第14話
演習場に着いた俺と討伐隊は戦闘準備を終えて、今回の討伐についての最終確認を行なっていた。
「まず、今日は槍部隊を前衛におき、後衛を銃部隊でサポートという形になる。松藤さんにも前衛に出てもらい、槍部隊のサポートに当たってもらいたい」
この中で一番位の高そうな、ガタイのいい男性隊員がそう言った。
槍部隊には、今日俺を案内してくれていた新庄さんも含まれていた。
「それでは討伐を始めようか」
早速、前衛の槍部隊がモンスターに向かって攻撃する。だが、あまり槍の扱いが上手くないのか、かなり苦戦していた。
「みなさん、モンスターに近づかれたら槍を短く持ってみてください!そうすれば少しは取り回しが楽になるはずです!」
隊員隊は槍をかなり長く持ち、大きく振り回していたが、機敏なモンスター相手にはあまり当たらず、懐に潜り込まれるような危ない場面が多かったので、横からアドバイスをした。
そのアドバイスを聞いてからは、近くのモンスター相手には槍を短めに持って、近接戦闘に対応したり、少し距離のあるモンスターには突きで対応したりと戦闘の幅が少しづつ増えて行った。
30分もすると、最初の頃の危なっかしい場面も少なくなり、安定した討伐ができるようになっていった。
しかし、槍部隊の隊員たちを見ていて思ったが、最初のスキルアップのスピードは尋常じゃないほど早かった。おそらく、槍を扱う力だけをみればこれほどの部隊は世界中探してもいないだろう。
まあ、俺を含めて実践経験が足りないのは否めないけどな。
それから俺たちは2時間もぶっ通しでモンスターを討伐し、ヘロヘロになりながら駐屯地へ戻ることになった。
「松藤さん、最初のアドバイス助かりました。危ない場面も助けてもらって、ありがとうございます」
帰りのトラックの中で、新庄は俺にそう言って頭を下げてきた。
「いえいえ、役に立てたんだったらよかったです」
「松藤さんは槍も扱ったことはあるんですか?すごく的確なアドバイスだったと思いますけど」
「昔テレビ番組で槍の扱い方の特集がやっていましてね。その時に見たことの受け売りですよ。討伐の終盤には槍を長く持ってもモンスターに対応できるようになっていましたし、普通のモンスター相手だと油断しない限りは問題なさそうですね」
俺は他の隊員にも危ない場面を助けてもらったと感謝をされたが、あまり年上の人に頭を下げられると対応に困ってしまい、余計に気疲れすることとなってしまった。
◇
討伐隊の倉庫に戻った俺たちは、先ほどの討伐で今日のスキルアップを終えることにした。あまりにも槍部隊の疲労が激しいということで、翌日再び別の槍部隊を構成することになった。
「松藤さん、お疲れ様でした。昼食一緒に食べませんか?」
新庄さんにそう言われたので、もちろん承諾して俺は食堂に向かった。
少し早めの時間だったのか、食堂はかなり空いていた。俺は空いてる席に座ってゆっくり昼食を食べることができた。
目の前に座った新庄は5分ほどで全て食べ終えてしまったが。
「朝も気になったんですけど、自衛隊員はそんなに早く食べないといけないものなんですか?もう少しゆっくり食べればいいのに」
「いえ、僕は元々早食いなんですよ。他の隊員はゆっくり食べてますよ。体に悪いって周りからよく言われるんですけどね……」
新庄さんは苦笑いしながらそう言った。
新庄さんと話しながら昼食を食べていると、見たことのない男性隊員が食堂に走って入ってきた。
「松藤さん、いらっしゃいますか?」
息を切らしながらそういう隊員に返事をして手をあげた。
「早崎司令がお呼びです。お食事中申し訳ないですが、大至急付いてきてください」
その男性隊員の様子から只事ではないと感じた俺は、食べていたご飯を下げて新庄さんに軽い挨拶をして、男性隊員に走ってついていった。
