第11話

 宿舎に戻った俺と店長は、消灯時間の10時までそれぞれ好きなことをして過ごすことにした。

 俺がベッドで横になって読書をしていると店長が急に質問してきた。


「松藤、お前はあの討伐隊ってやつに入ろうと思ったか?」


「入ろうっていうか、もう入ってるみたいなものですからね。討伐隊の隊服ももらっちゃいましたし」


「まあ、それもそうか。俺も討伐隊に入ろうと思ってよ。お前が行くなら楽しそうだな」


 店長は笑って俺にそう言った。


「でも店長、別に入ってもメリットないんじゃないですか?独身でしょう?」


「今はな。10年くらい前に離婚したんだよ。一応子供もいるし、年に何回かは会いにも行ってる。元奥さんにも子供にも安全なところで暮らして欲しいしな」

 

 店長に子供がいたなんて初耳だった。こんな熊みたいな人が結婚していたなんて、人って見た目じゃないんだな。まあ離婚した理由なんか聞かなくてもわかるけど。


「まあそういう理由なら討伐隊に入るのも頷けますね。そういえば討伐隊の募集っていつなんですかね?早崎さんは特に何も言ってなかった気がしますけど」


「おそらく近いうちじゃないか?お前がもらった隊服だって新しい討伐隊のものなんだろう。まあ明日にでも聞いてみろよ」


 俺の店長はそこで話を終えて、消灯時間が来ると翌日に備えてゆっくり体を休めることにした。




 ふと、目を開けた俺はその光景に頭が追いつかなかった。


「ここ、どこ?」


 そこは周りに何もない、白い空間だった。

 俺は、宿舎のベッドで寝ていたはずだったが、目を覚ますとこのような場所にいた。

 全く訳がわからない。なぜこんな場所にいるかいくら考えてもわからなかった。

 夢、なのか?


「ずいぶん驚いているね、松藤省吾くん」


 俺がこの状況に困惑していると、後ろから急に声をかけられた。

 振り返るとそこには水色の髪、水色の眼をした女の子が微笑んで手を振っていた。

 おかしいな、さっきまで誰もいなかったはずなのに。


「初めまして、松藤省吾くん。私はルーチェ。君の世界で言う神様ってやつに当たるのかな。すごい力を持ってる人なんだぞ、えへん!」


 ルーチェと名乗った女の子はそんなことを言って胸を張る。無い胸張って恥ずかしく無いのだろうか。

 俺がそう思った瞬間、全身に電撃が走ったようにビリッとした痛みが襲ってきた。


「……余計なことは考えない方がいいよ?君が考えることわかっちゃうんだから」


 にっこりと笑顔を見せてそう言ったルーチェだったが、目は全く笑っていなかった。怖えよこの女。人の心が読めるとかチートかよ。


「睡眠中の君の意識をこの空間に呼ばせてもらったんだ。ちなみにこの声に覚えはないかい?『鍛えて、生き残れ』」


 ルーチェが言ったその言葉で、俺は思い出した。あの大厄災が始まった日に聞いた言葉。その時に聞いた声にそっくりだった。


「ちょっとカッコつけて言ってみたんだけど、やっぱり私のキャラには合わないよねー。そうそう、君をここに呼んだのには色々理由があるんだけど、まずは人類で初めてのスキルアップした子だからかな。前から少し気になってたんだー」


「それはどうも」


 しかし、どうもこの人がいわゆる神様ってやつだとして、なぜ人類を減らすようなことをしているのだろうか。ルーチェが神様だとしても、モンスターを発生させて人類を襲わせるその行動はあまり理解ができない。


「うーん?反応薄いね、まあいいや。君の疑問に答えようか。君たち人類が生活している地球があるだろう?あまりにも自然破壊が進みすぎて上の神様、上司って言えばわかりやすいかな?その上司に怒られちゃったんだ。あまりにも自然が少なすぎるってね。まあその原因は君たち人類にあるから、少しその人数を減らせって言われてね。病気とかで減らすのもできるんだけど、見ててもあまり楽しくないから今回はモンスターを発生させてみました!」


 ルーチェは再びえっへん!といった態度でそう言った。


「自然破壊については反論できないが、俺らがモンスターを倒すと力が上がるのは知っていたんだろう?俺たちが生き残ってどうするんだよ」


 ルーチェの行動には矛盾が多すぎると感じた。それこそルーチェが言ったように病気を蔓延させて人口を減らすってこともできたはずだが。


「いやあ、それなんだけどさ。人類が多いほど評価されやすいからただ単に減らすのはちょっとやりたくなかったんだよねー。ちなみにあのモンスターたちって倒した後どうなるか知ってる?」


「いや、知らないな」


 ホーンラビットを軽トラに積んでコンビニに戻った次の日には駐屯地に向かったから結局あのホーンラビットもそのまま置いてきてしまった。


「実はモンスターが死んで3日かそこらで土に還ることになってるんだけど、そこに植物が生えるんだ。君たち人類は生き残ろうとしてモンスターをたくさん倒すだろう?モンスターがたくさん倒されるとその分自然も回復する。我ながらいい案だなっておもったんだけどどうだろう?」


「植物が生えるって、多分誰も気がついていないんじゃないか?」


 実際、今日モンスター討伐に行った演習場も今思えば若干雑草が多いな程度の量しかなかった気がする。


「それは当然さ、今はお試し期間みたいなものだからね。モンスターも弱いし生える植物も短い雑草ばっかりなんだ」


「お試し期間?」


「そうそう、今から3週間後が本番だからね。3週間後からはドラゴンとか恐竜とかミノタウロスとかたくさん出す予定だからね。今のうちに鍛えてもらわないと人類滅んじゃうし」


「は?」


 当然のようにそう言ったルーチェの言葉に、俺の思考が完全停止してしまうのも無理はなかった。

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