第8話

 俺たちが駐屯地に着いたのはコンビニを出てから5時間近く経った頃だった。


 ゲートのようなところで、銃を持った自衛官が立っていた。

 俺たちの乗る車はそのゲートの手前で止められ、銃を持った自衛官が店長に話しかけた。


「あの、どう言った用事でしょうか?」


「今日は友人の早崎ってやつにこの駐屯地に呼ばれてきたんだが……」


「失礼ですがお名前を伺ってもよろしいですか?」


「宮地だ。宮地義弘」


 店長がそう答えると、その自衛官は確認しにいったようで少し待たされることになった。


「店長本当にこの駐屯地で合ってるんですか?」


「間違いない。携帯に送られてきた住所もここで合っている」


 2分ほど待っていると、先ほどの自衛官が戻ってきた。


「確認が取れました。ここをまっすぐ進んで突き当たりを左に曲がりますと、早崎がお迎えにあがると思いますので」


「わかった。ありがとう」


 するとゲートが開かれて、俺たちは駐屯地に入ることができた。


「私すごい緊張しました」


「ああ、その気持ちわかるかも。空港の手荷物検査なんかも似たような緊張感があるわよね」


 小橋と栞ちゃんはそんなことを話していた。この2人はほぼ遊びに来たと言っても過言ではないくらいなので、こういったテンションも理解はできる。だが、俺は処刑台に立たされるような気持ちがしてきて、先ほどから冷や汗が止まらない。今から何をやらされるのかも検討がつかないし。


「なんだ松藤、緊張してるのか」


「元はと言えば店長のせいでしょう!このことは絶対に許さないですからね、覚えておいてください!」


 駐屯地を移動すると、少し先に3人ほどの自衛官が立っているのが見えた。


「おそらくあれだな」


 店長はその3人が立つ場所まで近づき車を停めた。


「遠くまで悪いな、宮地」


 そう言って話しかけてきたのは、店長のようにかなりガタイのいい、眼鏡をかけた男だった。おそらくこの人が店長の友人なのだろう。


「この助手席に座ってるのが俺が昨日電話で話したやつだ」


「……初めまして、松藤です」


 俺の緊張感が顔にも出ていたのだろう。店長の友人は苦笑いしていた。


「初めまして、早崎康二です。今日はわざわざ遠いところまでありがとう。君のその様子だと、宮地はまた色々勝手に決めたんだね」


「そうなんです」


 どうやらこちらの状況も全てお見通しのようだった。


「とりあえず長旅お疲れ様。荷物を持って付いてきてくれるかな。いろいろ紹介しなきゃいけないし」


 俺たちは積んできた荷物をまとめて、早崎さんについていった。




「まあとりあえず座って座って」


 俺たちが通された部屋はソファーとテーブルが置いてある、簡素な客間のような部屋だった。


「改めて自己紹介させてもらうね。この駐屯地の駐屯地司令……まあ一番上の位って言えばわかるかな?早崎康二と申します。この度はご足労かけて本当に申し訳ない」


 そう言って早崎さんは頭を下げた。

 それよりも気になって仕方がないことが一つ。


「店長?早崎さんが一番偉い人なんて聞いてないんですけど?」


「ああ、言ってないからな」


 またこの人は!人を怒らせて何が楽しいんだよ!自分勝手にもほどがあるよ全く!


「だって店長、お偉いさんがスキルアップについて気になるだとかなんとかって言ってませんでした?」


「そのお偉いさんなら目の前にいるじゃないか」


 そうだろうよ!そんなことだと思ったよ!あんたって人は行動力半端ないもんな!早崎さんに気になるだとかなんとかって言われただけでもすぐ駆けつけそうだもん。


「まったく宮地も少しは説明くらいしたらどうなんだ?可哀想じゃないか……。まあともかく、今日からは少しここで生活してもらうことになるんだけど、まずそちらのお嬢さん2人は女子寮で寝泊まりしてもらうことになるよ。あとで部下に案内させるので分からないことがあれば質問してね。そして松藤くんと宮地。2人にはこれから毎日、モンスター討伐に向かってもらう」


