰えるんだから気にするなよ」


 その日の夜まで新庄は槍に亀裂が入ったことに落ち込んでいた。

 そんな新庄を見かねて、あれは武器科に連れて行くことにしたのだ。


 武器科の部屋は駐屯地内の会議室が割り当てられ、そこで隊員たちの武器の手入れをしてくれていた。


「おーい小橋ー。ちょっと見てやってくれ」


 俺は他の隊員の槍を手入れしていた小橋に声をかけた。


「あら松藤くん、お疲れ様……新庄さんどうしたの?」


「ああ、こいつの槍にうっすら亀裂が入ってしまってな。ずっと落ち込んでいるんだが、それは気にしないでくれ」


 俺は新庄の槍を小橋に手渡した。


「あら、ほんとね。これを直すことは出来ないから、柄の部分を交換することになるんだけど……新庄さん、それでいいですか?」


「しょうがないよね……はあ、初めてもらった自分専用の槍なのに……」


「いつまでもしょぼくれるなよ。柄の部分の交換はどれくらいかかるんだ?」


 相変わらずへこんでいる新庄は放っておいて、俺は小橋と話を進める。


「すぐにできるわよ。5分くらい待っていてくれる?」


「そんなに早くできるんだな。じゃあこの部屋で待たせてもらうよ」


 こうして、俺と新庄は槍を直している間に部屋で待つことになった。

 栞ちゃんも武器の手入れをしていたが、かなり集中しているようなので、声はかけないことにした。

 

「2人ともしっかり仕事しているんだな」


 東京支部に隊員たちが配属されてから、あまりこの2人とは関わることができなかった。2人の仕事をこうやって間近で見るのは初めてだったが、俺の刀の手入れなんかとは比べ物にならないくらい手際が良かった。

 そりゃあ武器科に勧誘される訳だよ……。


 しばらくすると、槍の修理が終わったようで小橋が俺たちを呼んだ。


「はい、もう終わったわよ。みんな武器の手入れは乾拭きくらいしかしないでしょう?できれば2日に1回くらいは見せにきてほしいって隊員たちに伝えてほしいわ。私たちが気付けることもあるかもしれないし」


「わかった、隊員たちには伝えておくよ」


「ありがとう、小橋さん!これで槍が振れるよ!」


 そう言って新庄は武器科を出て行ってしまった。槍が直ると同時に新庄のテンションもいつも通りかそれ以上になってしまった。


「悪いな急に来てしまって」


「いいのよ、それが私たちの仕事なんだから。それより夕食は食べた?もしまだだったら私ももうすぐ終わるから一緒にどうかなって思ったんだけど」


 たしかに小橋たちとは一緒に食事を摂ることも無くなってしまった。久しぶりに会話をしながら食べるのもいいかもしれない。


「そうだな。久しぶりに一緒に食べようか」


「本当!急いで仕事を終わらせるから少し待っててね!」


 こうして、俺は小橋の仕事が終わるまで武器科で待つことになった。なぜか小橋は鼻歌混じりに作業を淡々とこなしていたが、その理由は分からなかった。

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