案内されたのはこの前使った客間のような部屋ではなく、司令室と扉に書いてある部屋だった。
「失礼します!松藤さんをお連れしました!」
男性隊員がそう言うと中から入ってくれと声が聞こえた。
中に入ると、早崎さんが立ち上がって出迎えてくれた。
「急に呼び出して悪いね。もしかして昼食の時間だったかな?」
「いえ、気にしないでください。それより何かあったんですか?」
「まあとりあえずそこに座ってくれ」
早崎さんの机の目の前にあるソファに座った。
「まずどこから話そうかな……。とりあえず討伐隊の募集についての発表は13時頃にテレビで放送されることになった。そして、その討伐隊にぜひとも松藤くんに入隊してほしいんだ」
「ええ、良いですよ」
特に断る理由もないので二つ返事で了承した。
「……本当にいいのかい?それこそ3週間後にはこの世界の状況もかなり変化するかもしれないんだよ?」
「ええ、ただ入隊しなくてもモンスターに襲われる可能性はゼロじゃないですからね」
「そうか、人手は1人でも多い方がいいと思っていたんだ。なにより戦闘経験が多い松藤くんなら入隊後も活躍してくれそうだね。ありがとう」
そう言って早崎さんは俺に頭を下げた。
「それと討伐隊についてだけど、自衛隊の傘下っていう形ではなくて、新たな国の組織として造られることになったんだ。結局自衛隊の隊員の一部がそっちに異動することになっているから、あくまで表面上の話だけどね」
自衛隊の傘下じゃなくても、討伐隊を構成する一部が自衛隊員なんてほぼ傘下みたいなものだとは思うが、おそらくそれらの情報は公表しないのだろう。
「まあ問題は入隊希望者がどれくらい集まるかなんだけどね。それと討伐隊に支給される武器についてなんだけど、朝松藤くんが神様から聞いたって言う6種類の武器。これはそれぞれ専門の職人を雇って、討伐隊内に武器科を設けることになった。武器科では武器の製造、補修なんかを担当したり、討伐にあたる隊員を色々サポートしてもらう、まあ悪くいえば何でも屋さんだね。こっちには討伐隊の入隊試験に落ちた人を誘ってみるって形になる予定だよ」
今日の朝早崎さんに神様から言われたことを話したばかりなのに、随分行動が早すぎる気がするんだけど?仕事できる人ってこういうものなの?
「色々急ピッチで進むんですね……。スキルアップの件はどうするんですか?国の方にはまだ伝えていないんですか?」
「それについては討伐隊の中だけで秘密裏に進めようと言う話になったんだ。国もスキルアップを悪用する人が出てきてもおかしくないと判断してね……。まあ、討伐の様子が他人に見られたら何かおかしいとすぐバレそうではあるんだけど、少しは時間を稼げるだろう?」
「まあそれもそうですね。ところで入隊試験があるなんて聞いていないんですけど。俺が万が一落ちたらどうするんです?」
体力試験なんていうのがあったら絶対落ちる自信しかないぞ。
「ああ、それは大丈夫だよ。松藤くんは書類だけで入隊できるように手配してあるから」
早崎さんはニヤリと口角を上げそう言った。それは裏口入学ならぬ、裏口入隊ってやつじゃないんだろうか。
「君みたいな人材を入隊試験で落とすわけにはいかないじゃないか。入隊試験って言っても、体力測定……スタミナの部分だけ知りたいからね。すぐ疲れちゃうような人がモンスターと戦ってもスタミナ切れで戦えなくなるなんていう最悪の事態を避けるためには必要なんだ。まあ入隊までには松藤くんにも鍛えてもらうけどね?」
なるほど、裏口入隊させる代わりにしっかり鍛えておけということか。
明日から店長と一緒にランニングでもしようかな……。
俺と早崎さんは討伐隊についての放送が流れる13時近くまで色々話し込んでいた。
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