「やっぱりそうなりますか……」


 そうなるだろうとは考えていた。おそらくそのスキルアップの研究がしたいのだろう。これが本当であれば、モンスターとの闘い方にも少し幅ができるのだろう。


「そうは言っても危険な目にはなるべく会わないようにはするさ。とりあえず、昼食を食べ終えた頃にはまた迎えに行くからよろしくね」


 そして俺たちは男女に分かれて、しばらく使わせてもらう部屋の説明などを受け、その後食堂で昼食を食べることになった。


「ところでなんで店長もモンスター討伐することになってるんですか?」


 俺は昼食をとりながら、ずっと気になっていたことを店長に質問した。


「楽しそうだから、だな。こんな世の中になってしまったら店開けとく理由もないしな」


「そんな遊びみたいな感覚でよくモンスター討伐に行けますよね……」


「まあ実験台はたくさんいた方がいいだろってことを早崎に伝えたらすぐに了承してもらえたからな。今日から楽しいぞ」


 店長はそんなことを言ってあっという間に完食してしまった。俺は今から始まるモンスター討伐に不安が大きくなる一方で、なかなか箸が進まなかった。小橋はおかわりまでもらっていたが。




 昼食を食べ終え、少し休憩を取っているところで早崎さんが迎えにきた。


「そろそろ行こうか。まず私たちの討伐隊を紹介させてもらうから付いてきてね」


 そういって建物を出て歩くこと3分ほど。

 大きな倉庫の中に案内された俺たちは30人程の自衛官が整列している前に立たされた。


「みんな紹介するよ。こちらが松藤くんと私の友人の宮地だ。今日はこの2人の護衛を頼むよ。2人とも武器は持ってきているね?よし、それじゃ早速行こうか」


 そして俺たちは幌付きのトラックに隊員たちと一緒に乗り込み、近くの演習場まで移動することになった。

 最近まで使っていた演習場は、現在黒い渦が発生してモンスターだらけになってしまっているらしい。今日はそれの討伐に行くという話だった。


 トラックに揺られること10分ほど。

 演習場に到着し、トラックから降りた俺はモンスターの数に驚くことになる。


「いやいや多すぎでしょう」


 演習場には見えるだけでも30体以上のモンスターがいた。今見えるのは演習場の一部だそうで、敷地はこれの10倍はあるらしい。


「とりあえず、松藤くんには一番手前のホーンラビットを狩ってもらおうかな。よろしくね」


「……はあ、わかりました」


 もう逃げられないな。これから毎日こんな生活が始まるのかと思うと気分が重くなるところだが、今更それをどうこう言ったって何も変わらないからな。やるしかないか。


「それじゃ行きます」


 俺はホーンラビットに向かって走り出した。今回は助走をつけてホーンラビットのツノの下側から薙ぎ払うイメージでやってみるか。

 木刀を構えて強く足を踏み込んだ次の瞬間。


「え?」


 ホーンラビットまでの距離は20メートルはあったはずだが、それがもうすでに5メートルほど前まで迫っていた。

 俺は慌てて木刀を振り上げ、ホーンラビットを空中に浮かせることになんとか成功した。

 地面に叩きつけられた直後に、再び木刀で頭を攻撃すると、そのままホーンラビットは動かなくなった。


「もう自分でも力加減がわからないな……。色々調整しないとダメだな」


 俺が自己分析をして早崎さんの方へ振り返ると、早崎さんを含め隊員の人たちがポカーンとした表情を浮かべていた。


「あの?今ので大丈夫でした?」


 俺がそう質問すると、早崎さんは我に帰ったように表情を取り戻した。


「ああ、いや。なんていうか、凄すぎるね、君の剣術は」


「聞いているかとは思いますが、これが俺たちが偶然発見したスキルアップによる剣術です」


 俺がそう答えると隊員たちもざわめき出した。


「駐屯地司令、発言よろしいでしょうか」


「ああ、いいよ」


 男性の隊員が早崎さんに質問する。


「これがもし、我々にもできるようになれば弾薬の節約にもなりますし、非常に魅力的だと思います。おそらく殲滅速度は銃火器には勝てないでしょうが、それを凌駕するメリットは計り知れないでしょう」


「確かにそうだね。私も同じことを考えていたよ。とりあえず、松藤くんはもう少し討伐を続けてくれるかい?次からは宮地も討伐に加わる」


「わかりました」


 こうして俺は木刀、店長は日本刀を手に持ち、モンスターの討伐を本格的にスタートさせた。

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