第9話
俺と店長がモンスター討伐を始めて30分。すでに何十体と倒したのだが、演習場に溢れるモンスターは倒しても倒しても減る様子はなかった。
「どんだけいるんだよ。全然減らないじゃん」
「おーい松藤くん!そろそろ引き上げよう!」
倒しても倒しても減らないモンスターに嫌気が差してきた頃、早崎さんに戻るように伝えられた。
「お疲れ様。やっぱりこのモンスターの数を2人だけだって討伐するとなると、流石に人手が足りないかもね」
「そうですね。かなり疲れました。いつもはもっと簡単に討伐できるんですよね?」
「まあ正直なところ、銃を使った方が圧倒的に速いのは事実だね。でも本来人が出せない力を出すことができるっていうのは、この先、もう少し研究していかないといけないんだけど、やっぱりコストが下げられるってのはすごいメリットだよ。みんながスキルアップできるのだとしたら、その人数分の剣だけ用意すればいいからね」
まあ、人数分の銃を用意するのもやはりお金がかかるもんな。俺みたいな木刀でいいんだったら圧倒的に討伐にかかるコストは低いだろう。
俺が早崎さんと話していると、少し遠くにいた店長も戻ってきた。
「いやあ、こりゃいい運動になるな!自分の体が自分のじゃないみたいで、少し変な感じもするが今よりもさらにスキルアップが見込めるんだったら楽しみだな!」
店長はモンスター討伐から帰ってくるなりそんなことを言っていた。若干バトルジャンキーのような雰囲気が出てきたが大丈夫だろうか?
「今日はとりあえずここで切り上げて駐屯地に戻ろうか。帰って色々調べなきゃ行けないこともあるからね」
俺たちは演習まできたトラックに再び乗り込み、駐屯地への帰路につくのであった。
◇
「明日からみんなにはこの2人のみたいにスキルアップを図ってもらう」
駐屯地に着いて討伐隊の倉庫に戻るなり、早崎さんは隊員にそう言った。
「もちろん、いきなり全員って訳にもいかないからスキルアップに挑戦するチームと、後ろで万が一の時にサポートするチームに分けようと思う。チームは明日発表するから、今日はゆっくり休んでくれ」
今日の討伐はこれで終了のようで、隊員たちはそれぞれ宿舎に戻っていった。
「俺たちも戻っていいですか?」
「いや、少し気になることがあってね。少し付き合ってもらいたいんだ」
俺と店長も宿舎に戻ろうとしたが早崎さんは俺たちを引き止めた。
「気になることってなんだよ?」
「2人とも一応刀って部類の武器を使っているだろう?まあ松藤くんのは木刀だけどね。扱う武器によって何か変わらないかなって思ったから調べてみたいんだ」
「じゃあ松藤。あとは頼んだ!」
そう言って店長は倉庫から逃げるように出ていってしまった。
「まったく宮地は相変わらず都合が悪いとすぐいなくなるな……。あとで見かけたらきつく言っておくよ」
「よろしくお願いします」
「松藤くんにはこれを使って欲しいんだよね」
早崎さんは古びた木箱の中からある武器を取り出した。
「これは……槍、ですか?」
「そうそう。この前駐屯地の物置を整理してたらそれが出てきたからなんとか有効活用したいと思ってたんだよね。ちょっと振ってみてくれるかい?」
俺は槍を振ってみたり、突くような動作をしてみたが。
「……木刀を振る時のような力はないですね」
「うーん、なんでだろう。使う武器によってスキルアップの効果が現れないのかな?」
「その可能性は高いですね」
やはり、スキルアップはその武器を扱う熟練度のようなものなのかもしれない。俺は今まで一度も槍なんて使わなかったから、一般的な力でしか槍を扱えないのだろう。
「でも、槍を使ってもスキルアップが望めるのだとしたら、選べる武器の幅も広がりますね」
「そうだね。明日からうちの隊員には槍を使って見てもらうかな。今日はもう宿舎に戻っていいよ、お疲れ様」
俺は宿舎に戻る許可を得たので、倉庫を出ることにした。
宿舎に戻る途中、俺はスキルアップについて色々考えていた。
まず、使う武器についてだ。俺は木刀とサバイバルナイフで戦っているが、メインは木刀を使う。サバイバルナイフは最初のうちにとどめを刺すために使っていたが、今では木刀で仕留められるようになっていた。
ただ、俺の木刀は分類としてはどれになるか全くわからない。木の刀だから、一応剣の部類に入るのだろうか。これは店長に使ってもらえば判明しそうだな。
あとスキルアップの速度についてだが、最初は驚くほどの速度で力が増えていくのが実感できていたが、最近はあまり変わらない気がしていた。スキルアップはしているのかもしれないが、あまり実感が湧かないほどには緩やかになったのかもしれない。
明日から討伐隊の隊員たちのスキルアップでどれくらい力が向上するか楽しみだな。
俺は宿舎に着くと自分の部屋でくつろぐことにした。
部屋に着くと店長が日本刀の手入れをしている最中だった。
「店長なんで逃げたんですか?早崎さんも呆れてましたよ?」
「だって多分つまらなさそうだなって思ったからよ。刀の手入れもしたかったしな」
「まったく……。ところで店長、日本刀の手入れなんて自分でできるんですね」
日本刀の手入れなんて見たことはないが、慣れた手つきで手入れをしている店長を見て不思議に思った。
「爺さんに教わったんだ。普通は刀に塗ってある古い油を拭き取って新しい油を塗り込むんだ。もしそのままだったら刀も錆びてしまうからな」
「へえ、そういうものなんですね」
俺の木刀なんか手入れなんかいらないけどな。ただ、いつポキッと折れてしまうかは不安ではあるが。
「松藤、サバイバルナイフを見せてみろ」
店長にそう言われたので、ナイフを手渡すと店長はため息を漏らした。
「はあ、やっぱりな。お前最近これ使ってないだろう?なのに手入れもしてないから刃の部分が錆びてきている。これは研ぎ直しになるぞ」
「本当ですね。すみません、いただいたものなのに」
「まあいいや。お前も刃物の研ぎ方くらい覚えておいたほうがいいだろうし、教えてやる」
それから俺は店長にナイフの研ぎ方を教えてもらうこととなったが、夕食の時間までになんとか終わらせることができた。
自分で手入れするとこのサバイバルナイフに愛着が湧き、明日からは木刀だけじゃなくナイフももう少し使ってあげようと思った。
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