第6話

 店長が言い出した実験を終え、俺と店長は休憩室に戻った。

 そして、店長は俺たちに新たな仮説を思いついたと言い説明を始めた。


「まず、さっきまで言ってたレベルアップの件は半分あたりで半分ハズレだと思う」


「半分?どういうことですか」


 俺は店長の言うことが理解できず、すぐに質問した。


「とりあえず話を聞いてくれ。モンスターを倒すといわゆるゲームのレベルアップのように力が強くなっているのは間違いなさそうだ。だがそれは普段の筋力が上がっているわけじゃない考えたわけだ。おそらくだが、木刀なりサバイバルナイフなり、それらを使ってモンスターを攻撃したり倒したりすると、その武器を使う技術が上がっているんじゃないかっていうのが俺が考えた仮説だ」


「……つまりはレベルアップではなくて武器を扱う技術が上がっているってことですか?」


「おそらくな」


 店長の立てた仮説は確かに納得のいく物だった。たしかにゲームのレベルアップのように普段の力も上がってしまったら、それこそあちこちのものを壊してしまいそうだと考えていた。だが向上した力がいわゆるレベルアップではなく、武器を扱う技術の向上だとしたら。

 そう考えると俺が考えていた一つの疑問が解けることになる。


「自衛隊がその技術アップ、スキルアップとでも呼ぼうか。それに気がつかないのは、元々銃の威力が弾丸に込められている火薬で決まっているからじゃないか?だとしたら、それも説明がつく」


「あんなに毎日倒しているって聞くものね。そんな人たちが気が付かない方がおかしいし」


 小橋も俺の仮説に納得してくれた。

 店長の仮説がもし本当ならば、色々説明がつくことが出てきそうだな。


「でも、スキルアップが本当に起きてるとしても松藤さんはいきなり成長しすぎじゃないですか?数体倒しただけでそんな力が手に入るんだったら、自衛隊も軍隊もいらなくなりますよ」


 栞ちゃんは俺の成長スピードに少し疑問を持っていたようだった。まあ人間がこんなスピードで成長するわけもないからな。


「あとで自衛隊にいる友人にこのことを話してみるよ。もしかしたら、元の生活に戻れる日も近いかもな!」


 店長はガハハハと笑いながら休憩室を出ていった。

 だが、俺はひとつだけ解決していないことが非常に気になっていた。

 この大厄災と呼ばれる災害が始まった日。

 何者かが言っていた言葉。


『鍛えて、生き残れ』


 あの鍛えてという言葉が、もしこのスキルアップを指していたとするならば。

 そもそも、モンスターに襲われる人数も毎日自衛隊などが討伐してくれているおかげで減り続けている。自衛隊がいればなんとか人類は生き残れそうだと誰もが思っていることだろう。ならば、別に鍛える必要はないんじゃないか?

 そしてあの声の主は誰なのだろうか。人類全員に語りかけるなど、もはや人の仕業じゃない事は確かだが。

 

 この大厄災が始まったのは間違いなくあの時の声の主が起こしたものなのだろう。

 

 なぜ?何のために?

 

 なぜ鍛えさせる?


 あのモンスターはどこから来ている?


 なぜモンスターは倒しても半永久的に黒い渦から出てくる?

 

 そんな多くの疑問が俺の頭を埋め尽くした。


「ふう。今はそんなこと考えてる場合でもないか」


 おそらく、また明日から店長に連れ回される日々が来るのだろうと予想ができた。俺にホーンラビットを倒させる店長はかなり楽しそうだった。次は自分もなどと考えていそうだ。

 ホーンラビットを倒し続けた疲労を抜くためにも、俺は夕飯の時間まで少し仮眠を取ることにした。




「松藤さーん、起きてください」


「うーん??」


 誰かに起こされて、ゆっくりと目を開けるとそこには栞ちゃんが俺の顔を覗き込んでいた。


「おはようございます。まだ夜ですけどね。もう夕飯の時間だから起こしてこいって店長さんに言われたので起こしに来ました」


「わかった、すぐいくよ」


 俺がそう返事するなり、すぐに栞ちゃんは休憩室を出て行ってしまった。

 俺たちのご飯は、今のところ店にある冷凍食品やカップラーメンばかりだった。食事を提供してもらって文句はあまり言えないが、もう少し健康的な食事をしたいものだった。

 俺が休憩室を出て、店内へ向かうと店長が声をかけてきた。


「おう松藤。起きて早々悪いんだが明日から俺の友人がいる駐屯地に行かないといけないことになったんだ」


「へえ、それはお気をつけて」


「お前も行くんだよ」


「え?」


 起きて早々そんなことを言われてもなかなか理解ができない。え?俺も行くの?


「まあお前だけじゃなくて、小橋と後藤さんも連れて行くんだけどな。ここから車で4時間ほどの場所にあるから、流石に2人を置いていくわけにもいかないし、俺の友人がそれくらいの人数ならしばらくこっちで暮らしていいって言ってくれたんだ」


「はあ、なるほど。それでその駐屯地か行かないといけない理由は何です?」


 いきなり駐屯地に行くって言われてもその理由が想像できなかった。


「さっき話してたスキルアップの件だ。どうもそこの駐屯地のお偉いさんがスキルアップについて知りたいことが山ほどあるらしい。流石に断れるわけもなく、早急に来てほしいということで明日駐屯地に向かうことになったんだ」


「じゃあ俺はいろんな実験台になる可能性も?」


「ああ、当然そうなるかもな」


 ふざけんじゃねえよこのおっさん!

 なにが当然そうなるかもなだよ他人事みたいに!


「嫌ですよ!なんでそんなとこまで行って実験台にならなきゃ行けないんですか!」


「まあこれも国のためだろ。頑張ってくれ」


 くそ。この人がこんな屈強な男でなければ殴り飛ばしているところだ。やり返されるから絶対に出来ないけど。

 俺たちが口論していると小橋が横から口を挟んできた。


「いいじゃない別に。松藤くん男でしょ?たまにはビシッと男らしくしなさいよ。それに私そろそろ遠出したかったのよ。ここにいてもテレビ見るくらいしかすることないし」


「やかましいわ!」


 まったくこの女ときたら自分勝手でワガママなことだな!なんでこいつを助けに行ってしまったのか。俺のお人好しも大概だな。


 俺たちは突如決まった駐屯地への招集に備えて、その日の夜は早めに就寝することにした。

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