第7話
昨日、早めに就寝した俺たちは朝の5時には準備を終え、店長の友人がいるという駐屯地に向かおうとしていた。
「お前ら忘れ物はないか?おそらくだがしばらく帰ってこれないからな」
「大丈夫です。着替えもたくさん持ちましたし」
俺は昨日のうちにすぐ近くの自宅に行ってたくさんの衣類を持ってきた。小橋と栞ちゃんは着る服がなかったので、今までは俺の服を洗濯しつつ着てもらっていた。さすがに男の服は抵抗があるのかと思ったら、2人とも特に気にする様子もなく着てくれていたので非常に助かった。ただ流石に洗濯が間に合わなくなってきたので、この機会にたくさん持ってきたわけだ。
「店長さん、しばらく帰ってこられないって、実際どれくらいの長さになりそうなんですか?」
「それは俺にも分からないんだ。まあ松藤の頑張り次第ってところかもな」
店長はニヤニヤしながらこちらを見てそう言った。
どうして俺の周りにはこんなに自分勝手な人しか集まらないんだろう。店長と小橋と比べたら栞ちゃんが天使にしか見えないな。
「よし、それじゃ駐屯地に向かうとするか。途中休憩は取らないでまっすぐ向かうからな」
そう言って店長は外に向かおうとするが。
「あれ?そういえば店長の車って軽トラックじゃないですか。4人も乗れないですよね?
」
「ああ、あれはコンビニの配達用で俺の自家用車は別の車なんだ」
なるほど。さすがに荷台に乗れなんて言われたらどうしようと不安だったが、それなら一安心だ。
外に出ると、家族連れが持っていそうなミニバンが停まっていた。
「店長独身なのになんでこんな車乗ってるんですか?」
「余計なお世話だ。俺はキャンプに行くからたくさん物が積める方がいいんだよ。1人だったら車中泊もできるしな」
たしかにキャンプに行くのならば、使う道
具も多いから大きい車の方がいいんだな。
店長の車に乗り込むと3列目のシートは倒して、そこに大量の荷物を積んでいた。中にはキャンプ用の道具があるように見えた。おそらく普段から積みっぱなしなのだろう。
「さて、そろそろ行くとするか」
俺たちは片道4時間半ほどかかる駐屯地に向けて出発した。
◇
駐屯地へ出発してからおよそ2時間が経った。ここまでの道中は特に大きな問題もなくそれなりに順調に移動できていた。
だが、移動中にも関わらず店長がモンスター見つけるたびに近づこうとして、引き止めるのが大変だった。俺だけがスキルアップしているのが、どうも許せなかったらしく俺も鍛えたいなどと言っていた。
出発して30分ほどまではホーンラビットを見つけるたびに店長が倒しに行く、ということをやっていたのだが、あまりにも時間がかかりすぎるため、それからは止まらずに駐屯地へ向かっていた。
「まったく、店長も子供じゃないんですから、時と場合を考えてください。今はなによりも駐屯地に早く着くことが目的だったんでしょう?」
「いやあ、俺もスキルアップが実感できたらやめられなくなっちまったよ、ガハハハ!」
店長は笑いながらそんなことを言っていた。ガハハハじゃねえよ!自衛隊のお偉いさんが怒ってたらどうするんだよ!
「店長さんっていつもこうなんですか?」
栞ちゃんがこの自由奔放な肉ダルマの行動が気になったのか、俺に質問してきた。
「いつもはこんなにひどくはないが、まあ基本は自由きままに生きているな。キャンプに行くから店番頼むって言って、3日は帰ってこないとかよくあるしな」
「それは、なんというか……」
ほら栞ちゃんも言葉に詰まってるじゃないか。
「店長はもう少し落ち着いたらどうなの?今回は松藤くんが主役なんだから早く着いてあげなさいよ」
小橋はかなり不機嫌そうな顔で店長にそう言った。ちなみに昨日の置いてけぼり事件から小橋は店長にタメ口を聞いている。店長はそのことについて何も言えないそうだ。女子大生の尻に敷かれるコンビニの店長っていかがなものかとは思うけどな。
そのとき、急に店長がブレーキを踏んで車を止めた。あまりにも急なブレーキでシートベルトが当たっていた部分がかなり圧迫された。
「店長危ないじゃないですか!」
「松藤、ちょっとあれ見ろよ」
店長が車前方を指差していた。
前を見ると、そこにはモンスターが数体で移動している最中だった。
だがそのモンスターは今まで見たものと全く違うものだった。しかしその存在は知らない人はいないだろう。かつて地球にも生息していたと言われる生物。今は化石になって博物館に飾られているはずなのだが。
「……恐竜なんてどうやって倒すんだよ」
俺たちの前には、トカゲのような顔をした二足歩行で歩く恐竜と思わしきモンスターが歩いていた。
ティラノサウルスのような大型の恐竜ではなく、2メートルほどの大きさの小型恐竜だった。
「今の世の中、こんなのがいても不思議じゃないよな」
「まあツノの生えたウサギやらゴブリンやらゲームの世界でしか見たこともない生物がたくさんいますからね……。恐竜がいても不思議ではないですけど」
しかし、恐竜のようなモンスターがいるって事はまさかこの小型の恐竜だけってわけにはいかないよな。もしかしたらそのうち大型恐竜にも出会ってしまうかもしれない。
そう思うと、昨日と今日でたくさん倒したホーンラビットなんてまだ可愛いものだ。
「そのうちドラゴンとか出てきたら嫌よね」
「それがフラグにならなきゃいいけどな!でも今はまだ大型のモンスターは発見されていないし、恐竜もこれくらいの小型のサイズならまだ自衛隊の力で抑えられるはずだ」
ドラゴンなんて出てきたら人類の手に負えないのではないだろうか。戦車とかで一斉攻撃するっていう手しか俺には思いつかない。
世界中のモンスターを見ても未だにそう言った大型モンスターは発見されていないので心配する必要はないのだが、もし今後そんなものが出てくるようになってしまったら、人類の滅亡の日も高くなるだろう。
「お、森に入っていったな。ようやく出発できる。あと2時間半はかかると思うから気長に待っていてくれ」
「早く着かないと後ろのお嬢様の機嫌がどんどん悪くなりますよ」
「うるさいわね!普通こんなに車の中にいることもないんだからストレスも溜まるわよ!」
小橋の機嫌がどんどん悪くなる一方だし、少し時間も押し気味なので、店長は今までよりも少しアクセルを強く踏み込んで、俺たちは先を急ぐことにした。
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