第33話

 駐屯地についた俺たちは、スキルアップについて説明するため、会議室を借りることにした。ホワイトボードなんかもあって説明しやすいと思ったからだ。

 隊員達がみんな席に着いたところで、俺はスキルアップについて説明を始めた。


「はい、ということでスキルアップの説明をするぞー。まずスキルアップっていうのは熟練度と言い換えたほうがわかりやすいかもしれない。武器を扱う力がどんどん上がっていくイメージだな。でも上がるのは力だけだから、例えば刀を振る技術なんていうのは自分で磨いていかないといけない」


 俺がそう説明すると、1人の男性隊員が質問をしてきた。


「あの、それはやはりゲームみたいにモンスターを倒したら経験値が入るようなものなのでしょうか?」


「それは半分あたりで半分はずれだな。熟練度を上げるには必ずしもモンスターを倒す必要はない。モンスター攻撃することによって、その時に扱っている武器の熟練度が上がっていく」

 

 俺の答えに納得したのか、質問した隊員は頷いていた。


「ちなみに使える武器というのは決まっていて、俺が使う刀、新庄が使う槍、あとは剣、斧、弓に投擲武器だ。正直、刀と槍以外は俺たちのメインウェポンじゃないから、他の武器がどれだけ強いかもわからない。俺たちの部隊では刀、槍、それと弓の3部隊で構成したいと考えている。刀と槍が30人、弓が20人ほどの割合で組みたい」


「ちなみにこの中で弓道やったことがあるよーって人はいる?……おお、いるね!よかったよ!」


 新庄が弓道経験者を募ると、たった1人だったが手を上げた。


「早瀬さん……だったよね?弓道経験者がいてくれたら100人力だよ!」


「あの、でも動いている的なんて弓道場にはありませんし、お役に立てるかどうか……」


 早瀬は不安そうにそう言った。

 しかし、俺と新庄は弓なんて触ったこともないので、弓部隊を編成したい俺たちにとって早瀬はまさに女神様のように感じた。


「とりあえず、モンスターに当たればスキルアップはできるんだ。素人の俺たちが教えるより、経験者の早瀬が教える方が何倍もいいに決まってる。ということで刀部隊は俺、槍部隊は新庄、弓部隊は早瀬が率いることにする。なにか異論のあるやつはいるかー?」


 特に問題もなさそうだったので、早速部隊の編成に取り掛かることにした。

 隊員の中には何人か剣道経験者がいるようだったので、その人達には弓部隊に入ってもらうことになった。そのほかの隊員はそれぞれとりあえず入りたい部隊を選ばせたのだが、刀・槍部隊が25名、弓部隊が25名と前衛後衛ちょうど半分ずつといった割合になった。


「とりあえずはこれでいいか。それぞれ好きなことをやらせた方が伸びるかもしれないし」


 さすがに割合がおかしくなるようだったら俺の独断で編成しようと思っていたが、予定していた割合に近いものになったので、とりあえずはこのまま討伐にあたることになった。


 明日から討伐を始める予定だったので、その後再び運動場に集まり、それぞれの部隊で練習することにした。


「刀部隊は10人か。この中で剣道経験者が……5人か。とりあえず、今日はみんなに武器の支給なんだが、最初は木刀でやってもらうぞ。まずはモンスターを倒すのにそれで慣れてもらわないとな」


「あの、なぜ最初から日本刀ではないのでしょうか?」


 男性隊員の岡が不思議そうな顔をしてそう言った。まあ俺が日本刀を使ってモンスターを倒したのを見たからこその疑問なのだろう。


「日本刀が壊れるからだよ。受け売りなんだが、日本刀では刃筋を立てるっていう動作が必要なんだ。刃を入れる進行方向と全く同じ方向に力を入れるっていうことなんだけど、これが全くうまくいかないと、最悪刀が折れるらしい。……日本刀は高いぞ?」


 俺がそう説明すると、岡は真っ青な顔になってしまった。別に折れた刀は弁償するわけじゃないから大丈夫なんだけど、少し脅しすぎたか?


「まあ将来的にはもちろん日本刀を使ってもらうことになるから、今言った刃筋を立てるってことを意識しながら木刀も使ってほしい。この技術はずっと意識していないと難しいからな。とりあえず、今日はひたすらそれを頭に入れて素振りしようか」


 俺は刀部隊の隊員に今日はずっと素振りしてもらうことにした。刀が振れなきゃモンスターは倒せないからな。


 弓部隊の様子を見に行こうとした俺は、遠くで色々教えている様子だった川瀬に声をかけた。


「おーい、そっちにいっても大丈夫かー?」


 俺がそういうと、早瀬はこちらに手を振ってきた。おそらく大丈夫とのことなんだろう。

 弓部隊の方に近づくと、早瀬が隊員に弓の引き方を教えている最中だった。

 邪魔をするわけにもいかないので、その様子を遠巻きに見ることにした。


 俺たちに支給された弓はショートボウと呼ばれる、比較的初心者でも扱いやすいものたった。それでも、的に当てるのはかなり難しいようで、弓部隊のほとんどが苦戦していた。


「……これで弓部隊は機能するんだろうか」


 俺は部隊構成に問題がありそうで頭を抱えていた。いきなり弓を使えと言われてできるはずもないのだが、なにより時間がない。

 どうしようかと悩んでいると、その様子をみて早瀬は苦笑いしていた。


「隊長?どうしたんですか?」


「いや、てっきりすぐに使えるようになると思ったから、計算を間違ったかもしれない」


「うーん……私もこのショートボウははじめて使いましたけど、弓道の和弓に比べてすごく扱いやすいですよ?距離がある程度近ければ、すぐに当てれるようにもなると思います」


 早瀬は心配そうにしている俺をよそに、楽観的な様子だった。


 その日は全部隊、夜の9時くらいまで練習した。隊員達は初日からかなり疲れたようで、その日は早く休むように伝えた。

 明日からはモンスターと戦うし、もっと疲れることになるだろう。

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