第10話
俺と店長は武器の手入れを終え、夕食を食べるため食堂へ向かうことにした。食堂にはすでに多くの自衛隊員が集まっており、その中に小橋と栞ちゃんも席についていた。
俺たちも夕食を受け取り、小橋たちの隣の席に座ることにした。
「あら松藤くん、お疲れ様。今日はモンスター討伐に行ったんでしょ?」
「ああ、そうだよ。今日は討伐隊の人たちに俺たちの戦い方を見てもらう形だったから、お試しみたいなものだな。そういう小橋たちは何してたんだ?」
「私と栞ちゃんは駐屯地にあるジムに行って運動してきたわ。特にやることもないし、使ってもいいって許可をもらえたから」
「私たちだけ楽しんじゃって松藤さんには申し訳ないですけど……」
「それは仕方ないさ。元はと言えば店長が悪いんだしな」
俺がそう言っても、店長は知らん振りして夕食を食べ続けていた。
俺たちが夕食を食べ終わる頃になると、早崎さんが俺たちを呼びにきた。
「みんな夕食は食べ終わったかな?明日からの予定について少し話したいことがあったんだけど、今からでもいいかい?」
特に断る理由もないので早崎さんの申し出を承諾し、俺たちは朝に通された客間のような部屋に再び案内された。
「明日からの予定なんだけど、まず小橋さんと後藤さん。2人にはちょっと手伝って欲しいことがあるんだ。」
「手伝って欲しいこと、ですか?」
急にそんなことを言われるものだから小橋と栞ちゃんは困惑した表情をしていた。
「スキルアップするためには、やっぱり武器が必要だよね?その武器を手入れして欲しいんだ。人手が足りなくて困っていたんだけど、どうだろう?手を貸してくれるかな?」
「でも武器の手入れなんて全くやったことありませんよ?私たちでも大丈夫なものなのでしょうか?」
小橋が早崎さんにそう言った。
たしかに、初めてだとかなり不安なのだろう。俺も先程、店長に教えてもらいながらナイフの手入れをしたが、かなりコツがいるようで、店長に何度も怒られながらなんとか研ぎ終わることができた。
「ああ、それは大丈夫。宮地にも手入れの方に回ってもらうから、彼に教えてもらってくれ」
「え、店長がそっちに行くってことは俺は1人ですか?」
仲間ハズレ感が否めないんだけど?
「ああ、松藤くんは討伐隊と一緒にスキルアップに付き合ってもらいたいんだ。そんな松藤くんにプレゼントがあってね!」
早崎さんはそう言って俺に紙袋を手渡してきた。
「これは……服?」
「そうそう!新しい討伐隊の隊服なんだけどさ!スキルアップっていう新しい発見もあったから新調することになったんだ!服の上からでもいいから着てみてよ!」
俺は今着ている服の上から、その隊服を着てみた。隊服は白を基調としたナポレオンジャケットのようなものだった。よくあるナポレオンジャケットは金糸で装飾されているものだが、隊服は赤い糸で装飾されていた。縦2列に並んだボタンは金色だ。ズボンも白を基調としたのスラックスのようなものだったが、ジャケットに比べるとシンプルなものだった。
「なんというか、その、派手すぎませんか?」
「いいじゃないか、目立って格好いいだろう?スキルアップは人類の希望になるはずだ。だからこそ、それを表すように明るい隊服が良かったんだよ」
早崎さんはそう言ったが、あまり納得はできない。派手すぎてかなり恥ずかしい。
「アハハハ!松藤くん、服に負けてるね!」
小橋は俺の隊服姿を見て腹を抱えて笑っていた。こいつはいつもいつも俺をイラつかせる天才だな!
「うるせえほっとけ!」
「まあまあ2人とも。それに討伐隊が活躍していけば、隊服も人気になりそうじゃない?」
「どうですかね。それより、隊服が人気になるって……このスキルアップの件については世間に知らせるんですか?」
「ああ、そのつもりだけどなにかあった?」
やっぱりか。それだと少し問題がある。
「何個か問題があります。まず一つは自分の力でモンスターを討伐できると考えるバカが無謀にモンスターに向かって死んでいく未来しか見えません。俺が最初に倒したのもホーンラビットでしたし、比較的弱い方だったからなんとかなったって感じですけど、未だにモンスターの能力がわかっていないこともありますし……」
「それは一つ考えがあってね。モンスターを討伐する組織、今の自衛隊にある討伐隊を新たに作っちゃおうって話が元々国会で出てたんだ。まだ国の方にスキルアップの件は報告していないんだけど、その組織に所属する人たちにだけスキルアップについて教えればそう言った事態も防げるはずさ」
そのモンスターを討伐する組織っていうのは初耳だった。今自衛隊にある討伐隊みたいなものだろうか。
「そもそも、その組織はどうやって人を集めるんですか?あまり自分からモンスターを倒したいって人は集まらない気がしますけど」
「それについては案が出ている。北海道の一部の地方にはあの黒い渦が全く出ない地域があるんだ。世間にはまだ公表していないんだけどね。今その地域は自衛隊によってモンスターが入ってこないように防衛されてるんだけど、その地域の居住権を優先的に与えるって案なんだ。家族に安全な場所で暮らして欲しいって人は一定数いるだろうからね」
「なるほど、家族の命を餌にっていう話ですか」
こんな世の中になってしまっても、人の足元を見るようなやつが政治家にもいるってことか。この国も救いようがないもんだな。
「あまり大きな声では言えないけど、すでに国の要人の家族はその地域に移住しているし、だからこそその地域のことは公開していないのだろう。政治家っていうのは自分のことしか考えていないからね」
「ずいぶんひどい話ですね。世間にバレたら暴動が起きそうです……」
栞ちゃんも政治家が許せない様子でそう言った。もちろんここにいるみんな親なり兄弟なり、大切な家族がいる。現在家族の安全を政治家や国の要人だけが守られていると思うと許せない話だった。
「明日には新たな討伐隊についての説明がテレビで流れるはずだから見てみるといいかもね。それじゃ話はこんなところかな。明日からみんな頑張ってね!」
俺たちは早崎さんの説明が終わり、部屋から出た。しかし、先ほどの安全な地域の話を聞いてから、みんな考えることがあったのだろう。特に話もせずに、俺たちはそれぞれの宿舎へ戻るのだった。
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