第15話
「そろそろ13時ですね。もうすぐ放送ですか?」
早崎さんと色々話していたらあっという間に時間が過ぎ、すでに13時近くになってしまった。
「そろそろだとは思うんだけど……」
早崎さんは司令室にあったテレビを点けるが、まだ討伐隊についてのニュースは流れていなかった。
「まあ、そのうち放送されるだろう。記者会見のような形を取るみたいだから、かなり長い時間放送かもしれないね」
「世間の反応はどうなりますかね。ついでにSNSの反応でも見ておきましょうか?」
「それはいい案だね。お願いするよ……お、放送が始まるみたいだ」
テレビでは昼のバラエティ番組から放送が切り替わり、3人の男性が席についている様子が映り出された。
「中央にいる男が防衛大臣だね。左右の2人はおそらく彼の側近だろう」
早崎さんがテレビに映った男性について説明してくれた。防衛大臣が記者会見とは、随分大事過ぎる気もするが。
『えー、今回記者会見を行った理由につきましては、現在日本各地で発生しているモンスターについて、新たな情報を入手したためであります。現在、散発的ではありますが比較的大きなモンスターが現れているという情報がモンスター討伐に当たっている自衛隊員から報告されています』
防衛大臣がそう言うと、それを聞いていた記者たちがざわめき出した。
「あれ?そんなことあったんですか?」
「いや、実際はないんだけど3週間後に向けて世間にはそう説明することにしたんだ。その方が説明しやすいからね」
まあ確かに神様に大型モンスターが出るようになるって言われました……なんて説明できるわけないよなー。
『記者の皆様、後程質疑応答の時間を取りますのでお静かに願います。えー、このモンスターの大型化が原因で現在の自衛隊の討伐に遅れが生じております。もともと、自衛隊内で討伐にあたる隊員の人手不足は懸念されておりましたが、今回の大型モンスター出現により、その問題が浮き彫りになってしまいました。そこで、これを機にモンスター討伐に対する新たな組織、
「…… MDU?早崎さん何か聞いてました?」
「いや、これについては何も聞いていないよ。普通に討伐隊とか呼ぶと思っていたけど」
なんか、ネーミングダサくない?それに入るの嫌なんだけど。
『そして、そのMDUについては本日防衛省のホームページにおいて募集ページを設置いたしました。応募条件としては20歳以上の男女であれば、応募は可能です』
ここで、防衛大臣は一旦説明をやめ、質疑応答に移ることにしたようだ。
早速、記者たちは手をあげて質問する。
『最初に説明された大型モンスターについてですが、これまでと同様に自衛隊が討伐にあたることはできないのでしょうか?』
まあ、そう思うよな。だって今まで特に問題なくモンスターを制圧できていたんだし。
『大型モンスターですが、今までは主な攻撃手段として銃を使用しておりました。しかし、大型モンスターにとってはあまり有効な攻撃とは言えず、討伐に時間が掛かっています。そのための人員補充として、MDUを設置し増員を図る決定をいたしました』
防衛大臣は記者の質問にそう答えた。
なるほど、一応話の筋は通っているな。その大型モンスターはまだいないんだけど。
『先ほどから言われているMDUについての質問ですが、一般人がモンスター討伐にあたる組織に入ることに何のメリットがあるのでしょうか?自らの命を捨てにいくようなものではないでしょうか?』
次に質問した記者は少し怒ったような口調でそう言った。
『もちろん、タダで入隊してくれなんてことは言いません。まず1ヶ月に50万円が支給されます。当然危険な任務が続くと想定されますので、討伐数による出来高も検討しています。そして、入隊した隊員のご家族についてです。現在日本で数カ所ほどではありますが、モンスターが発生しない地域が発見されています。そちらにご家族を優先的に移住させることができる権利を差し上げることになりました』
これに対し、記者は食い下がるようにさらに質問した。
『モンスターが発生しない地域があるならば、国民全員をそこに移住させればいいでしょう?なにも無理にモンスターと戦わなくてもいいんじゃないですか?』
『そういった地域は稀に発生したと考えても良いでしょう。それくらいにまだ例がなく、その範囲も非常に狭いものです。また、その地区の防衛にあたる隊員がそもそも足りていないのが現実です』
質問した記者は納得しないようだったが、質問する権利が別の記者に振られたので、渋々座ったようだった。
『MDUの募集についての質問です。そのMDUに入隊する際、まさか全員が入隊できるわけではないのですよね?どういった基準で隊員に選ばれるか教えていただくことは可能でしょうか?』
『ええ、もちろんです。一次の書類選考を終えたのち、後日になりますが面接と体力測定を行う予定です。MDUについての応募ですが今日から三日後の深夜0時までとなっておりますので、早めのご応募よろしくお願いいたします。』
その後は月に支給される金額が多すぎるだの一般人に銃を持たせるのは危ないだのくだらない質問ばかりだったので早崎さんはテレビを消してしまった。
「まあ、詳しいことはまた夜のニュース番組でも放送されるだろう。それよりSNSの反応はどうだい?」
「入隊への反応はそれなりですかね。月に50万円支給されるってことに惹かれている人たちが多いように見えます。ただ例の安全地帯が公開されたことによって結構荒れてますよ。そんなのがあるのに今まで隠していたのかとか国の偉い奴はそこにすでに移住しているんじゃないかとか」
「うーん、安全地帯についてはその通りなんだけどね。国民にとって政治家の考えることなんてお見通しなんだね」
早崎さんは苦笑いしながらそう言った。
しかし、今の会見を見て入隊したいという人はいるのだろうか。金に目が眩んだ人がたくさん来そうな気がして嫌だな。
「ふう、あとは三日後の応募締め切りまで待つだけだね。ただ入隊希望者の二次選考に問題があって、どうやって人を集めるかってところなんだよね。選考場所は日本各地にある駐屯地で行う予定なんだけど、そこまで自分達で来られない人の方が多いだろう?だから自衛隊がバスを護衛しつつ移動することになるんだけど、入隊希望者が多すぎるとその分選考に時間が掛かってしまうからね……」
「3週間後に間に合わなかったら元も子もないですよね」
たしかに、俺たちは店長の車で駐屯地に来たのだが、すでに戦える俺と店長がいたからその行動ができるわけで、戦闘能力のない一般人に長距離の移動を強制させるわけにもいかないよな……。
「とりあえず、会見も見終わったことだし今日はゆっくり休んでくれ。午前中の討伐は長時間だったから疲れただろう?」
まあ私が朝指示したんだけどねと早崎さんは笑いながら言っていた。
この人もしかして意外とドSなんじゃないだろうか……。もちろんそんなこと本人には言えないが。
俺は早崎さんに挨拶して司令室を後にした。とりあえず自分の部屋に戻りたい。疲れて死にそうだ。
俺は疲労に耐えられずふらふらと歩きながら、宿舎へと戻るのであった。
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