第32話
部隊編成を考えていた俺と新庄だったが、それが終わったのは昼を過ぎた頃だった。
「疲れたな……休んでる暇もないしすぐに隊員を集めるか」
「なるべく早くスキルアップしておきたいよね。2週間後、どれだけの被害が出るか予測できないし」
俺たちに残された時間は刻々とすぎていく。もう大型モンスター出現の予定日まで約2週間となってしまった。本当に急がねばならない。
結局MDU東京支部は、この駐屯地に設営されることになった。東京支部の隊員たちは入隊試験のときからここで暮らしているので、生活もそろそろ慣れてきた頃だろう。
その生活も今日で終わりだがな。
俺は駐屯地内の放送設備を使って、隊員達に運動場にすぐ来るようにと放送した。
放送して5分後には50名全員が揃うことになり、あまりにも早すぎる集合に若干引いてしまった。
俺と新庄は隊員達に自己紹介をすることにした。
「初めまして。MDU東京支部で隊長を務める松藤だ。こっちは副隊長の新庄だ」
「初めまして、新庄です。よろしくお願いしますねー」
なんともやる気のなさそうな自己紹介だなこいつ。まあいいや。
「早速だが、俺たちは隊員の顔もあまり覚えていない。設立されたばかりの組織だからな。戦場で名前もわからないなんていう訳にはいかないので、今から君たちには自己紹介をしてもらいたい」
それから20分以上かけて、隊員たちは自己紹介をしてくれた。俺と新庄は自己紹介してくれる隊員の目の前まで行って、世間話を交えながら顔を覚えることにした。俺たちと隊員に距離があっても戦いづらいと思ったからだった。
「まあみんなあの地獄の二次選考を乗り越えた隊員だから体力なんかは全然心配いらないだろうな。さて、これから言う話をよーく聞いておけよ?」
そして俺は明日から行うモンスター討伐の説明を始めた。
「まず、モンスターはどうやって倒すかってところなんだけど……気になっていただろ?俺の腰についてるこれ」
これ、とは腰にあった日本刀と木刀だった。説明もなしにこんなのつけてたら、ただの頭のおかしい人だと思われていたのかもしれないな。
「察しのいい人は気づいたかもしれないが、モンスターは人の手で倒していく。銃なんかは使わせない」
俺がそう言った瞬間、隊員たちはざわめき出した。当然だろう、普通そんなことをしようとする奴は自殺志願者だと言われても仕方がない。
「まあまあみんな落ち着け!なにも理由もなしにそんなことしろなんて言うわけないだろう?レベルアップってわかるか?ゲームとかの」
「ゲーム?隊長、なんでいきなり……?」
1人の隊員がそう質問してきた。
あまりにも突拍子もない話に隊員たちはみんな困惑した様子だった。
「RPGゲームでよくあるだろ、モンスターを倒したらレベルが上がって力が増えましたってやつ。あれが今、この世界で可能になっている」
「……えーと、隊長?ここは笑うべき場面なのでしょうか?」
申し訳なさそうに女性隊員が恐る恐るといった様子でそう聞いてきた。やはり、信じてもらえないか……。
「どうする新庄。一生懸命説明しても信じてもらえる自信がないんだけど?」
「まあこうなるとは思っていたけど……僕だって省吾が実際に木刀でモンスターを倒すところを見なかったら信じられなかったよ?」
「……それだ!見てもらったら1番早いよな!」
百聞は一見にしかずってよく言うじゃないか。ここで色々説明するより、外で俺がモンスターを倒すのを見て貰えば早いはず。
「大丈夫かな?ショックでみんな倒れたりしない?」
「心配ないだろ、あの入隊試験を超えた隊員なんだから」
そういうわけで、俺と新庄は隊員達を幌付きトラックに乗せて、駐屯地の外に出ることにした。
◇
「お、いたいた」
外に出て少し走ると、小型恐竜の群れが移動しているのが見えた。全部で15体くらいだろうか。
モンスターを見た隊員達はかなり怖がっているようで、表情が強張っていた。
俺は運転手に小型恐竜を先回りするように指示した。
「よし、じゃあみんなとりあえず見ててくれ。君たちに明日からやってもらうことを俺が手本を見せるよ」
そういって小型恐竜が移動する先にトラックを止めてもらい、待ち伏せする。
数十秒後、モンスターの方も俺に気がついたのか、鳴き声をあげて向かってくるスピードを速めた。
「隊長!モンスターが!」
トラックに乗っている隊員からは、俺を心配するような声が聞こえてくるが、新庄がそれを宥めているようだ。
俺は左手の親指で刀の鍔を押し付け、刀を鞘から少しだけ出す。鯉口を切るというやつだ。
モンスターが残り10メートルほどまで近づいてきたところで、俺は刀を抜き放つと同時に、地面を蹴り出す。
「抜刀術」
一瞬で、先頭集団を作っていた5体の小型恐竜を真っ二つにした俺は、その後に続いていたモンスターに攻撃しようとしたが……。
「あれ?逃げちゃったのかよ」
先頭集団がやられたことで、モンスター達はパニックを起こしそれぞれ違う方向に逃げていった。
もう少しうちの隊員に手本を見せたかったのだが、逃げられてしまったものは仕方がなかった。
「こんな感じで明日からモンスターを討伐してもらう」
俺が振り返り隊員達にそう言う。
しかし、隊員達は俺の話を聞いているかどうかも分からないほどに呆然とこちらを見ているだけだった。
「あれ?もしもし?聞こえてる?」
「……ど、どういうことでしょう?モンスターが、真っ二つに……」
女性隊員の早瀬は、目の前の状況が理解できなかったのか、モンスターを指差して新庄と俺に視線を送っていた。
「明日から最低限これができるようにみんなは練習しないと行けないんだよ?それがさっき言ったレベルアップ……正式にはスキルアップってやつなんだけど、まあ帰ってから説明するよ!」
新庄は隊員達に軽く説明した。
まあ帰ってじっくり説明したほうが良さそうだな。どの隊員も魂が抜けたような顔をしていて話を聞いているかどうかもあやしい。
俺たちを乗せた幌付きトラックは、ここまで向かってきた道を引き返し、再び駐屯地へ戻ることになった。
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