第13話
早崎さんがジムを出て行ったあと、俺と店長は部屋に戻ることにした。
「店長、討伐隊の結成早まりそうですね」
部屋に戻る途中、俺は店長にそんな話を振った。
「そりゃそうだろう。あと3週間なんだ。そのルーチェって神様ももう少し先にしてくれればいいのによ。ちょっと急ぎすぎなんだよな」
「なんか上の神様に怒られてるみたいだったんで焦ってるんじゃないですか?神様ってもっと堅物なイメージがあったんですけど、まったくイメージと違いましたね」
上司に怒られる神様なんて誰がイメージするだろうか。
「それにしても森林を増やすためにモンスター発生って正直意味がわからないな。神様の力かなんかで棚でも巻いてくれればいいのにな」
「まあそれをやっても増えた森林がまた伐採されるだけですからね。森林が減るとモンスターが出るみたいな噂ができた方が、この先神様も楽なんじゃないですか?」
俺たちは神様の立場にも同情しつつ、少し早かったが食堂に向かうことにした。
◇
「今日は小橋と栞ちゃんはいないですね」
「そうだな、まだ寝ているんじゃないか?」
まあ今日からあの2人にも仕事が与えられたことだし、ゆっくりできるのも今日までかもしれないな。
朝食を食べていると、昨日早崎さんからもらった隊服を着た隊員が食事を持ってこちらに近づいてきた。
「松藤さん、おはようございます。討伐隊の新庄です。今日は早崎司令が来られなくなったみたいなので、代わりに僕が色々案内しますね」
そう言って新庄さんは俺の横に座った。
新庄はかなり若めの印象で、俺と同年代か少し上くらいに見えた。
店長の今日の仕事は武器の手入れなので、食事を終えると他の隊員に案内され食堂を出て行ってしまった。
「今日はまた演習場ですか?」
「そうですね。今日は討伐隊の隊員がスキルアップするのを松藤さんにはサポートしてもらいます。連日申し訳ないですがよろしくお願いします」
俺が朝食を食べ終わる頃には、新庄さんもすでに食べ終えていた。自衛隊員っていうのはみんな早食いなのだろうか。
「松藤さんも部屋に戻って準備をしましょう。隊服に着替えて、自分の武器を用意してください」
俺は新庄さんにそう言われたので、一旦自分の部屋に戻って討伐の準備をすることになった。
◇
部屋に戻り、隊服を着てみるがやはりその派手さには流石に慣れることはなかった。
「やっぱり派手すぎるよな……。せめて色が黒っぽい方が良かったんじゃないか?」
白っていうのも汚れが目立ちそうだし、洗濯が大変そうだな。
「松藤さん、入ってもいいですか?」
俺を迎えに来た新庄さんが、部屋の外から声をかけてきた。
「ええ、どうぞ」
「失礼します」
新庄さんが部屋に入ってくると、その手には大きな段ボールを抱えていた。
「よいしょっと……。隊服の予備はここに置かせてもらいますね」
新庄さんはそういうと段ボールを床に置いた。相当重たそうな大きな段ボールには、隊服の予備がたくさん入っていた。
「新庄さんはこの隊服気に入ってるんですか?」
「そうですね、騎士みたいな服でかっこいいと思います。ファンタジーアニメとか見たことないですか?僕が好きなアニメの主人公が着ている服にそっくりなのでお気に入りです!」
まさか隊服を気に入っている人がいるとは思わなかった。早崎さんも気に入っていたし、もしかして俺の感性が悪いのか?
あまりこの隊服を気に入っている人の前でとやかくいう必要もないので、話を切り上げて俺と新庄さんは討伐隊の倉庫へ向かうことにした。
「ところで新庄さんっておいくつなんですか?かなりお若く見えるんですけど」
「今年で24になります。松藤さんとあまり変わりませんよ」
2歳年上か。ん?ところでなんで俺の歳知ってるの?自己紹介のとき何歳とかって言ってない気がするんだけど。
「あの、俺の年齢って言いましたっけ?」
「早崎司令に聞きましたよ。身分証を見せたりしませんでした?」
「ああ、言われてみれば」
昨日駐屯地に来てから早崎さんに身分証を見せた気がする。その時は特に気にしなかったが、色々控えられていたのかもしれないな。
まあ、俺の個人情報なんて見られて困るものもないからな。
俺と新庄さんは3分ほどで討伐隊の倉庫に着いた。
「ところで、討伐隊専用の建物みたいなものってないんですか?この倉庫も特に討伐隊に必要なものが置いてあるなんて思えませんし」
「あはは、バレました?1週間前に急遽結成された討伐隊なので、あまり使われていない倉庫が討伐隊に割り当てられたんです。今はただの集合場所に使うだけなんですけどね」
急ごしらえの舞台とはいえ、もう少しましな建物はなかったのだろうか。昨日は気が付かなかったが、あちこちボロボロになっている。
倉庫の中ではすでに、他の隊員が準備を終えて待っていたようだった。あれ?もしかして俺遅刻か?
「もしかして、俺待ちでした?」
「いえ、本来の集合時間より前にみんな集まれましたよ。早崎司令から集合時間聞いていませんでした?」
「それならよかったです。すぐ出発しますか?」
「そうですね、全員揃いましたし。少し早いですが、出発してしまいましょうか」
こうして、俺は昨日も乗った幌付きのトラックに乗り込み、駐屯地に来て2回目のモンスター討伐に出かけるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます